第20話 青年の弟子②と中年の弟子①
「では、我々はこの辺で」
「世話になったな?」
「「こちらこそ」」
小国のひとつに、レシピの伝達を終えて再び旅立つふたりの男性。
ひとりは年若く、ひとりは少し壮年に近いそれだがいかつい感じが男らしさを引き立てていた。
彼らはセルディアス王国にとって、職人の三世代目にあたるパン職人たち。同じ師のところで学び合い、ときには競い合う兄弟弟子の仲だ。今は師からの任務により、世界各国の『食の改善』のために使者として旅をしている。
彼ら以外にも年齢や性別ばらばらの弟子らが出立していたが、これだけスムーズに仕事がひとつ早く終わったのは彼らが最初かもしれない。
もともと、その国はセルディアスと友好国であったため、レシピの交換が盛んだったと思われる。
ふたりは次の目的地を決めるのは一旦止め、まずは適度に旅をしようと決めた。
「ゾードはなに食べたいんだ?」
「あ~……点心系だな? ニンリーが得意にしてた角煮マン」
「いいね。俺もそれは食べたい気分だったから……どこか野営しつつでいいかい?」
「結界張れば、魔物の突進にも対策出来るしな? 構わねぇぜ、ハルク」
角煮があれば、パンにも点心にも米にも合う万能の主菜。それを作るのに、今回は報酬金もそれなりにもらったので贅沢して市場で肉は買い込んでみた。ハルクの無限収納棚に入れておき、ゾードの目利きで香辛料とかは買い付けた。
友好国ということもあって、結構な品揃えだったこともありゾードが言うには目移りしそうだったらしい。
関所を抜け、山の中腹までダッシュで向かうなどと無茶が出来るふたりが到着した頃には……もう夕方だった。多少の息切れはあったが、仕込みはこれからだとライバル同士のふたりは手分けして調理に取り掛かる。
調理器具の代わりに、契約精霊を影から呼び出し、変換させてから下ごしらえを始めた。
「ゾード、角煮マンだけじゃ腹膨れないだろう? 米炊いとく?」
「んだな? 思ったより走り込みし過ぎたし……頼んでいいか? こっちが角煮仕込むのに、圧力釜出すから」
「了解。それなら分担しやすいしね。リルル、いーい?」
『あいな。主人』
契約精霊との旅をする弟子も居なくはないが、大勢の弟子がいるのだから共同で任務をこなせばいいと思う輩もいる。ハルクはゾードと歳の差はあれど、幼馴染みだったということもあり悪友としての仲が今も続いているのだ。そのせいか、別々に出立は考えることもなく、タッグをすぐに組んだわけである。
米を研ぎ、リルルが変身した炊飯器に釜をセットしたあと……ふと、思い出したことが。
最年少で、最高位とも言える筆頭弟子のルチャルは契約精霊とだけで旅に出てしまった。防衛などの腕前については心配は無いものの、普通は親に甘える年頃なのにあの子は勇ましいなと今でも関心するほどだ。
(どこに向かったのかな? あの子のことだから、師匠に似てわざわざ大変な場所とか行きそうだけど)
【枯渇の悪食】のせいで困窮している国へ向かったことは、容易に想像がつく。しかし、かつて敵国であったソーウェン帝国には別の弟子らが向かったので、もっと食が細い国へ向かったかもしれない。
人一倍正義感が強く、人一倍怒ると怖くて、皆の誰よりも優しい少女。
彼女の手綱を握れるのは誰になるのか、弟子の中では誰も無理だったのでこの旅路で見つかればいいなと思ってしまうのは、兄弟子としての心配かもしれない。
「おーい。皮づくり手伝うか?」
「いや、こねが終わったばかりだし。角煮優先でいいよ? まだかかりそう?」
「もうちょいだな?」
自分たちも言えたことではないが、求め合う『誰か』をこの旅路で見つけても……セルディアスにまでついてきてくれるかがわからない。結局のところ、自分たちの居場所はあの国であることに変わりないのだから。
次回は木曜日〜




