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パン職人の弟子の弟子。スローライフの旅へ出発  作者: 櫛田こころ


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8/8

第8話 騎士の登場

 ルチャルは子どもらしい素振りで、兵士に紹介状を渡そうとしただけなのだが。


 やはり、封蝋の色とデザインを見て、『畏れ多い』と思われてしまったかもしれない。救世の国『セルディアス』の国王だけが許されている封蝋。その実物を知っているとなれば、持っていたのが幼い子どもでも只者ではないと判断したのか。


 どうしようかと、ルチャルがザイルに目配せしようとしたとき。奥の方から誰かがやってくる声が聞こえてきた。



「なにしてんだ? あいつが来たんなら、次のやつに順番回してやれよ」



 兵士にしては少し凝ったデザインの服装を着た男性だった。仮眠でもとっていたのか、軽くあくびをしながら入ってきたうえに機嫌が悪そうだ。淡い緑の目が綺麗なのにもったいない。


 ただ、言動から察するにザイルの知り合いかと振り返れば、『あ』と口を開けていた。



「シュート!? こんな端にまで来てたのかよ!?」

「うっせ!! 二日酔いの頭に響く……デカい声だすな」

「……また自棄酒か?」

「個人の勝手だ。んで? 試験受けに寄るのは聞いてたが、ほかになにが」

「ん」



 ザイルがルチャルの肩を軽く叩くと、ルチャルはシュートの前に紹介状を差し出してみた。彼はなんのことだとルチャルと紹介状に目配せしてくれたが、封蠟の箇所を見るとぎょっとしたように目を丸くした。



「……おいおい。セルディアスの国王陛下からの紹介状?? その嬢ちゃんがなんでまた?」

「偉い人に持って行ってって、陛下には言われました~」

「言われました……って、子どもの遊びじゃないんだが?」

「この子。セルディアスで言えば、俺と同等のランクになる『職人』だぜ?」

「は?」

「師匠に言われて、派遣された弟子のひとりですー」

「……ちょっと、お嬢ちゃんとザイル。こっち来い」



 紹介状を受け取りはしなかったが、ザイルのマントを引っ張るシュートにルチャルもついていくことにした。念話でシュスイから大丈夫かと聞かれたが、多分問題はないだろうとルチャルは返事をしてやる。


 出来るだけ置いてかれないように早足でついていけば、ひとつの部屋の鍵をシュートが開けてくれた。ザイルと中に入るように言われると、彼を放り投げるように離したシュートは大袈裟なくらいにため息を吐く。



「……あたし。変なこと言いました?」



 態と、わかっていないフリをしてみたが、シュートはさらに息を吐くだけだ。



「……セルディアスから派遣されたなんて噂。マジもんだったのかよ」

「お前、知ってたのか?」

「近衛騎士あたりくらいなら、な。俺がたまたま今日の上官だったからって……マジで、そん中の弟子がうちに?」

「ルチャル=クラスターでーす!」

「……シュート=アイバーンだ。ザイルが証明しているなら、本物なんだな」

「うんまいパン食わせてもらえた!」

「くっそ!! うらやま……じゃなくて。ルチャル嬢は我がゼストリア公国へ派遣されたと?」

「自分の意志でここに。どこへ向かうのではなく、【レシピ改善】があたしたちの使命だから」



 自分が子どもだから。


 今まで食べたことのない『パン』を知らない子どもたちが多くいるのは当然。特に、ライ麦パンが主食のところだとやわらかさが特徴の『白パン』を知らないケースが多いと祖はルチャルに教えてくれたのだ。


 出立前に各地の伝承等を調べた上で、ゼストリア公国を目指したのはそのため。ただの出だしに過ぎない。


 ふたりにもそれを告げれば、なるほどと言わんばかりに息を吐かれた。



「……ザイルよか大人じゃねぇか?」

「それ。シュートも言えるか?」

「まあまあ。あたしとザイルが途中で出会ったのはたまたまなので」

「しっかし。『枯渇の悪食』の影響がまだ強く残っているこの国にか? それは有難いんだが……俺が連れてっていいのか? ザイル」

「近衛騎士のお前ならいいだろ? 俺は俺で試験があっし」

「……わかった。ルチャル嬢、こいつと別行動になるのは特に問題ないと?」

「ルチャルでいいですよ~? 職人なの以外ただの子どもなので」

「……物わかり良過ぎないか?」

「内面、割と大人なんだよなあ……話しやすいぜ?」

「……わかった。ルチャル、ちょうど俺のワイバーンを待機させてあるからいっしょに来てくれ。城に行こう」

「はーい。ザイル、またね~」

「おう。終わったら、そっち行く」

「うん」



 段取りがだいたい決まったので、ここでザイルとは別行動をとることになったのだった。


 関所の反対側にシュートと向かえば、たしかに小柄な竜のような魔物が待機していた。ルチャルにはシュスイがいるのだが、ここはここで甘えておこうと念話で騒ぐ彼女を押さえておく。シュートに誘導され、彼の足の間に座らされたのも安全のためだとわかり、見た目によらずと感心した。

次回は木曜日〜

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