第2話 最年少の孫弟子
故郷から出立して、はや半月。
今日も今日とて、師から与えられた任務を全うするために歩みを進めていく。ほかの兄弟弟子らは魔法や魔物らで移動するようだったが。
体まだ幼い自分は徒歩がいいだろうと、最年少の弟子はその日も徒歩で国境を通過したところでるんるん気分でいた。
「今日はなに作ろうかな~?」
『ルチャル? わっちが獣化すれば移動は早いのに。何故、ほかの弟子らのように急がないんだい?』
ルチャル=クラスター、年齢十歳。契約精霊のシュスイとともに徒歩で故郷のセルディアスから旅を始めた最年少の職人と称されている。師のリーシャから五歳でその才を認められ、わずか五年で『職人』の称号を持つにまで至った鬼才の主だ。
兄弟弟子らとタッグを組んだりせずに、自分とシュスイだけでのんびりと徒歩の旅を楽しんでいる。魔物に遭遇しても、鍛えたのは職人の腕だけじゃないので朝飯前。もっと大きい魔物が来た場合はシュスイと連携して戦うのだが。
そんな幼い子どもが危険を顧みずに森の中を探検ついでに旅をしているのは、師より任務を言い渡されたためだ。世界を脅かしたかつての大災害『枯渇の悪食』によって、食のレシピの大半がめちゃくちゃなままなのを改善していきたい。
職人たちは、基本的にその中でも被害が大きかった『パン』に特化しているのだが。ほかの基礎的な料理の応用も可能としているので、ルチャルもその選抜を突破したのだ。母親の横に立つくらいの年齢であれ、修行するのが早かったルチャルは好奇心旺盛でセルディアスの現国王と似ているとまで言われたやんちゃ者だったが。
「ん~? だって、子どものあたしが生産ギルドにいきなり行っても驚かれるでしょー?」
シュスイの質問に答えながらも、今日のキャンプメニューを決めるのに『無限収納棚』から食材のストックを出しつつ並べていく。このスキルを先天性で持っていたからこそ、ルチャルはセルディアスの養育機関で五年前から学ぶことを許されていたのだ。
『驚く? まあ、たしかにルチャルは子どもだけど』
「だからだよ。みんなが先に急いである程度の噂をあちこちで作ってくれれば、生産ギルドの人たちにもわかってもらえるかなって」
『紹介状はちゃんと持っているのに……』
「それでもだよ。受付の人にぽいっと投げられるかもしれないじゃん?」
『あー……』
養育機関で、最初に『見学』していた最中……それと同じことが起きて、職員が注意を受けていたのは懐かしい記憶だ。あの頃は、まだシュスイと契約する前だったので『異能』も授かっていなかった。
それから入学するのに試験合格を終えれば、年齢性別種族様々な同期たちや兄弟弟子らと楽しく過ごせたのはよかった。皆、赤ん坊を少し卒業した程度のルチャルを可愛がってくれたし、親身になって技術の披露をしてくれたりもした。
「まだのんびりでいいんだよ。あたしの出番は、『子どもでも作れるパン』がメインだし」
『その実、筆頭弟子の位持ちなのに……』
「それは今回の旅じゃいらないものだよ? さぁて、シュスイ? 変換お願いしていーい? まずは調理台から」
『今日はなに作るん?』
「カレー食べたいから、パンはチーズナンかな? 窯焼きじゃなくて、オーブンの」
『合点承知! 変換!!』
スキルで変身してくれた、調理台の上に材料を広げて生活魔法を並行で使用しつつ……生地を手ごねでじっくりとこねていく。まとまったら、適当な大きさにちぎって平たく伸ばす。
その間に、手順がわかっているシュスイは分身体をつくって、そちらを『オーブン』に変身させた。師たちではなかなかこの手順を踏めないでいるのに、八歳のときには当然のように作業できてしまったルチャルたちの技術はとにかく『鬼才』でしかない。
鉄板に焼く直前まで成形した生地を乗せ、オーブンに入れたら調理台の方のシュスイが戻り、一瞬ルチャルとハイタッチしてから完全変身していく。これは遊びではなく、足りなくなる前の魔力補給だ。
「じゃ、次はカレーだけど。チーズナンだから、ちょっと辛めがいいなぁ」
『わっち、マトンカレー!』
「ぽい肉でだよね? うんうん。あたしはキーマにしようかな? 半分こする?」
『するする!!』
ナンの焼き上がりは数分程度。焼き上がりは無限収納棚に入れて保管。その次は、シュスイの分身体で調理器具に変身してもらいながらの、メインのカレー作り。あたりに魔物の気配が近づくが、結界は施してあるので気にせずにゆっくり調理していく、と。
ゴン。
『「お?」』
魔物の衝突にしては軽い音なので、ルチャルはそっちに移動してみたら……衝突のせいで倒れていた背の高い青年がいたのでびっくりする。
「……お兄さん、大丈夫?」
ルチャルが起きているか声をかければ、青年はそろっと手を挙げたのでもしかすると空腹ついでに倒れたのではと結界を一部解除して、中へとひきずることにした。




