第33話《side:マグダレーナ/グラディウス》
「――まったく、ランスったら。相変わらず、軽率な子ねぇ……」
ここは、マグダレーナの私室。
ナサニエル・ガルシア公爵からランス投獄の知らせを受けたとき、マグダレーナは優雅に紅茶を飲んでいた。
「きっとベル=ツェルネの件でしくじったのを、焦って暴走してしまったのね。……まったく、嘆かわしいこと」
彼女は呆れてはいたものの、まったく取り乱してはいない。ガルシア公爵に向かって、艶やかな笑みを浮かべている。
「エヴァンジュリンは、傷物にされたくらいで従う女ではないのに。暴行の罪で王位が遠ざかるだけだと、どうして分からないのかしらねぇ」
マグダレーナの声音には、怒りも焦りもない。まるで他人事のようだ。
相対するガルシア公爵も、世間話のような顔をして頷いている。
「まったくです。ランス殿下には、これからじっくり学んでいただかなければ」
「そうね。でも、学ばせるのは『王になったあと』でも間に合うわ」
豊かな紅茶の香りを楽しみながら、マグダレーナは機嫌良さそうに笑っていた。
「ランスの失態なんて、もうどうでも良いわ。あなたのように有能な臣下がいてくれれば、息子なんてお飾りで十分」
「ふふ。いよいよ――『戦』の準備が整いましたね」
静かな口ぶりのガルシア公爵だが、その紫の瞳には野心めいた光が爛々と輝いている。
マグダレーナの瞳も、同じ野心を帯びていた。
「ガルシア。先日あなたが法務委員会に提出した資料――随分と騒ぎになっているみたいじゃない?」
ガルシア公爵は、芝居がかった動作で肩をすくめた。
「ええ、まさか亡き父の書斎から、あのような手紙が見つかってしまうなんて。実の息子としては、なんとも遺憾でなりません」
そしてふたりは、仄暗い笑みを深くした。
「もはやグラディウスが玉座から転がり落ちるのも、時間の問題かと存じます」
「ふふ。そうね」
***
――翌日。
その日の議場には、重く不穏な空気が満ちていた。開式を告げる議長の声も、いつも以上の緊張を帯びている。
「これより、本日の王国議会を開会する」
言い出しにくそうに沈黙を置き、それから議長は国王席に座すグラディウスへと視線を送った。
「本日の議題は、現国王グラディウス陛下のご出自――先王の実子たる正当性に関する、重大な疑義である」
議場が、ざわりと波打った。前王妃派の貴族たちはほくそ笑み、新王派には動揺が渦巻いている。
議長は、ガルシア公爵に向き直った。
「それでは、ガルシア公爵。発言を」
「かしこまりました」
立ち上がったガルシア公爵が、朗々と声を響かせる。
「私が法務委員会に先日提出した、当家所蔵の文書に関する報告でございます。私の父――先代公爵が妾妃アリシア殿との密会を記した手記と、それを裏付けるいくつもの証拠。そして……『グラディウスは王の子ではなく、あなたの血を引く息子です』と綴られたアリシア妃の私信が見つかった件について……!」
ガルシア公爵の声を、グラディウスは毅然とした表情で受け止めていた。
――このような謀略に負けるものか。
グラディウスの瞳には、静かな戦意が宿っていた。
シリアスな展開になりますが、本編クライマックスです。乗り切った先にすごく幸せになるので、お付き合いいただければ幸いです……!





