第8話《side:ランス・マグダレーナ》
「ああ、もう! 忌々しい!!」
前王妃マグダレーナはノックも忘れ、奥の宮の一室――息子ランスが謹慎中の部屋に荒々しく踏み入った。
「母上……」
ランスはびくりと肩を震わす。
マグダレーナは荒い息をつき、憤怒に肩を震わせた。
「すべてあなたのせいですよ!? あなたが勝手に婚約破棄などするから、王位が脅かされたのです!!」
「も、申し訳ありません。……で、でも、母上も『好きになさい』と……」
「なんですって?」
「ひっ。いえ、その……!」
母親に威圧され、ランスは情けなく慌てふためいた。
マグダレーナは息を吐き出し、ぎりり、と奥歯を噛む。
「それにしても、まさかエヴァンジュリンが加護持ちだったなんて……」
数百年に一度、不定期に誕生する伝説の乙女。
そんな存在が息子の代に現れるなんて、想定できるはずがない。
だからランスが『妹にすげ替えたい』と言ってきたときは反対しなかった。
ヴェルトワーズ侯爵家の長女は生意気だけれど、次女は頭が空っぽだから従えやすい――その程度にしか考えなかった。
しかし、エヴァンジュリンを王妃になるのは決定事項。
二千年の掟を覆すことは、さすがのマグダレーナにもできない。
「こ、これからどうしましょう……母上」
「大丈夫よランス。わたくしが、あんな男の思うようにはさせないわ」
グラディウス。
あの男は心底気に入らない。
母親も許せなかった。
正妃である自分を差し置いて、前王に寵愛されたあの女。
古参貴族ファーレン伯爵家の華、誰もがうらやむ絶世の美女アリシア……!
でも、あの女はもういない。
だから今度は、息子を潰す。
「ランス。お前はもっと堂々となさい。妾腹のグラディウスなどに引けを取ったら許しませんよ。次の王はお前です」
「……はい」
「ほら、背筋を伸ばしなさいと言っているでしょう!! まったく、みっともない子ね。どうしてわたくしに似なかったのかしら!?」
「は、母上ぇ……」
ランスは青ざめながら直立した。それからキリっと表情を引き締める。
「そうよ、それでいいの。まさに王者の風格よ」
ランスはとても見栄えが良い。
頭は多少アレだが、黙って立っていればグラディウスなんかに見劣りするものか。
「グラディウスが実績を盾にするなら、お前にも相応の実績を積めばよいのです。――そう、実績さえあれば、正当な血であるお前が負ける理由など何もない」
「実績……?」
マグダレーナはしばし考え込み、やがてにんまりと唇を吊り上げた。
「ランス。――ベル=ツェルネ王国へ行きなさい」
「ベル=ツェルネ王国? 往復だけでも1か月以上かかりますよ……なぜ、そんな遠い国に?」
「あの国には、あの女がいるからよ」
そこまで言うと、ランスもぴんと来たらしい。
「ああ……あの女、ですね」
「そう。あの女」
マグダレーナは、暗い笑みをこぼした。
(どんな手を使ってでも、ランスを王にしてみせるわ。この国の王位は、わたくしの子のためのものなのよ!!)





