第14話 副団長がふたりも
詰め所へ行く前に、まだ鍋たっぷりの魚入りシチューが残っていたため……シュートに持ってっていいか聞けば、どうするんだと逆に質問された。
「無限収納棚、オープン!!」
スキルのひとつを展開させれば、寸胴鍋が光の泡となって消えていく。そしてそれは、スキルを持つ者しかわからないステータス画面でしか確認出来ない。……というのを、シュートと同じくぽかんとした表情の騎士団たちにも説明したら、ライオスが軽く咳払いした。
「……そうか。そのようなスキル持ちなのか」
「師から賜った……異能の中のひとつですが」
「なるほど……」
ライ麦パンについては、詰め所に行ってもたくさんあると教えてもらったため、厨房のは放置。ライオスが先頭を、ルチャルは子どもだから遅れないように……列で言うと、真ん中で歩かせてもらった。後ろと前には安心しやすいようにとシュートやエクシスを置いてもらったので、文字通り安心出来た。
『……あいつ、油断できんね』
影に入れたままのシュスイは、まだライオスの態度が気に食わないので出すに出せない。つっかかると面倒なのでそこは主人としてきちんと言い聞かせるしか出来ないでいた。
「ルチャルちゃん。ここだよ~」
前を歩いていたエクシスが止まっての合図を出したので、とん、と足を止めた。上を見上げてみると石造りだがしっかりとした大きな建物が。ここにも戦の爪痕のようなものがあったが、騎士団の皆は特に気にしてないようだった。
「ライオス、戻りましたか」
「ああ。件の少女を連れてきたが」
「ほう?」
先頭の方でなにか会話が始まった。気になって、エクシスの横から覗いてみると……艶やかな長い金髪が見えた。声からして男性なのはわかるが、随分と綺麗な髪質だなと……同期の弟子のひとりを思い出したほどだ。
顔の方を見てみると、眼鏡をかけていて少し固い表情をしているよう。じーっと見ていたら、さすがに気づかれたので目線が合う。怒られるかと思ったら、にっこりと笑顔になってくれた。
「……はじめまして」
「はじめまして、小さな使者殿。公主からお話は伺っていますよ。セルディアスからお越しだと」
「公主様から?」
「魔法鳥の内容を見て、団長らがさっさと向かったあとですがね? 素晴らしく美味な料理を口に出来たと」
「えと……魔法に収納してきたので、持ってきました」
「なんと。……是非試食させていただけませんか? 詰め所の調理場は今空いているので」
「……フェルナン。副団長のひとりでも勝手に色々決めるな」
「いいではないですか。先に食べたライオスたちが羨ましいんですから」
丁寧な口調に物腰柔らかい感じではあるが。やはり騎士というだけあって、食欲には忠実なのかもしれない。副団長という役職はシュートだけのものでないのはわかったが、たしかに人数が多い騎士らをまとめる補佐は何人かいないと大変そうなのは理解できた。
フェルナンのあとに続き、目的の場所へと向かう。廊下は意外と静かで誰もいないように感じるが……気配察知の勘があるルチャルには奥に行けば行くほど、生命体の気配を感じ取れたので無人でないことはわかった。
「ここだよ、ルチャルちゃん」
十字路三つ分の長さの廊下を渡ったところで、目的の場所に到着した。たしかに、フェルナンの言ったとおりに大勢の人は特にいなかった。ただし、管理者のような服装の男性だけはいたが。
「マルシス。少し場所を借りたいのですが」
「副団長? あれ、団長らもおそろいで」
「卓の方でいいが、借りるぞ」
「あ、はい」
ライオスの方が発言力が高いので、言い包めるような言い方でルチャルにはこちらに来いと手招きしてきた。
出番なので、仕方なく無限収納棚からさっきの寸胴鍋を出したのだが。後ろからマルシスの『ひゃぁ』という反応を見れないのが少し残念。すごくびっくりしたはずだけど、フェルナンの方は眼鏡を整えているだけだったからつまらなかったのだ。
「これが……いい匂いですね?」
「クリームシチューって言います。あの、ライ麦パンってここにあります??」
「あると思いますが。……マルシス? いくつかいただいても?」
「あ、は、はい! いくらでも!!」
「せっかくなので、マルシスさんにも食べてほしいですが」
「お、俺にも?!」
「はい。これ、どっちかというと家庭料理なので~」
フェルナンらも特に言わないでいたので、ふたりにそれぞれシチューとパンの食べ方を教えれば。やはり、想像していた美味しさとは違っていたのか、目を丸くするくらいに驚いてくれた。
「これは……」
「うっま!? え、ほんとに……お嬢ちゃん、が?」
「あたしのメインはパン作りですけど」
と言って、シュスイの魔力も借りて収納棚から色々出したら……さすがに、全員の口を開けさせるくらいに驚かせてしまったのには、少し反省したのであった。
次回は木曜日〜




