第一話:残念な造物主とブックマーク3件の地獄
荒れ果てた土の山。
容赦のない日差しが降り注ぎ、
地面から立ち上る熱気が景色を歪ませていた。
アキラは、
背骨がへし折れそうなほど重い荷物を背負い、
滝のような汗を流しながら乾いた土を踏みしめていた。
足取りはフラフラで、
勇者――ユウマの背中を追うのが精一杯だ。
「おい、クズ作家。さっさと歩け。日が暮れるぞ」
ユウマが足を止め、
わずかに首を巡らせる。
かつては英気溢れるはずだったその端正な顔立ちは、
今や軽蔑の色に染まっていた。
「書く小説がゴミなら、体力までゴミ以下か?」
アキラは喘ぎながら顔を上げた。
胸の内に不満が込み上げたが、
それはすぐに力なく消えた。
——そうだ。
自分はこの世界の「神」であり、
ユウマの運命を綴った者だ。
だが今の自分は、
ただの無様な荷物持ちに過ぎない。
「……こんなに性格の悪いキャラに設定した覚え、
ないんだけどな……」
喉の奥で卑屈に呟く。
ユウマの耳がピクリと動き、
冷笑を浮かべた。
アキラには分かっていた。
ユウマの恨みは、
あまりにも正当だ。
流行に乗るためにキーボードを叩き、
ユウマに「悲劇のフルコース」を与えたのはアキラ自身なのだから。
婚約者の裏切り、
パーティからの追放、
四面楚歌の孤独。
さらに元のプロットでは、
得体の知れない「世界平和」のために魔王と相打ちにさせるつもりだった。
自分の人生が、
どこかのオタクがアクセス数を稼ぐために作った「お涙頂戴のセットメニュー」だと知れば、
その場で「造物主」を斬り殺さなかっただけ、
勇者の最後の慈悲と言えるだろう。
「……やっぱり、あんな惨い目に遭えば、
性格もひん曲がるのがリアリティだよな」
その言葉は、口には出さない。
ただ、どこか言葉にできない感情を抱えたまま、
ユウマの背中を見つめた。
◇ ◆ ◇ ◆
夜。
厚い雲が月を覆い隠す。
アキラの足が遅かったせいで、
村には辿り着けず、
山中で野営することになった。
焚き火がパチパチと音を立てる。
ユウマは火の傍らに座り、
険しい表情で砥石を剣に滑らせていた。
金属の擦れる音が、
静まり返った森に鋭く響く。
その時。
ユウマの視線が、こちらに向く。
「なあ。あの『小説家になろう』ってやつ——
俺の人気、どうなんだ?」
アキラの身体が固まる。
視線を逸らし、
声が震えた。
「ブックマークは……3件だ。
一日のPVはだいたい10くらいかな。」
「その半分は、
僕が誤字脱字チェックのために自分でクリックしたやつだけど。」
「……僕みたいな新人は、
そう簡単に数字は稼げないんだよ」
「じゃあ『カクヨム』は?」
「あっちには評価システムがあるんだろ。
作家同士の交流も盛んなんだろう?」
ユウマの声が低くなり、
最後の一縷の望みを懸けているようだった。
アキラは頭をさらに深く下げ、
泥の中に潜り込みたい気分だった。
「フォローは……5件。
評価の星は12個だ……。」
「……それも、自主企画で親切な人が、
お情けでくれた評価だよ。」
「僕は人見知りだから、
他人の作品にコメントを残しに行くのが苦手なんだ。」
「……自分から営業に行かないと、
誰も見てくれないんだよ」
——カン。
ユウマの手が止まる。
額に青筋が浮かんだ。
ゆっくり立ち上がる。
「この、クソ野郎――ッ!」
「つまり、俺の物語を本当に見てる奴は、
一人もいないってことか!?」
ユウマは指を突きつける。
「筆力が凡庸だから追放モノのテンプレに頼り、
性格が陰湿だから俺を不幸のどん底に叩き落とす!」
「そんな喋ることもまともにできない陰キャが、
なんで小説家なんて目指したんだ!」
アキラは地べたにへたり込み、
燃え盛る怒りの瞳から目を逸らした。
「……それは……創作が好きだからだよ。」
「僕の頭の中にある世界を、形にしてみたかったんだ……」
「好きだからだと?」
ユウマが笑う。
冷たい笑いだ。
「貴様の『好き』の結果がこれか!
俺にとっては地獄だ!」」
「書くならもっと面白く書け!
世界中を俺に熱狂させてみせろ!」
「貴様のその半端な『好き』は、
この世界に対する冒涜だ!」
焚き火の音だけが響く。
アキラは何も言えない。
どうせ悲劇なら——
せめて、誰かに見てほしい。
だがユウマの人生は。
五件のブックマーク。
——それだけだ。
読者すら、いない。
アキラは俯いたまま。
作品にも見放され、
キャラクターにも憎まれ、
自分の価値が、
分からなくなっていた。
※PVデータなどは、連載中の長篇『サキュバス・ディレクターズ・カット!』を参考にしています
※主人公の名前はアキラですが、僕とは別人です。
※断じて別人です。
※……繰り返しますが、本作は「完全なるフィクション」ですので。
最後までお読みいただきありがとうございます。




