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挿話《side:ガルシア公爵》
内廷府長官のナサニエル・ガルシア公爵は、執務棟の一角にある法務委員会へと足を運んでいた。その手に抱えているのは、何通かの手紙と古びた手帳だった。
法務委員会は、宮廷の中でもとりわけ厳粛な空気に包まれた場所だ。高い天窓から差し込む外光が、天から注ぐ神の光を思わせる。
ガルシア公爵は、いつになく深刻な面持ちで席についた。机の対面に、法務官が着席する。
「実は……当家の屋敷で亡父の書斎を整理していた折に、看過しかねる物を発見いたしまして……」
向かいに座る法務官が、静かに問い返す。
「どのような物でしょうか」
「王家の血統に関わる――極めて重大な物を」
ガルシア公爵はそう言って、手にしていた手紙と手帳を机上に広げた。その中から一通を選び取ると、慎重に開いて差し出す。
法務官はそれを一瞥し、次の瞬間、言葉を失った。
「……こ、これは」
「ええ」
ガルシア公爵の声は、微かに震えていた。
「グラディウス陛下の母君、アリシア妃が残した手紙です」
法務官は文面に目を通すと顔色を変えた。ガタンと席を立ち、冷静さを欠いた様子で上官を呼びに行った。
深く俯いたまま、ガルシア公爵は深い息を吐く。
そして、誰の視線も届かないその一瞬。にたり、と唇の端を歪めた。





