第12話 SSランク昇格に向け
ルチャルがシチューを振舞っている頃に、ザイルは街に出て宿を探していた。今回の昇格試験は『街に入ってからスタート』という指示以外、特にない難問。
冒険者ギルドを目指してもいいが、関所から通告も行っているだろう。ルチャルを追いかけたくても、こればかりは当初から予定していたことだし、彼女もしばらくはゼスティア公国に滞在すると言っていた。
それを信じ、まずは己の目的を達成する方に集中した。
宿探しは比較的簡単に終わったが、次がおそらく関門のひとつ。冒険者ギルドを探し当て、ギルドマスターと対面できるかどうか。出来れば、今日中がいいだろうと早足で向かったのだが……途中、鋭い気配が街道沿いにて察知出来たため、『始まったか』と脇道に入った。
暗い道に入れば、そこには仮面をかぶった『試験官』らしき冒険者が何名か武器を構えていた。こんな町中で殺し合いはご法度だが、怪我くらいなら……のつもりで、ザイルの行く手を阻む役割を担当しているのか。
「……獲物を満足に振るえない脇道で、足止めされるかよ!」
背負っている相棒を構えずに、突進しながらも拳を構えていく。相手は当然避ける姿勢をとっていたが、ザイルの方が一歩速く踏み込んで急所を殴った。
「がっ!?」
「ぐっ!?」
ひとりからふたり目。その次に三と四……と、踵の切り返しをうまく生かして仮面の連中を気絶させていく。最後のひとりが棍棒を振りあげたものの、それを片手で受けて鳩尾を殴った。そこが完了したら、町中には戻らずに建物の上を走るかと壁伝いに屋根の上に登ったが。
「おいおい。おかわり多くね?」
十か二十くらいに下で戦った相手と同じような格好の連中が。獣人や魔族も混じっているのか、仮面をしていても特徴が丸わかり。仕方ないので、ここは相棒の双剣を抜くことにした。
「はやく、城に行きたいんだよな~」
のんきにぼやく余裕があるのだが、次の動きから本領発揮を見せることにした。飛んでは仮面を剥ぐ勢いで凪ぎ、ついでに急所を突いて転がせておく。気絶する前に受け身はとれているようなので、そこは気にしなくていいかとどんどん対峙していった。
とにかく、試験をさっさと終わらせてルチャルの待っている城へ行きたいのは本音だった。道中、技術を惜しみなく披露してくれ、護衛としては中途半端な仕事しかしてないザイルへ美味なるパンやほかの食事を食べさせてくれたのだ。
昔馴染みのシュートも、今頃は幼馴染みの公主とともにルチャルが提案したパンやほかの食事を食べているかもしれない。それが羨ましく、自分も加わりたいのを試験がなければ……と、本気で悔しくなると思うくらいに。
試験は大事だが、やっぱり美味いものはたっぷり食いたい食欲の方に指針が揺れているような感覚。冒険者になってそれなりに経つのに、ザイルとしては初めての後悔だ。今までの人生観を覆された気分ではあるが、嫌な感じではない。
(けど。ルチャルにはソーウェンにも来てほしいな……)
彼女が言うに、ほかの同期たちが多数派遣されているそうだが。それでも、元は敵国だった者にも分け隔てなく接してくれる幼い少女の懐の深さには感心していた。彼女くらいの大人が先に行っていたとしても、帰省ついでにいっしょに来てくれないか誘ってみたい。
試験が終わったら、それを提案しようなどと……他所事を考えている余裕があるくらい、向かってくる試験官らを相手にギルドへの道を進んでいけば。最後には『降参』と札を持っていた奴が出てきて、『終わりか?』と聞いてみた。
「……あとは、ギルドマスターと直接」
「あ~……マジ、か」
ここのギルドマスターはそれなりに腕が立つので、まだ若造を抜け出したくらいのザイルが勝てるか少々自信がなかったが。さっさと終わりたい気持ちは高まっていくばかりだったので、その試験官について行ってギルドに向かうことになった。
次回は土曜日〜




