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第27話

「そうだな、何から話そうか――」

おとぎ話でも聞かせるような調子で、グラディウス様はゆったりと昔話を紡ぎ始めた。


「私は幼い頃から、自分がどう振る舞うべきか分からなかった。王子だけれど、同時に罪人の子だったから。母は肖像画すら残っていないし、名を口にすることも許されなかった」


淡く笑って語るには、あまりにも重い過去。心のひび割れが垣間見えるようで、私は彼の腕の中でじっと耳を傾けていた。


「ランスが生まれて、宮中の風当たりはさらに強くなった。父は私を庇ってくれたが、それがなければとっくに亡き者にされていただろう」


とても悲しい過去なのに、まるで他人事のように話す。そんなグラディウス様が、なんだか痛ましかった。


「そんな少年時代だったが――ある日、転機が訪れた。父と変装して、城下へ芝居を見に行ったんだ」

「……お忍びでですか?」

「そう。大問題になると思ったが、父は案外けろりとしていた。若い頃は、よく城を抜け出していたらしい」


グラディウス様のお散歩癖は、前王陛下譲りなのね……。


「下町の小さな芝居小屋だったよ。役者と観客の距離がとても近くて、皆よく笑い、よく泣いた。とても楽しかったよ。それを見ていて、ふと思ったんだ。……私も、役者のように生きてみようか、と」

「役者のように……?」


グラディウス様が苦笑している。

「たとえ非力な罪人の子でも、王子の役割を求められたときは王子になり切ることにした。割り切って仮面を被り続けていたら、人生が芝居のように見えてきたんだ。そして王子の役に馴染んだ頃に、今度は国王の役を求められた」


皮肉だね。と、グラディウス様は息を吐いている。


「私は別に、王になりたい訳じゃなかった。だが父を安心させたかったし、ランスが王では国が死ぬ。……だから中継ぎの王として、最善を尽くそうと思った。在位中に体制を整え、退位したら静かに隠居して。あとは誰からも忘れられ、名もない鳥のように生きられたらと思っていた」


「グラディウス様……」


胸が苦しくなった。

望んでもない王位に就いて、それでも国を導いてきた人。本当の彼はきっと、もっと自由な人なのに。


「ごめんなさい。私のせいで……自由が遠ざかってしまいましたね」

「いや、とっくに路線変更済みだ。今は死ぬほど王位が欲しい」

「……え?」


抱き寄せる腕に力を込め、グラディウス様は私を自身の胸元に押しつけた。

「君が欲しくてたまらないから」


――!


ぎゅ。と両腕で抱きしめられて、逃げ場なんてまるでない。

でも、逃げたいとは思わなかった。その腕の中で、胸から直に響く鼓動に耳を寄せる。


やがて、グラディウス様の腕の力が緩んできた。……眠ってしまったらしい。

すやすやと、穏やかな寝息が胸板越しに伝わってくる。

(熟睡してる……)

抱かれたままで見上げれば、あどけない寝顔がそばにあった。そろりと手を伸ばし、癖のない黒髪を指で梳いてみる。


……とても、きれい。


腕から逃げようと思えば、簡単に逃げられる。でも、このまま抱かれていたかった。……だって私は、夜明けまで抱き枕だそうだから。


人生は芝居だと割り切ったグラディウス様と、駒に徹して生きようとしていた私。似た者同士なのかもしれない。


――『君が欲しくてたまらないから』。

彼の言葉が何度も耳の奥で響き、私の鼓動はいつまでたっても収まらなかった。


次話は明日(2/3)の12時です。書き溜め、がんばります…!

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