第5話 少女弟子①
狙いは定めた。
あとは、仕掛けに誘導するまで。
タイミングを合わせるのに、息を潜めて……対象物が罠に乗ったら合図を出した。
「コーダン!! 今だし!」
『あいよ、ニンリー!!』
それぞれ、せーの、で合図し合い。狩りの対象にしていた猪の魔物を蔓で作った籠罠に放り込む。製作はニンリーと呼ばれた成人手前の若い少女。罠を稼働させたのは、彼女の契約精霊であるコーダン。蝶と人化を半々にした妖精っぽい精霊の彼が蔓を勢いよくひっぱると、魔物が驚いて逃げないように魔法で緩い箇所を補うべく巻き付ける。
ぐるぐるに巻いてから、申し訳ないが窒息させたあとにニンリーが苦無を飛ばして仕上げを施す。
ホムラ皇国のハーフであるニンリーは家の関係で、武具は故郷のセルディアス以外のも使用したりしている。
魔物が完全に絶命しているのをふたりで確認してから、魔物を地面に横たわらせて……互いにハイタッチ。魔力補給をし合ってから、次の工程に移るためだ。
「うーん? 猪の肉が獲れたから、なに作ろっし? 時間短縮重ね掛けして、角煮マン?」
『くぁ~~!! よだれもんじゃないか!! 俺、さんせー!!』
「よーし!! 今日のお昼ご飯決定!!」
ひとつの国境を越え、故郷のセルディアスからだいぶ離れた山中でのやり取り。
養育機関で多くの技術を学び、一種の使節団としてばらばらに別れた兄弟弟子たちは元気にしているだろうか。
特に気になったのは、最年少にして筆頭弟子の地位にいた妹弟子のルチャル。彼女はまだまだ小さな子どもだというのに、精霊とふたりで出発してしまった。ニンリーもそうだが、こちらは十五と成人手前。ルチャルはまだたったの十歳だ。腕っぷしは皆で認めていても心配してしまうのは仕様がない。
(けどまあ? 人助けしがちな性格だし、案外冒険者と遭遇して同行してもらったりして??)
その推測がその通りだと知るのは随分とあとになるが、とりあえず腹ごしらえをしないと朝から何も食べていないのでコーダンと腹ペコ状態を抜け出さなくては。
師から授かった異能を展開させ、精霊を器具などに変身させていく。リーシャ=コルク=アルフガーノは祖であり、実母のチャロナからほとんどそっくり受け継いだ異能を……『他者に分け与えるスキル』と可能としたのはここ十年と少し前に発覚。
それまで、養育機関では『料理人』『錬金術師』などの職業でしか学ぶことが出来ないでいたが。次世代に異能が顕れないか危惧していたところに、神より宣旨を受けたことで方向性が変わった。
適合ももちろんだが、《幸運の錬金術》と名の付く異能を文字通り『運』として繋いだのだ。その最初の弟子たちは今養育機関で半分くらいは教鞭に立っている兄弟子や姉弟子である。
「さーてさてさて。いっちょ頑張るぞぃ!! 時間短縮!!」
ニンリーやルチャルは三世代目の『パン職人』と称されているが、若い年代でも復活したレシピの食事を数多く口にしてきたからこそ、『繋がった』とリーシャはよく口にしていた。祖が救済した【枯渇の悪食】をほとんど知らない子どもたちだからこそ、恵まれた世の中の裏にある事情を知らない。
でも、味の微妙な変化に気づく世代であったのか、パンの美味しさへの意見は色々飛び交った。なら、と、リーシャは自分でほかの国には必要以上に出向けないため……特に秀でていたメンバーの多い三世代目に注目したのだ。
「ほいっ、ほいっと」
『くぁ~……内側からいい匂い』
「圧力鍋だけど。いつも火傷しないねぇ?」
『まあ、変換だし?』
とろんとタレにトロミがついたくらいに出来上がった、『角煮』をある程度冷ましたら……その間に準備していた生地を軽く蒸す。角煮を挟んだら、もう少し蒸し器で火を通す。
出来上がったら、皿に山のように盛り付けていく。ふたりなら、この量はぺろっと無くなるくらい当たり前なのだ。
(あちしはホムラに向かってるけど……途中で、誰かに合流しないかな?)
祖が第二の故郷と称するホムラ皇国。先代皇帝と祖はいとこのような関係性だったらしいが、それは別に知らなくてもいい。ニンリーには母方の実家を訪ねるついでに、レシピの修復に向かうまで。
何年かかってもいいから、その使命だけはきちんと果たしたかった。
『うんめぇ! ニンリーの角煮さいっこう!!』
「うーん。本場の角煮食べたことないから、ちょっと無限収納棚に残しておこっか?」
『ホムラについては研究熱心だな?』
「うん! あんまんとか食べたい!!」
使節団として選ばれた少女弟子のひとりは、まずこんな感じだ。
次回は木曜日〜




