あの日の僕へ
三十歳の誕生日、和也は実家の押し入れから古い日記帳を見つけた。
中学二年の夏、将来の自分へ向けて書いた手紙が挟まっていた。
「三十歳の僕へ。夢はちゃんと叶いましたか?」
当時の自分は漫画家になりたかった。
でも現実は、安定を選んで会社員になり、毎日同じ日々の繰り返し。
手紙の最後には、こんな一文があった。
「迷ったら、神社のおみくじを引いてみて。あそこのおみくじ、いつも当たるから」
翌日、懐かしい神社を訪れた。
おみくじを引くと「大吉」。
「失くしたものが戻る。勇気を持って一歩踏み出せば、道は開かれる」
帰り道、中学時代の同級生、美咲に偶然出会った。
「和也くん、久しぶり」
彼女は今、地元で小さな出版社を営んでいるという。
「実は、地域の人の物語を集めた本を作りたくて。
和也くん、確か絵が上手かったよね?
挿絵、描いてくれないかな」
心が揺れた。あの日書いた自分の言葉が胸に響く。
「…やってみます」
勇気を出して言った。週末だけ、絵を描き始めた。最初は下手だったが、描くたびに楽しさが蘇った。
三ヶ月後、本が完成した。
手に取った瞬間、涙が溢れた。
「ありがとう。素敵な絵だった」と美咲が微笑んだ。
和也は気づいた。夢は形を変えても、追い続けられる。
もう一度、あの神社を訪れた。
おみくじには「失くしたものが戻る」と書かれていた。
失くしていたのは、夢を追う情熱だった。ずっと、忘れたふりをしていただけで。
あの日の自分に、今なら言える。
「大丈夫、僕は少しずつ進んでいるよ」
占いは未来を映す鏡。
でも未来を作るのは、今の自分だ。
読んでいただきありがとうございます。
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