第28話《side:グラディウス》
真夜中に眠りが浅くなり、ふと目覚めた。
腕の中には、まだエヴァがいる。
逃げ出すこともできたのに、律儀に抱き枕になってくれていたらしい。
愛らしくて、まじめな子だ。
思わず、口元に笑みが浮かんだ。
起こしてしまっては気の毒だ。彼女の眠りを妨げないよう、静かに息を整える。
(……本当は、今すぐ私のものにしてしまいたい)
エヴァの魔法の影響か、気持ちのタガが緩んでいる。「お仕置きだ」と冗談めかして押し倒したとき、危うく衝動のままに手をのばしかけた。
けれど小さく震える彼女を見下ろして、「それはダメだ」と思い止まった。
エヴァは私の妻ではなく、まだ婚約者ですらない。まずは、議会の承認を勝ち取らなければ。
エヴァを手に入れるためなら、何だってする。
芝居のように人生をこなしてきた私に、エヴァは初めて『本当に欲しい物』を教えてくれた。
片腕を天井に掲げ、私は拳を握りしめた。
(ランスには譲らない。エヴァを娶るのはこの私だ)
長く膠着状態にあった前王妃派との対立にも、そろそろ決着をつけなければならない。最近、マグダレーナの周囲が妙に静かだ――何か仕掛けてくる前触れのように感じる。
ベル=ツェルネの件も嫌な匂いがする。
愛人の打診――クララと外務局の思惑。のみならず、我が国側にも後押しする者がいるのではないか。私を玉座から追い出すつもりなら、黒幕はじきに明らかになるだろう。
(罪人の子と蔑まれても屈するものか――エヴァと生きられるのならば)
掲げた腕をおろし、エヴァの髪をそっと梳く。
「おやすみ。私のかわいい奥さん」
未来を先取りするように、そっと囁いた。気のせいか、エヴァが微かに笑って見えた。
***
「…………――っ!!!!」
喉を引き攣らせるような悲鳴を聞いて、私は重い瞼をあけた。真っ赤な顔のエヴァが、私の腕の中で慌てふためいている。
「……おはよう。エヴァ」
「ゆ、夢だと思っていたのに……!」
うろたえる姿も愛くるしい。乱れた銀髪にそっと指を通すと、ぴくりと肩を震わせた。
「抱き枕の係、ご苦労様。おかげでぐっすり眠れたよ」
エヴァは、「ぁ」とか「うぅ」とかうめき声を漏らして、視線をうろうろさせている。
「その様子だと、あまりよく眠れなかっただろう。今日は一日ゆっくりするといい」
「グラディウス様は……?」
「私は、迷惑な賓客にくぎを差す準備をしてくる」
「……?」
エヴァの頭を何度か撫でてから、ベッドの外に出た。
「2週間くらい留守にするが、心配いらないよ。楽しみに待っていてくれ」
ゆったり告げて、エヴァの部屋をあとにした。
次話は明日(2/4)のお昼12時ごろです。
よろしくお願いします……!





