第7話 壮年の弟子と、少年弟子①
一度叶わないと思っていた『夢』を叶えたいと思ったのが、きっかけだった。
(年を経てから叶うきっかけをいただけるとは思わないでいたが……)
ラスティン=ファウストは、セルディアスから出立した職人の職業を持つ三世代目と呼ばれる弟子たちの中では一番年上。
なにせ、彼が望んでいた異能の付与が可能となったのは、ラスティンがセルディアス城の近習として勤めてから二十年も経ったあとなのだから。
仕えるべき、国王陛下の姪御が二代目を継いだあとくらいだったろうか。世界の礎を司る神が『リーシャ=コルク=アルフガーノ』伯爵夫人となった彼女へ、自身の異能を他者へ幾らか付与することを許したのはここ十年と少し。
それなりに家格のある人材として優秀だったラスティンだったが、その機会を逃せばやり残して死んでいくのと同じだと、長年勤めていた仕事を退官した。国王にも『やれやれ』と言われるくらいだったが、後悔のないようにと言葉を頂戴していただけた。
養育機関での筆記試験は問題なかったが、職人の適合者か年齢のこともあって心配ではあった。しかし、神はラスティンを見放さなかったのかリーシャから付与されるのは無事に成された。
そして、彼女から弟子らに言い渡された任務にはもちろんだと応じた。途中で野垂れ死にしないように単独で出発はさせてもらえなかったが、ラスティンとは同期の弟子でも兄と弟のように過ごしてきた少年といっしょに出立は有難かった。
互いに学び合うことが多い、よきライバルでもあったから。
「ラス兄~、色々狩ってきた」
「おや、おかえり。エイド」
その兄弟弟子が、成人を過ぎたばかりのまだ少年の面影を残した人物。エイド=ジャスディンこそが旅の良き相棒でライバル。それぞれ契約精霊はいるものの、旅を共にする仲としては最高の友ともラスティンは思っていた。
自分の方が彼の父親くらいの年齢なのに、一切気にするどころか兄のように慕ってくれている。そのことが嬉しく、旅立ちでの提案を彼からされなければラスティンはひとりで他国に向かおうとしていただろう。
最年少で筆頭弟子だったルチャルはひとりで向かったから自分も、と思っていたけれど。契約精霊がいてもやはり同じような人間が話し相手にいるだけでも随分と違った。そもそも、ラスティンは城勤めが長くて旅慣れしてないから、そのためにエイドが誘ってくれたのもある。
今は元敵国で、現在は同盟国のひとつであるソーウェン帝国との国境で一休みしていた。ラスティンが食事の準備を、エイドが狩りを担当。ラスティンは得意の白パンをのんびりと作りながら、エイドの帰りを待っていたが。彼が来た時にちょうど焼き上がったところだった。
「いい匂い。これは……白パン?」
「そう。無限収納棚に食材は色々あっても、君の好きなオープンサンドが作りやすいようにね?」
「サンキュ! はーっ。いよいよ、ソーウェン間近か。ちと緊張すんな……」
「……多分。大丈夫だと思うよ」
セルディアスとは因縁の国。と、称されていたが、【枯渇の悪食】を彼らの師であるリーシャの母君・チャロナが解決したことで冷戦は事実上の終結を迎えた。
皇帝とも和平条約を結んだのも、二十年近く前。そこから交易も盛んになり、互いの技術を分け合うくらいまで友好関係を結ぶことは出来た。『表向き』はだが。やはり、それぞれ因縁の相手だと、ラスティンくらいの年齢の者らは観光に来る彼らを邪険に扱う宿屋も少なくない。
そこへわざわざ向かうラスティンは、今回選ばれた弟子の中で一番年上なのもあったが。元国王の近習だということもあって、交渉に慣れているだろうと期待されていたからだ。
血生臭いことにはならないだろうが、若いエイドを巻き込みたくない気持ちは少しある。何度かそこも話し合ったが、『緊張はするがついていく』と豪語して引き返さなかった。だから、今の会話のやり取りは正解である。
「まあ、使者としての紹介状も持ってるし。ラス兄がいるから大丈夫だもんな?」
「ふふ。任されたからには期待していておくれ。さ、パンがそろそろ食べ頃だ。君の土産はあとで堪能しようか?」
「おう!」
こうして穏やかな旅路を続けられるかわからないが、師より賜った使命をソーウェンでまずひとつは果たさなくてはいけない。
それに立ち向かうはひとりではない。エイドも、それぞれの契約精霊もいるから大丈夫だと信じて。まずは、食事だとナイフでさっき作った白パンに切り込みを入れた。
次回は火曜日〜




