ユキコとシンスケ12
「よく来たわね」
ドアベルを鳴らすと嬉しそうなマイが出てきた。
久々に会うマイはすこし痩せているように見えた。
マイとは1年に何度が会っていた。
小さい子供がいるから頻繁ではなかったけど、お互いに時間が会えば会っていた。
「来てくれてよかったわ。明日から仕事始まるから今日会えなかったら、多分しばらく無理だった」
そう言いながらマイは家の中に私を案内した。
「これ、モンブラン。マイ好きだったでしょ?」
「うわあ。覚えてくれたんだ。ありがとう」
マイは満面の笑顔を浮かべるとケーキの入った箱を受け取った。
「お茶がいい?コーヒー?」
「あ、お茶お願い」
私はコタツに入りながらそう答えた。少し早い気がしたがコタツに入るとなんだか気持ちが温かくなった。
「早いと思ったんだけど。最近寒いから入れちゃった。旦那には変な顔されたけどね」
マイは笑いながらそう言って、急須と湯呑をお盆に乗せて持ってきた。
「仕事やめたんだっけ?」
「うん、まあね。」
「しょうがないよね」
マイには武田くんのことと色々あったことは話していた。
「だから、タカオには近づくなっていったのに」
マイは苦笑を浮かべながら湯呑にお茶を注いだ。
「まあ。しょうがないけど。で、なんか嬉しそうだけど何かあったの?」
マイの言葉に私はぎょっとマイを見た。
「大失恋に職を失って、すごい姿を想像していたけど。元気そうよね。新しい恋でもみつかったの?」
私は何も言えなかった。
そんな私をみてマイは笑った。
「恋はいっぱいしたほうがいいわよ。私は結婚しちゃったけど。もっと恋をしておけばよかったと思ってる。あ、ケーキ食べていい?」
「うん」
「あんたも食べるでしょ」
そう言いながらマイはキッチンに立った。そして食器棚からお皿を出しているのが見えた。
「今度こそ幸せになってほしいな。その人いい人?」
「うん。いい人。でも好きな人がいるの」
私は自然とマイにそう答えていた。
「そうかあ。また失恋か!でもちゃんと告白して振られたほうがいいわよ。後悔先立たずってやつだから。はい、ケーキ」
目の前でマイがおいしそうにモンブランを頬張っていた。
それを見ながら私は自分の気持ちを決めかねていた。
その夜、お風呂からあがるとメールが入っているのがわかった。
見ると松山さんからだった。
「こんばんは。明日の夜空いてる?ご飯どう?松山」
とメッセージが入っていた。
私はしばらく考えたあと、携帯電話を掴み、ボタンを押し始めた。
「メールありがとう。明日の夜は空いています。楽しみにしています。宮園ユキコ」
そう返信を返した後、濡れた髪のままベッドに横になった。
やっぱり好きになってしまった。
でもこれも報われない。
彼は今でも上杉さんのことが好きなはずだから。
でも今度こそ待たない。
だめなのはわかってるけど、自分の気持ちを伝えよう。
その後に何か見えてくるかもしれないから。