↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/46

【書籍化記念SS】髪を伸ばす理由

ブシロードワークス スリーズノベルより書籍化(2026/10/8)。

コミカライズも進行中です


挿絵(By みてみん)


「失礼します」

 グラディウス様のお部屋を訪ねると、彼は鏡台の前に立って髪を梳いているところだった。


「ああ、エヴァ」

「お忙しいところでしたか?」

「いや。先ほど公務を終えたところだよ。髪を結い直していただけだ」

グラディウス様は手慣れた様子で櫛を扱っている。腰まで流れる黒髪は、いつ見ても美しい。


「私がしましょうか」

と、つい口から零れた。


「ん?」

「……梳いてみても良いですか」

本当は、前々からじっくり触れてみたかった……。ボリュームがあって艶やかで、梳き甲斐がありそうだ。


グラディウス様は、きょとんとしていた。その反応を見ていると、なんだか恥ずかしくなってくる。我ながらおかしなことを言ってしまった。

「……いえ、やっぱりいいです。忘れてください」

「じゃあ、頼もうかな」

私に櫛を手渡すと、グラディウス様は椅子に座って背を向けた。鏡越しに見えた顔は、少し照れているようだ。


「――失礼します」

片手に掬った髪のひと房に、そっと櫛を通してみた。

(……きれい)

しっかりとしていて滑らかな黒髪が、櫛の歯から絹糸のように流れてくる。あまりに艶やかで、見惚れてしまった。


グラディウス様は目を閉じて気持ちよさそうだ。


「そういえば……グラディウス様はどうして長く伸ばしてらっしゃるんですか?」

前々から気になっていたことを、せっかくだから聞いてみた。男性でも長髪の人はいるけれど、ここまでの長さは珍しい。


「ああ。それは――」

グラディウス様は答えかけ、ふいに口をつぐんだ。

「…………なんでだろうな」

「え」

首をかしげて、眉をひそめている。


「うーん」

彼自身も不思議に感じたらしく、そのまま考え込んでしまった。

「自分のことなのに、なんで曖昧なんですか」

「十年以上こうだから、この長さが当然というか」

「それなら、それが答えなんじゃあ」

「……」

しっくりこないようで、口元に手を添えて思案し続けていたけれど。


「ああ」

ふと、思いついたようにグラディウス様が手を打った。


「きっかけは父だ。父が喜んでいたから、だな」

「……?」

あまりにも意外な返答だった。


「前王陛下が?」

息子を長髪にして喜ぶ趣味が? 意味が分からず、今度は私が首をかしげた。

「私の面立ちが母とよく似ていたから。髪まで伸ばすと瓜二つだったらしい」

「あ……」

私は、前に一緒に入らせてもらった『秘密の書斎』を思い出した。そこに飾られていたアリシア妃の肖像画は、たしかにグラディウス様そっくりだった。

グラディウス様が幼子だった頃、姦計に落ちて命を落としたアリシア妃――そんな彼女を、前王陛下は深く愛していたという。


「母は亡き後も罪人扱いだったから、父も表立っては口にしていなかったが。二人でいるとき、よく言っていたよ。『お前は母によく似ている』と笑っていた」

遠い思い出を振り返るように、グラディウス様は目を閉じてそう囁いた。


彼の姿がどこか切なげで――私は胸の奥がぎゅっとなった。


けれど、グラディウス様はすぐに晴れやかな笑みを浮かべた。

「だが、今となってはとくに伸ばす理由もないな。そろそろ短くしてみるのもいいかもしれない」

「えっ」

思わず、声を漏らしてしまった。


「そんな。もったいないです」

「そう?」

「はい。私も、……とても好きなのに」

改めて言うのは恥ずかしいけれど、じっと見つめてそう言った。


するとグラディウス様は、とても嬉しそうに笑った。

「そうだったのか。じゃあ、このままで」

「でも、無理に私に合わせなくても」

「かまわないよ。それに――」

軽く振り返ったグラディウス様が、甘えるように私の肩にもたれてきた。

「君が、これからも梳いてくれるなら」

櫛を握った私の手を取り、自分の頬に寄せている。


「……ずっと梳きます」

「じゃあ、いつまでもこのままでいよう」

グラディウス様が再び前を向いたので、私はその黒髪に櫛を通した。彼は満ち足りたように目を細めていた。


おかげさまで書籍化しました! ありがとうございます。

https://www.kadokawa.co.jp/product/302608000493/

書籍用に書き下ろしたシーンでは、エヴァがグラディウスの秘密の書斎でふたりきりで過ごすシーンが盛り込まれています。1万文字ほどの加筆改稿で糖度高めの一作に仕上がりました。

コミカライズも進行中ですので、引き続き『兄王陛下』をお楽しみください^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。