メッセージ(テニスコートでの事件)
ふたりが大学で再会して1年が過ぎた5月のこと。ひかるは、テニスサークルに所属するみさきを迎えに、テニスコートに赴いた。彼はコート脇のベンチに座ると、みさきの練習を見つめていた。
高いボールを受けようと背伸びするたび、ワンピースのテニスウエアの裾が持ち上がり、低い位置から見ているひかるの目にみさきの真っ白いアンダースコートが飛び込んできて、彼を釘付けにした。
みさきも、ひかるの視線を感じていた。いつもは堂々と振舞っていられるのに、今日はなぜかスカートが翻るたび、下半身が心もとない感じがして、ボールを逸らしがちになっていた。
「おつかれさま、なんだか見とれちゃった」
練習が終わってベンチに腰掛けたみさきに、ひかるがミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
「ありがと、なんだか今日は調子がわるいみたい・・・。ああ、のど渇いちゃった」
みさきは、ミネラルウオーターを一口飲むと、ラケットをしまうためペットボトルをひざの間に挟んだ。だが、ふとしたはずみでそれが自分のほうに倒してしまった。
幅のある平らなベンチにあふれだしたペットボトルの水は、その上を容赦なく広がり、みさきのアンダースコートやショーツをあっという間に濡らしていった。
「あ・・・」
みさきは声にならない声を上げた。自分のおしりに広がった冷たい感覚が、みさきの記憶の糸をたぐるように彼女の心を激しくたたいた。
「みさき、大丈夫?」
ひかるが声をかけると、みさきは急に動揺して目を伏せた。そして顔を上げたとき、彼女は目にうっすらと涙を浮かべていた。
「みさき・・・」
何が起こったのか分からず、ひかるが驚いて声をかけると、
「ごめんなさい・・・」
みさきはそう言い残して、更衣室へと走り去っていった。