第9話 ゼストリア公主との対面
ワイバーンが降下していく場所は、城らしき建物の脇。そこが終着点らしく、シュートの手綱捌きで『どーどー』と言いながら降り立つと、騎士ではない人間たちがこちらにやってきた。格好から察するに、魔物を預かるための飼育員か誰かだろう。ルチャルはシュスイという契約精霊がいるため、魔物に騎乗する機会はあまりなかった。今回が久しぶりと言うくらいに。
「ルチャル、こっちだ」
飼育員の手を借りて降りたあと、ひょいっと自分だけで降りたシュートに呼ばれたのでついていく。城の構造はセルディアス以外特に知らないルチャルでも、石造りの城は戦いに強いところだったと理解出来た。シュートが通り過ぎる場所とかが主に、戦火の印と言わんばかりな爪痕がいくつか見られたからだ。
廊下の角をいくつか過ぎ、簡素な石造りから少し豪奢なそれに変わっていくにつれ……もしかして、いきなり君主に対面させられるのかとルチャルもさすがに緊張してきた。近衛騎士のシュートだから、顔パスとやらがあるのかもしれない。
こんなときはシュートの服の裾を握りたい気分になるが、『使者』として来たからにはそれなりに堂々としていなくては。子どもだからって、そこは甘え過ぎてはいけない。そう自分に言い聞かせてやると、シュートがいきなり止まった。ぶつかりそうになるのを避け、少し手前で止まると彼はノックもなしに扉を開け放つ。
「ガイウス!! 聞いてくれ!!」
ルチャルが少し耳を塞ぎたくなるくらいの大声だったが、中から同時にがっと何かが投げてくる音が聞こえてきた。なんとなく、左に避けたら……さっきまでいたところに文鎮が飛んできた。この光景は、話に聞いていたセルディアス王家では『普通』のやり取り。しかし、ここは他国なうえにルチャルは子どもなので、危ないですまなかった。
「……やかましい。徹夜明けにうるさい」
静かなのに、焔のような温かみを感じる声だ。ただし、本当に寝起きなのか不機嫌さはルチャルにもわかるくらいだったが。
そぉっと、シュートの後ろから覗いてみると、ローブを着た若い青年が執務机で物を投げた姿勢でいた。ゆるく波打つ蒼い髪に、銀の目を持つなかなかに整った顔立ち。公主かどうかはわからないが、それにしてはかなり若い気がした。ザイルくらいではないだろうかと勝手に思うくらいに。
「まーた、徹夜してたのかよ?」
「民のためだ。軽い徹夜くらい許せ」
「その民のために、お前が倒れたら意味ないだろ? ろくに飯も食ってねぇな」
「空腹は多少我慢できる」
「酒断ちじゃねぇんだから、俺よりよかねぇ」
「あの……。シュートさん、この人は?」
「ん? 子ども?」
ガイウスと呼ばれた青年は、今頃ルチャルに気づいたらしい。目が合うと、後ろに投げた文鎮を思い出したのかさっとこちらに飛びつくように距離を詰めてきた。その表情は心配そのもの。
「?」
「すまない! シュートだけかと思い、いつものように応じてしまった。ケガは?」
「ないです」
「……それはよかった。シュート、客人がいるのならきちんと言え!」
「言いかけたときに投げてただろうが」
「……私のせいか。お嬢さん、どこかの家の使いの者かい?」
「いえ。他所の国から来ました!! セルディアスからの使者です!!」
仕舞っていた紹介状を彼の前に出すと、ガイウスはルチャルと紹介状を交互に見た。そして、受け取っていいかの確認を取ったので差し出せば、すぐに封を開けた。やはり、この青年はこの国でも重要人物なのが窺えた。
「……セルディアス王家から、わざわざ片田舎のうちに? シュライゼン陛下……噂は本当だったのか?」
「現公主のお前のとこに、一番に連れてきたんだ。さっきは関所にいたんだが」
「……そうか。使者殿、私が公主のガイウス=シルド=ゼストリアと申します。紹介状の内容を確認したが、我が国のパンのレシピを改善してくださると?」
「はい!」
『わちしの主なんだ。酷い扱いしたら承知せんぞ』
我慢できなかったシュスイも出てきて、ふたり揃って挨拶をした。こんなにも若い青年が公主なのは予想外だったが、話を通してもらえるように連れてきてくれたシュートには感謝だ。ふたりは幼馴染みらしく、公私ともに口の利き方はだいたいこんな感じらしかった。
次回は土曜日〜




