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婚約破棄クーデターで優雅な令嬢ライフ

掲載日:2026/09/20

自分なりに悪役令嬢を書いてみた結果です。

「ミリータリア・ブラッドベリ!国家反逆罪ならびに男爵令嬢アテウ・マリア・ソーダン嬢に対する殺人未遂により、ヴァカーデン国第1王太子たる私カイラ・イマリオネ・ヴァーカーとの婚約を破棄することを宣言する!」


周辺諸国の重鎮を招いた協議会のあとに催された親善パーティーの会場。


カイラ殿下は公爵令嬢ミリータリア・ブラッドベリに向かってそう宣言した。彼の左手は傍らのアテウ・マリア・ソーダン男爵令嬢の腰をしっかり抱いている。


戸惑うような人々の視線が、広間の中央で佇むミリータリアに注がれた。まだあどけない面立ちの美しい少女。


彼女は悲しそうな声でカイラに問うた。


「カイラ殿下。国王陛下の承認を受けた上でおっしゃっておりますの?」


「無論だ!」


「さようでございますか」


ミリータリアはごく自然な動作で、隣に控えた従者が差し出した拳銃を手に取るとカイラ殿下に発砲した。


正確なヘッドショット。


パンパンと弾倉が空になるまで銃撃は続き、頭が赤い風船のようになったカイラ殿下が床に崩れ落ちた。


「…………な、な、な、な、何?何?何????!?」


カイラ殿下の血と脳漿を顔に飛び散らせたアテウ・マリア嬢は、口元に手を当てワナワナと体を震わせ、意味不明な言葉の羅列をただ発していた。


その光景を呆然と見つめていた玉座の国王が我に返り、「衛兵!あの者を捕らえよ!」と叫ぶが、近衛兵は王の命に反し、王と王妃に近づくと素早く二人を拘束した。


「何をする!無礼であるぞ!」


驚いた国王が叫ぶが、近衛兵は冷静に告げた。


「ご抵抗なさらぬよう陛下。現在近衛隊の指揮権は将軍閣下に移管されております。」


ヴァカーデン国王はハッとして、広間に佇むヴァカーデン国将軍ムスメラ・ブラッドベリに視線を向けた。


軍の礼装に身を包んだ堂々たる体躯のムスメラ・ブラッドベリ将軍。その視線は王を捉えていたが、表情からは何の感情も読み取れない。


いつのまにか王の近しい側近達は全て衛兵に拘束されていた。


「軍部に開発させた自動拳銃も使い勝手が好くなってまいりましたわね」


己の婚約者を射殺した令嬢ミリータリアは、誰に聞かせるともなくボソリと呟いた。


手慣れた動作で空になったマガジンを交換する。


設計上は19世紀末のFN M1900に近い銃。


自身でカスタムを重ね、今ではしっくりと手に馴染む。




「お父様。戒厳令の宣言を」


この日ヴァカーデン国の歴史は大きく動いた。







この世界は前世で読んだWEB小説「追放された悪役令嬢は辺境で保存食を作ります☆」であり、自分は主人公ミリータリアである。彼女は5歳の時にそれを自覚した。


原作は、日々の暮らしを愛するゆるフワ令嬢ミリータリアが、トンチキ王太子に言いがかりで婚約破棄を言い渡され、辺境別荘地に引きこもり、DIYをしたり、ドレスをリメイクして街で流行らせたり、ジャムやオイル漬けで村興しをしたりして、最終的に街のアンテナショップの魔法鏡で暮らしぶりの配信を行ったりして、マウント合戦に疲れた貴族女性を続々と信者にしていくスローライフものだ。


ミリータリアの前世は、可愛い雑貨とカフェ巡り、そして女性向けWEB小説が大好きな日本人であった。


WEB小説の中でも特に令嬢ものは好物で、溺愛、ざまぁ、お気楽ライフ、何でも美味しくいただいていた。


ちょっぴりイレギュラーな部分があるとしたら、彼女の前世が某自衛隊某第1空挺団某隊幹部であり、ゴリマッチョな男であったことくらいであろうか。


筋トレや各種軍事関連諸々も趣味ではあったが、やはり可愛いものや優雅なものにこそ心が躍る。


そんな人間が、ゆるフワ令嬢スローライフ異世界転生だ。


人生の前半でスタンダードな貴族令嬢ライフ。婚約破棄された人生の後半で暮らし系令嬢ライフ。


一粒で二度美味しい。


ドレスも、お茶会も、DIYも、田舎暮らしも、梅仕事も好物だ。


つつましく生き、国に殉じた1人の漢の来世が異世界令嬢ライフでもいいではないか。


ミリータリアは、今後待ち受ける言いがかり婚約破棄イベントをポジティブに受け止め、心待ちにした。


ところがである。


シナリオに異変が起こる。


原作小説では描かれなかったヤバタン連合帝国というものが、隣国に爆誕した。


ミリータリアが生きるヴァカーデン国の東側には、幾つかの小さな国と、特殊な風習を持つ様々な部族がひしめき合う、カオスで広大なエリアが広がっている。


これらの国や民族を一方的な侵略行為で統一したのが、ヤバタン連合帝国である。


ヤバタン連合帝国は「民族を超越した新たなる人類共同体」とかいう壮大な理念を掲げている一方で、実態は独裁者を神格化したカルト軍事国家だ。


(こんな国は原作にございませんわよ……???)


ミリータリア9歳時の出来事である。


婚約破棄イベント後に引きこもる予定のブラッドベリ家所有の辺境別荘地は、ウォーカー国東部。


ヤバタン連合帝国に繋がる山間の盆地だ。


既にその場所は、ヴァカーデン国とヤバタン連合帝国がそれぞれ駐軍して、緊張状態にあると聞く。


有事の際は、バチバチのセンシティブ戦線になる未来しか見えない。


イレギュラーというより原作世界崩壊である。


ミリータリアは絶望した。


(あの土地での……スローライフは……潰えましたわ。

このままだと「徴兵された悪役令嬢は国境でレーションを作ります★」

なんてシナリオになってしまいます……)


ミリータリアは、ドレスにお茶会、流行りのお菓子、刺繍に観劇、徒花のような貴族令嬢の愚かしいマウント合戦すら、愛していた。(もちろん深刻ないじめはいけませんことよ? ミリータリア談)


貴族令嬢ライフも暮らし系令嬢ライフも、政治経済が安定し、国民の可処分所得が十分にある爛熟した世界でこそ楽しむことが出来るお花畑である。


ことヤバタン連合帝国について、ヴァカーデン王室は国家の生存戦略を何も考えていないように見えた。


軽率にヤバタン連合帝国と交流を始めようとしているし、国内統治にしても、損切りできず、フレンド枠の貴族にいい顔をするための施策を打ち出しすぎる。


(国政が荒れたら素敵ライフじゃなくなりますのよ! バカバカバカ!)


ということで、ミリータリアはひとまず己が目指す令嬢ライフを確保する地固めに舵を取ることにした。


いずれ婚約破棄イベントが待っているとはいえ、ミリータリアはヴァカーデン国将軍ムスメラ・ブラッドベリ公爵を父に持ち、8歳の時には第1王太子カイラ殿下の婚約者に収まっている。


立場的には強い。


原作世界が破綻したのなら、今後はシナリオ通りとは行かないのではないだろうか。


戦いは己の手札を把握し、内部の補強から。


まずミリータリアは、転生前の記憶が蘇った時に初めて目にした己のスキルを、父に開示した。


名前:ミリータリア・ブラッドベリ


特殊スキル:護国


スキル:戦略眼


スキル:統合作戦指揮


スキル:兵站管理


スキル:危機管理


スキル:爆発物処理


スキル:スナイプ


スキル:近接戦(ナイフ使用時にアジリティ+10)


スキル:特殊車両運転


本人希望欄:素敵な令嬢になりたい


備考欄:SSS以外のスキルは割愛



正直やりたくなかった。


この世界の人間のスキルは、本人が隠したければ隠せるのだ。


この異世界では、スキルが天与の祝福であり呪縛である。


スキルの中に魔力や様々な技能が無限に存在するのだ。


眼前に開示された娘のスキルシートを見たヴァカーデン国将軍ムスメラ・ブラッドベリは泣いていた。


主に感激して。


「聞いたことがないけど、特殊スキル『護国』凄くない? 国を守ってくれちゃうの? あと何このドリーム軍人スキル!! ミリたん……しゅき……!」


父とはまだ10年に満たない付き合いであるが、圧倒的強者ともいうべき雄的生物に攫われたい、飲み込まれたい、体感したいという精神を持っていることをミリータリアは知っている。


(前世の同僚にもいましたもの。強き雄が強き雄に惹かれるのは漢の証……。

いけない! 思考が令嬢から離れましたわ。)


幸い、魔法だの精霊の加護だの固有スキルだのが当たり前に飛び交う異世界であるので、9歳の子供が成人を凌駕する知識見識実行力を兼ね備えていても、異端ではあれど「ありえない」とまでは扱われない。


それからは、ブラッドベリ家の家産増産計画、国内外の情勢、政治経済の把握、国軍の予算編成に至るまで、父が助けを欲しそうな部分を片っ端から拾い、来たるべき日に備えた。


ミリータリアを、ブラッドベリ家が失うわけにはいかない人材だと周囲に認識させるためだ。


追放イベントが起きてもフォローができるよう、信頼出来る貴族とも交流を持ち、味方を作り、己の手駒を補強する。


王宮と怪しげな貴族の周辺には息のかかった人間を各所に忍ばせ、動向を監視。


危機管理の原則である。


ヴァカーデン王については、善政を敷いているとは言えないが、最悪なことをしない程度と、この頃のミリータリアは評価していた。


婚約者のカイラ殿下とミリータリアは定期的に交流を持っていたし、関係も悪くはなかった。


カイラ殿下は、みんなを信頼して任せることが王の仕事さ! という程度に無策で受け身な方で、至らない部分を自助努力で埋める発想は絞っても出てこない他力本願な方ではあったが、上辺だけでも聞く耳はあったのだ。


ミリータリアがそれとなく伝えるアドバイスを理解はせずともウンウンと頷いては下さったし、神輿のてっぺんの飾りとしてハンドリングが出来るのならば、まだ悪くは無かった。


ミリータリアとカイラ殿下が通うノーブル学園に、原作通りアテウ・マリア・ソーダン男爵令嬢が入学してきてからは、転がり落ちるように状況は悪くなっていった。


もちろん前世の記憶により、ミリータリアはWEB小説の登場人物アテウ・マリア・ソーダン嬢についても調査をしていた。


だが、その時点でソーダン男爵家にアテウ・マリアという令嬢は存在していなかった。


ソーダン家の親戚筋を調査しても、カイラ殿下と学園で恋に落ちることが可能な年齢の少女がいないのだ。


しかし、アテウ・マリア嬢は学園に現れた。


ソーダン男爵の再婚相手の連れ子として。


再婚相手は、老衰で死亡した友好国伯爵の元愛人。


何と国外! 見つからないはずである。


シナリオの強制力怖い。


ミリータリアは、アテウ・マリア嬢の動向を見守った。


婚外子とはいえ、名目上は友好国貴族の娘である。


下手は打てない。


原作にないヤバタン連合帝国の事もある。


未来は不確定だ。


アテウ・マリア嬢は、華やかで人目を引くという程では無い、普通に可愛らしい少女であった。


よく見ると手足や首がほっそりして、ウエストも細いのに、つくべきところにはしっかりといいお肉がついているタイプである。


彼女は、これまたごく普通に周りの人間と仲良くなっていった。


誰にでも優しく人気者! というコミュ強タイプでも無い。


ただ彼女は、何をしても、どんな会話でも、他の人間より自分がより親しいと相手に勘違いをさせる何かがあった。


老若男女問わず誰にでも。


一度話しただけで、大概の人間は彼女とフラットで対等な関係を築けているように思えてくるのだ。


そんな具合で、アテウ・マリア嬢は学園で静かにモテた。


女性に対して気後れをしてしまう男子には特に。


学園の幾人かの男子はつきまといのような行為を行い、アテウ・マリア嬢はしばしば頭を悩ませるようになった。


しつこく言い寄る男性の中には、アテウ・マリア嬢が無下に出来ない上位貴族の子息もいる。


アテウ・マリア嬢が困りごとを相談した友人の伝手で、最終的にカイラ殿下がアテウ・マリア嬢に助け舟を出すことになった。


王太子の僕ちんの命令だから引き取ってね、という労力ゼロの権力行使を行なったのである。


問題は速やかに収束し、アテウ・マリア嬢にはカイラ殿下が王子様に見えたはずだ。


実際、王子である。


そこからはシナリオ通りに展開した。


カイラ殿下は元々気が多く、過去にも熱病のように女性を好きになることがあった。


しかし王太子として最低限の弁えた振る舞いは維持できていたので、ミリータリアは問題にしていなかった。


だが、アテウ・マリア嬢はあっさりとその箍をカイラ殿下に外させた。


2人は学園内で人目を気にせずに親密な時間を過ごすようになった。


シンプルにバカップルな振る舞いが目立つようになったと言い換えても良い。


鷹揚で様々な物事は人に任せてしまうカイラ殿下は、悪い意味で能動的になっていった。


思いつきで国策に口を出したり、王宮内の気に入らない人間を排除するようになった。


並行するように、国王陛下の振る舞いもカイラ殿下のように狭量に、どこかおかしくなっていった。


誰がどう見てもヤバタン連合帝国の息がかかった東部の貴族達を、次々と引き立て、重用し始める。


何か狂っていた。


ミリータリアが学園を卒業する直前には、状況は更に酷くなった。


最高会議の宰相や財務総監ら要職の人間が王命で解任された。


残った人間はイエスマン、もしくはあからさまにヤバタン連合帝国の息がかかった貴族たちである。


時を同じくして、国庫の不正支出を指摘した文官が横領罪により一方的な裁判で処刑、王室に多額の貸し付けをしていた商人も、謎の言いがかりで投獄、処刑された。


剣呑な空気が流れる中、ヤバタン連合帝国北部の内乱制圧に援軍を派遣するよう、ブラッドベリ将軍に王命が下る。


ヤバタン連合帝国北部には、元々勇猛な山岳民族で構成される小さな国があった。


ヤバタンは最もえげつない手段で彼らを侵略し、おぞましい辱めを含む手段で彼らをコントロールしてきた。


定期的に内乱が起こるのは当たり前である。


そんなものに援軍を派遣するのは不利益極まりない。


この王命は、ミリータリアの入れ知恵で周辺諸国と取り決めた条約を持ち出し、回避出来た。


ちなみに5年前に締結された条約の素案を作ったのはミリータリアである。


この援軍要請自体は、父ブラッドベリ将軍に対するロイヤルテストのはずだ。


近いうちに何らかの動きがあるだろう。


その後、内通者により、国王と王太子、側近の貴族によりブラッドベリ将軍を更迭する計画が進んでいるとの情報がもたらされた。


予想範囲内だ。


その計画には、カイラ王子とミリータリアの婚約破棄イベントも含まれていた。


カイラ殿下は、出来るだけ早く身も心もアテウ・マリア嬢といちゃつきたいのだろう。


準備を早めなければならない。


「王室は堕しましたわ。お父様」


「そのようだな」


父娘の意見は一致した。






そんなこんなで婚約破棄イベントを迎え、やり過ごし、現在。


ヴァカーデン国軍参謀本部の執務室で、ミリータリアはお気に入りの紅茶を楽しんでいた。


茶器はブラッドベリ家から持ち込んだお気に入りのものだ。


お茶や精油の中には、魂を持っていかれるような素晴らしいものがある。


そういったものを見つけ愛でるのも、ミリータリアのいくつかある令嬢らしい趣味のひとつだ。


あの婚約破棄破棄イベントから2週間が過ぎている。


父であるブラッドベリ将軍と娘のミリータリアは、クーデターの首謀者ということになっていた。


実際そうなのだが。


ヴァカーデン国では新政府が発足し、周辺諸国はこの新政府を支持する意向を表明した。


真の「協議会」で密約された取り決め通りだ。


「ミリー。休憩中にすまないが、いいかい?」


ヴァカーデン国暫定政府総裁に就任した父ムスメラ・ブラッドベリが、執務室にやってきた。


配下の兵士を2名引き連れている。


「どうなさいましたのお父様」


「ヤバタンとの国境付近の駐軍について意見を聞きたくてね」


「令嬢に聞く事柄ではなくてよ」


素敵なティータイムが台無しである。


「通常の令嬢は参謀本部に詰めたりしないものだよ、ミリー。もっとも、わが娘がこの国でもっとも美しく優れた令嬢であることは変わり無いがね」


臆面もなく娘ラブなセリフをサラリと述べる父親に、仕方ないと言った顔でミリータリアは渡された書類を手に取った。


スキルなのか前世の知識なのか……。


ミリータリアには、平素より収集した情報と提示された情報が噛み合った時、最適化された正しい道がはっきりと見える時がある。


おそらく組織内部では気が付きにくい兵站の問題点と改善案を提示すると、父に付き従う2名の兵士はハッと表情を引き締めた。


「さすがでございます閣下!」


「ヴァカーデン国創世神ヴァカーボンタニウス様が遣わした戦乙女という神託は真であると確信しました!」


そんなスピリチュアル系の噂まで出ているとは知らなかった。


どこに注意喚起をすべきなのだろうとミリータリアは考える。


魔法がまかり通る世界であるが、魔力で判定不可な神は幾らでも湧いて出る。


政情が不安定になると、カルトもオカルトも跋扈するものだ。


ある程度はガス抜きとして許容するが、珍妙な成長を遂げないよう法整備で首輪を付けることも、いずれ必要だろう。


「ミリー。我が軍の精鋭たちがおまえに稽古をつけて欲しいとしつこくてね。最近書類仕事ばかりをわたくしが押し付けてしまったから、体が訛っているようだし、気分転換にどうかな?」


父の配下の2人も、目をキラキラさせてコクコクと頷いている。


彼らは二人とも、女性向け異世界ファンタジーの登場人物として遜色無い超絶美形なキラキラ男性である。


兵士なのに無駄に髪が長いのは、異世界の仕様だ。


(確かにわたくし……スキルで500㎏相当ウェイトの猛者として戦えますけど? 多分CQCでも北部の最大級のヒグマレベルを倒せますけど??


……ですけど。


わたくしは素敵な令嬢ライフを送りたかっただけで、素敵な男子と近接戦闘訓練をしたい訳ではありませんのに。)


午後の訓練を約束すると、父と2人の兵士はおとなしく退室した。


ミリータリアは書類から目を泳がせ、思索にふける。


アテウ・マリア・ソーダン嬢は、その後の調査により、ソーダン男爵家と縁組の際、強制的に行なわれた儀式で特殊な存在と契約を交わしたことが判明した。


その契約の恩恵は「特殊スキル付与」であり、彼女に与えられたスキルは「傾国」であった。


儀式を執り行ったのはヤバタン連合帝国幹部であると、ソーダン男爵は陳述している。


ミリータリアの持つ「護国」と対を成すスキル。


特殊な存在とは?


問うても、調査した魔法庁の高位術者は「神や精霊に近いとしかいいようがないのです。我らが扱う魔術体系とかけ離れた何らかのモノとしか……」と言葉を濁した。


ミリータリアがこの世界に転生したことに、関わりがあるのだろうか。


考えても答えは出ない。


それよりも目の前の問題だ。


新政府は父と周囲の協力で立ち行くはずだ。


いや、立ち行かせてみせる。


それでこそ、ミリータリアの素敵な令嬢ライフが実現するのだ。


頭を悩ませることはいくつかある。


最近、軍属の屈強な男性陣から妙に熱い視線を投げかけられたり、求婚されたりして困る。


ミリータリア様に抱かれ隊も存在していると聞く。(設立メンバーを見つけたら潰す。)


元が男子であるだけに、ざわざわするのだ。


カイラ殿下が真っ当な王様に即位するならば、ミリータリアも貴族令嬢として夜の奉職も頑張るつもりではあったが、基本ざわざわするのだ。


父はミリータリアを溺愛している。


軍属の男性陣もミリータリアに心酔している。


志を共にして動いて来た、年若い貴族の男性陣からも妙に熱いお手紙を贈られるようになった。


これは溺愛ハーレムルート……?


いやいやいや。


わたくしの思い描く令嬢ライフは、暮らしの彩りの中にありますの。


恋愛は入っていませんの。


更に頭を悩ませていることとして、ヤバタン連合帝国の皇帝から私的な手紙が届くようになった。


国交樹立についての何だかネチネチしたお気持ちと、ミリータリアを賞賛するようなことが書いてある。


妙にくどい言い回しに、前世の防衛大学校で一緒だったナカムラを思い出す。


ナカムラは、前世のゴリマッチョであったミリータリアを一方的に偏愛していると、元同期に忠告がてら言われたことがある。


確かに、やたら意味もなく絡んできた男だ。


ナカムラは、どうかしているほど頭が良くてエリートコースまっしぐらだった。


向こうで息災だろうか。


ナカムラのように倫理と知性の制約に切り取り線が入った奴なら、思想はイカれているのに戦略がキレッキレのヤバタン連合帝国のような国を興すことは可能かもしれない。


ヤバタン連合帝国は、どう見てもカルト軍事国家だが、皇帝自身はごく冷静に過程と結果をデザインしているように思える。


何故だろう。


最近、頻繁にナカムラを思い出す。


……いけない! 口調が令嬢から離れてしまいましたわ。


気を取り直し、参謀本部の窓辺に立ち、外の景色を眺めた。


中央の広場では、鍛え上げられた兵士達が自主トレを行なっている。


異世界の男性は皆、素晴らしく見目麗しい。


しかし、そこはミリータリアの望むところではない。


窓辺のミリータリアの視線を感じた彼らの動きが、心なしかきびきびしている気がする。


ミリータリアは心の中で述懐する。


婚約破棄の断罪シーンで、政治的判断により、つい王太子を射殺してしまいましたけれど?


カイラ殿下の特殊スキルを防ぐためには仕方が無かったのです。


あの方のスキルは「令」。


ヴァカーデン国王に即位すれば使用できたはず。


王として宣言をすれば、その支配下にある国民全てを洗脳に近い形で意のままに従わせる事を可能にする、為政者として最強のスキルの一つ。


愚政者が持てば地獄を生む最悪のスキルの一つ。


王室に危機が訪れる時期にこのスキルを持つ者が生まれると聞きます。


カイラ殿下を生かしておいて、うっかり王に即位させる訳にはまいりません。


改めて考えても、カイラ殿下のお命を頂戴したのは正解だったと思います。


「傾国」に侵食された「令」スキルなど、滅するしかございませんものね。


わたくしは「護国」のスキルにより、人様のスキルは概ね読み取れますけれど、アテウ・マリア様の「傾国」スキルは読み取れませんでした。


なぜでしょう。何らかの力でプロテクトされていたのか、真逆のスキル同士はお互いに分からないものかもしれません。


もっとも、アテウ・マリア様は己のスキルに無自覚でしたし、魂というものの核を抜かれていたと聞きます。


国を背負うということは、纏わる血も呪いも背負うこと……って違いました。


わたくしは令嬢! 素敵な令嬢!


今後の国を背負うのは、お父様と周りの方々です!!


当初の目標から大分まわり道をしています。


この国をしっかり安定させた暁には、素敵な令嬢として今後の人生をまっとうしてみせますわ。


近接戦闘訓練を殿方に申し込まれないような令嬢に……!


ミリータリアはテーブルにつき、ティーコゼーを外したポットから、空になったカップに紅茶を注ぎ入れた。







もちろん本人以外は、ミリータリアがそのような人生を送るとは思っていない。

最後まで読んでいただき!ありがとうございます!

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