第3話 元敵国出身の冒険者
結界を三重くらいに施し、シュスイには調理途中だから分身体でこちらに飛んできてもらった。
蒼の鱗に龍の身体。召喚の儀のときに呼応してくれたときから、ルチャルにとっては大事な家族で相棒だ。師のリーシャに寄り添う『ミア』は羽根を持つ妖精体だが、特殊な魔法によって異能をほかの契約精霊に施すことが出来るようになったのはここ二十年程度。
さておき、シュスイが若干警戒してるように見えたのは主人のルチャルが冒険者ぽい青年を結界の中に入れたからだろう。賊かもしれないのにすぐ人助けする悪い癖、とまた怒られるかもしれない。
『……まーた。軽い確認だけで入れちゃって』
「いやだって。お腹空いているだけかもだし」
『カレーの匂いじゃそうかもだけど! ルチャルは警戒心なさ過ぎ!!』
「まあまあ、今はそれも確認しようよ。お兄さん~? 顔上げてー?」
「……んぁ?」
ケガしてないかも含めて顔を上げてもらったが、濃いグレーの瞳が珍しかったが光は薄い感じだ。おそらく、空腹で意識が整っていないのだろう。そこに、結界があれど匂いが漂ってきたので移動だけはなんとか頑張ったとルチャルは予測した。
「お兄さん。あたしは、ルチャルです」
「……ザイル。って、子ども?」
「子どもですけど、一応職業持ちです。ここで料理してたのもその関係」
『わっちのご主人に、手ぇあげたら承知しないぞ?』
「しない。しないしない! え、契約精霊?? その年で??」
「はーい。セルディアスから来た職人です」
「……マジ?」
「あ、知っている感じです?」
「俺、同盟国のソーウェン出身。恩人の国だって、有名じゃん!!」
『大昔は冷戦強いてた国かい』
「……今は、違う。俺のじいちゃんたちで、戦は終わってる」
『わかってる……』
「あの国はね~」
セルディアスにとっては、まだ特殊な因縁のある国だ。職人らの祖・チャロナの母君を一度殺害したことで冷戦期間を十数年続けたとされている。その王妃の復活はチャロナが試練を越えたことで成されたが、ソーウェン帝国との和平が実現したのはまだ十年くらい前。ルチャルが生まれたかどうかくらい、最近の出来事でしかない。
「けど、そこの……職人? こんな森の中でわざわざ料理??」
「あたしは子どもだから、あとの方がいいと思って。急がない旅にしてるだけです」
「それにしては、めちゃくちゃいい匂い……」
『この子。祖にとって最強の孫弟子だからの』
「こらこら、兄さんたちの方が凄いんだから。あたしは運がいいだけ」
『謙遜すなよ……』
「えーっと。とりあえず、自活できるくらい凄い子どもがルチャルってことでいい?」
「いいですよー。せっかくなので、食べていきます?」
「いいの!? 俺、携帯食もう尽きちゃって……」
「困ったときは、の助け合いですから~」
『取り分減る~』
「もう一個作るから、作業戻ろ? ザイルさんはちょっと待っててください」
「お、おう。けど、手伝うこと」
「五分くらいでなんとかするので」
「へ?」
そこから、ザイルの目には多分『さーっ』とか『ざざっ』と動いているようにしか見えなかっただろう。少しだけ作業の効率をアップさせたルチャルの動きは、マイペースさが抜けてきびきびしたものになっていくのだ。
ただし、終るとルチャル自身もそれなりに空腹感が増すので、急ぎの試験くらいしかこの作業量は披露したりしない。そのため、ザイルの分も含めて余分にチーズナンなどの追加を作ったのだ。
「はい、チーズナンとカレーセットです」
キャンプの状態にまでシュスイの変身を解除し、用意した椅子へザイルを座るように薦めた。ぽかんとしているザイルの長い黒髪の尻尾を軽くつかんでも動かないので、やり過ぎたかと少し反省したルチャルである。
「……あんな、早く? 冒険者でもそんな」
『おい。ルチャルが少し以上に腹減らすつもりで動いたんだよ? あんたはさっさと座んな』
「あ……はい。すいません」
「まあまあ、あたしも早く食べたかったんで。カレー、食べたことあります?」
「いや。……ない、けど。いい匂いだな……」
「スプーンもあるけど、平たいパンをちぎって茶色いソースに浸して口に入れてみてください」
「へぇ……」
「こうするんですよ~」
と、先にカレーとナンの食べ方を披露したルチャルは、きっとほっぺが真っ赤になるくらいに美味しく出来ていたことに喜びを感じていた。




