第10話 何が食べたいか?
ルチャルは、さっそくと言わんばかりに『無限収納棚』のステータスを開けてリストを確認。シュートたちには何も表示されていないだけの動作にしか見えないが、ルチャルが『職人』だからと黙って待っててくれていた。
「あ、これにしよ!」
と、リストのひとつを指で弾き、空中に出てきたのはサクサクしてそうな衣をまとった『パン』。ルチャルには馴染みのある、スパイシーだが美味しくて病みつきのあるパンだ。
『ああ、カレーパン』
「しかも、半熟卵入り!! これ、食べてください!!」
軽く紙で包んだそれをふたりに差し出せば、互いに目を合わせてからルチャルの手にあったパンを受け取ってくれた。
「……嗅いだことのない、いい香りがするな」
「これが、セルディアスじゃ普通にあんのか?」
「……使者殿に無礼な口の利き方をするな」
「ルチャルがいいって言ったんだよ」
「公主様も気にしなくていいですよ?」
「……しかし」
「たしかに、『職人』ではありますけれど。あたしはただの子どもですし」
「……なら、公式以外では。ルチャル、このパンは『カレー』と言っていたがどんな味なんだ?」
「! 香辛料をいろいろ使ったソースが入ってます! けど、少し食べやすいように半熟に火を通した卵がそのまま入っているんです!!」
どうぞ、とルチャルが食べて食べてと薦めれば……いい加減食べるかという雰囲気になってくれた。シュートはがっとかぶりつき、ガイウスの方は上品に噛みつくという対照的な食べ方。
ルチャルのカレーパンは中身がすぐに飛び出てくるので、噛んだ瞬間に二人表情が『お?』となるのは早かった。
「……うめぇ」
「食べたことのない味だが……美味だ。それに、どこか懐かしさを感じる」
「もうひと口で、卵のところに。味がぐっと変わりますよ?」
「「ほぉ?」」
言われたとおりに食べてくれたふたりの表情が、はっ、とする以上に変化していくのは見ていて嬉しかった。ルチャルの手掛けたパンを美味しそうに食べてくれるのは、やっぱり誰のを何度見ても新鮮で楽しいから。
「これは『総菜パン』という部類なんですけど。あたしたちの作るパンはこんな感じ以外にたくさん出来ます」
「いや、凄い! これが、セルディアス中心で『普通』にあるのか?」
「はい。町のパン屋さんでもいっぱいありますね?」
「……こんなんがゼストリア周辺でも食えるようになりゃ。そりゃ、【枯渇の悪食】から脱せたと国民は思うぜ」
「けど。このパンの前に、この国で主食のパンを『活かす』方法がいいと思うんですよね?」
「「活かす??」」
「パンはあくまで、食事のひとつ。北国に位置するこの国の『名物』ってなにかありますか?」
「名物……? 北方の魚の塩漬け以外は特に」
「普段のご飯でいいんですよ。あったかいもの、食べてます??」
ルチャルの知識と、祖であるチャロナから教わった『ライ麦パンの食べ方』が一致していればだが。無理にそのパンを改善するよりも、『活かす』方法がいいかもしれないと思ったのだ。シュートらに質問すると、あまりいい食事をしていないのか首をひねっていた。
「普段? 適当に具材突っ込んだスープとかならそりゃ」
「それです!」
「「は??」」
「寒い地域なら、牛乳の輸送が多いはず。クリームスープを少し改善するだけでも全然違います」
「……パンではなく、スープを??」
「師匠は『シチュー』と呼んでいました」
「シチューはこっちにもあるが、牛乳使って??」
「! それなら、あたし作れます!! 厨房とかお借り出来ますか?」
「了解した。料理長に魔法鳥を飛ばそう」
『ルチャルのクリームシチュー、うんまいんだよなあ?』
「そんなにか?」
『おうよ!』
ガイウスの魔法鳥が飛ばされたあと、三人でそのまま厨房に向かい。料理人らが公主の訪れにおどおどしていたが、ルチャルの姿を見ると『なんで子どもが』と言いたげにぽかーんとしてしまっていた。
「彼女は国賓に近い客人だ。くれぐれも失礼のないように」
「よろしくお願いします!」
公主の言葉に慌てて頭を下げる料理人たちに、ルチャルはフォローも兼ねてすかさず挨拶を挟んだのだった。
次回は火曜日〜




