第4話『チーズナンとカレーセット』
『あーむっ』
シュスイは龍体ではなく、半分人間が混じったような鱗を持つ肉体に変身していた。精霊なので、訓練などを積めば如何様にも変身できるのが特技らしいとルチャルは契約したあとに知ったが。
ルチャルと契約してから、共にいろんな料理を口にしてきたので行儀作法くらいは人間と同じくらいに出来ている。なので、まだぽかーんとしているザイルを無視して、ひとり自分のカレーセットを堪能していた。
「ほらほら、ザイルさん。冷めちゃいますよ?」
「お、おう。……この、パン? ちぎんのか?」
「チーズが入ってるから、ちょっと伸びるのだけ気を付けて」
「お、ほんとだ。……このカレー?ってソース、違いでもあんの?」」
「香辛料が入ったソースですね。違いはお肉以外は食べてみればわかります」
「ふーん……お?」
ちょんちょんと軽く、キーマの方をつけて口に入れてくれた。自分とシュスイが先に食べているので美味しくないはないと思っているが、どうもトラウマの関係で初回の人に食べてもらうのにはいくらか緊張してしまう。
しかし、ザイルが飲み込んだあとに見せてくれた笑顔ですぐにほっと出来た。シュスイがスプーンを使ってたっぷりとナンにカレーをつけているのを見て、それを真似してがっついてくれたから。
「……辛くないです?」
「苦手だったけど。このチーズのお陰もあるし、そんなに辛くない!! むしろ、めちゃくちゃ美味い!!」
「……よかった」
鬼才などと、もてはやされているルチャルのトラウマは養育機関に入学してすぐだったか。まだ料理のいろはも学んでいなかったこともあり、最初に作った料理は見た目はよくても調味料を間違えたことで『まずい』代物を兄弟弟子らに振舞ってしまったのだ。
今はその心配は無いに等しくとも、やはり初回の相手には少し緊張してしまう癖が出る。それをひとつずつ払拭していくのに、さっきも『時間短縮』のスキルを使いまくって時短をしたのだが。
まだ残っていた自分のカレーを手に取り、三人で黙々とカレーを食べていけば……空にしたのはシュスイが先ではなく、ザイルだった。
「はぁ~……すっげぇ、美味かった。ほんと、職人の職業はすげぇな?」
満腹になったか聞く前に、その話題が出たのでルチャルはつい『えへへ』と照れてしまう。祖国ではそこそこ認められていたため、『当たり前』なことが他所では違うのを久しぶりに言われたからだ。
『そりゃぁね! ルチャルは最強の孫弟子だからさ!!』
「それ、さっきも言ってたけど……誰の孫弟子なんだ??」
「【枯渇の悪食】を終わらせてくださった、チャロナ様です。直接の師匠はご息女のリーシャ様ですが」
「……国帰ったら、俺どやされる」
「まあまあ。今ではソーウェンとも仲良く交易しているのは聞いてますから」
「皇族じゃないけど、マジで謝罪させて!! んで、めちゃくちゃ美味しかった!!」
と、独特な謝罪の姿勢を見せたので、シュスイとともに驚くしかない。とりあえず、やめてほしいと願えば落ち込んだ表情のまま顔を上げてくれた。
『……冒険者にしては、礼節わかってんじゃないか?』
「シュスイ? 色々言い過ぎ」
『悪かったって。けど、ルチャルもむやみやたらに助けるのはよしなよ? 職人は高位ランクの冒険者と匹敵するから、子どものあんたは狙われやすいし』
「……あたしは捕まらないよ?」
『強くても。わっちがいてもだ』
「よし、決めた!」
ふたりでわいきゃいしていたら、ザイルが立ち上がっていきなりルチャルの両肩に手を置いてきた。ひょっ、と飛び上がりそうになったルチャルの目に飛び込んできたのは、八重歯を見せながらもしっかり笑うザイルの顔。ちょっとだけ、可愛いと思ってしまった。
「?」
「食事の礼も兼ねて、次の町まで護衛する!!」
「え? 大丈夫ですけど」
『わっちもいるから、正直いらん』
「いや! 俺、普通の冒険者じゃないから!!」
懐から取り出した『ギルドカード』をルチャルたちの前に持ってくると、その色は金銀とかではなくルビー色のカードだった。
少ない冒険者ギルドとかの知識を掘り返してみたが、その色合いはたしか。
「……SSランク、のカード?? たしか、試験手前の」
「そう! セルディアスなら有名のマックス=ユーシェンシー様しか持ってなかった……とか言われているやつな? 次に行く冒険者ギルドで試験受ける予定なんだ」
『……の割に、野垂れ死にかけていたじゃん』
「そこは! 目つむって!!」
なので、どのみち同じ町を目指すのであれば、旅の同士として受け入れてくれないかと何度も勧誘を受けたため。ルチャルは色々考えてみたが、またお腹を空かせては可哀想だとそっちの心配が強かった。頷いたあとに話せば、がっくりされたからつい大声で笑ってしまったが。
高ランク冒険者・ザイル=ワズィーンを加えて、オービナという町までゆるりと向かう旅路のスタート。
せっかくなので、彼が食べたことのなかったアイスクリームを振舞って仮パーティー結成の宴をすることにしたのだった。
次回は火曜日〜




