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ユキコとシンスケ7

居酒屋につくとすでに10人くらいの男女が座っていた。

なんだか私は雰囲気にのまれてしまった。


あー来なきゃよかった。

私はなんだか暗い気持ちでその場に座っていた。


松山さんがコップを手に持って座っている横で、マユミさんが楽しそうに話をしていた。

「あれぇ~?あんた武田の元彼女じゃん!」

ふいに酔っぱらった男の人の声が聞こえた。すると一斉に視線が私に向けられた。

「かわいい顔なのに。武田の奴。本当可哀想なことするよな」

男の人はその手を私の肩に置きながらそう言った。かなり酔ってる感じだった。

鳥肌が立つのを感じだ。

そして周りの人の好奇な視線が嫌だった。

「金井!俺もカナエに振られた可哀想な男だ。文句あるか?」

そうテーブルの奥から声がした。視線が私から松山さんに向けられる。そして金井と呼ばれた男の人が手を私の肩から離した。

「まったくくだらないぜ。人の傷口えぐるのがそんなに楽しいかよ。久々にみんなと会えると思って参加したけど、参加しなきゃよかった。マユミ、俺は帰るからな。宮園さん。送っていくよ」

松山さんはそう言うと座敷から立ち上がり、私の方へ歩いてきた。そして茫然としてる私の腕を掴んだ。

「さあ、行こう」

私は松山さんに言われるまま立ち上がって部屋を出た。松山さんは無言だった。でも掴まれた腕から優しさが伝わってくるようだった。


「シートベルト締めて」

松山さんは助手席に私を乗せると車を出した。

「宮園さん、ごめん」

車を少し走らせてから松山さんはそう言った。

「俺の学校の奴ら、飲むと見境つかなくなるんだよ。嫌な思いさせたな」

松山さんは前を向いたまま言葉を続けた。

「俺達の気持ちは誰にもわからないよな。軽々しく可哀想だなんて」

それは松山さん自身のために言ってるように聞こえた。

私は何って言っていいかわからなかった。

ただ私に言われた言葉で松山さんも傷ついているのがわかった。


同じ傷を抱える私達。

私達の痛みは私達にしかわからないんだろう。


「今日は家まで送っていくから。この間みたいなことがあると悪いし」

松山さんはそう言った。

私はなんだかこのまま帰りたくなかった。

もっと松山さんと話がしたかった。

「松山さん」

気がつくとそう名前を呼んでいた。

「何?」

松山さんはハンドルを握りながらそう答える。

「もう少し、もう少し、一緒にいてもらってもいいですか?」

「‥いいけど。どこ行きたい?」

「駅前の桜並木‥。多分この時間だと誰もいないから」


私の予想通り、そこには誰もいなかった。

私達はコンビニでビールを買うとベンチに腰を降ろした。

なんだか胸がドキドキした。

隣にいる松山さんが眩しく感じられた。


「はい、どうぞ」

松山さんはそう言って缶コーヒーを渡した。私達は空を見上げた。都会の光のせいで星が見えなかった。ぼんやりと薄暗い空が広がっていた。

「宮園さん、やっぱり日本の空は遠いと思わないか」

缶をあおりながら松山さんはそう言った。

言われてみれば、あのシンガポールで見た空はもっと近かったような気がした。

「なんだかカナエ達のようだな。日本の遠い空はカナエ達のようだ。結局思いは届かなかった」

松山さんは笑った。でも悲しげな微笑みだった。

「毎日。どうにか生きてる。忘れたいけど。忘れられない。」

松山さんはそう言葉を紡いだ。

一緒だ。

そう、忘れられない。

あの柔らかな髪の感触、私に触れた唇。

穏やかな優しい瞳‥

今だに鮮明に思い出せる。

「やっぱり俺達は可哀想なのかな‥」

松山さんの自虐的なつぶやきに私は何も答えられなかった。



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