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第26話

気付けば腰を掬われて、陛下に横抱きにされていた。そのままベッドに下ろされて、身体が跳ねる。

「きゃっ……」

押し倒されて、顔の両脇に腕を突かれていた。見上げれば、甘やかな微笑が降ってくる。


「いいか? 今から私が下す3つの命令に、君は絶対に従わなければならない」

低くて、けれど柔らかな声音。紫の瞳に見下ろされ、ひくりと喉が鳴ってしまう。


「――これは王命だよ」

冗談めかした口調だけれど、逃がす気はないようだ。



恥じらいに、瞼を閉じて顔を背けた。

ところが顎をくいと持ち上げられ、「顔を見せて」と囁かれる。

震えながらおずおずと目を見開ければ、陛下の美貌はすぐ目の前だ。

何を思っているのか読み取れない、陛下の瞳。慈しむようでもあり、なのに情欲の色を孕んでいるようにも見える。


吐息の触れ合うような距離で、囁きが落ちてきた。

「では、一つ目の命令を」

頭の中が、真っ白になる。



「――これから先、二人きりのときに『陛下』と呼ぶことを禁じる」



……え?

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


目を見開いて見つめると、彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「私のことは名前で呼んでくれ。前に頼んだろう? なのに聞き流されて、本当はずっと寂しかった」

「……」

「呼んでごらん」

「…………グ」

喉がからからに乾いて、声が、かすれてしまう。


「……グラディウス、様」

「いいね」

嬉しさを隠し切れない少年のように、彼は顔を綻ばせた。


「二つ目。君はなぜ、強制告白の魔法なんて使ったんだ? どう考えても価値に見合わないだろう」

「……っ」

「虚偽も沈黙も認めないよ。正直に答えるように」


そんなの……私だってわからないのに。

気付いたときには、使っていた。

どう答えるべきか、私が言葉を探していると――。


「もしかして嫉妬した?」

「……!?」

全身がかッと熱くなる。言葉に詰まっていると、彼はくすくす笑い出した。

「なんだ図星か」

「ち、違います、決めつけないでください……」

「かわいいね、エヴァ」

機嫌のいい声でそんなことを言いながら、ツン、ツンと私の頬をつついてくる。

完全に、からかわれている……。


「本当にかわいいな。もっと困らせたくなってしまう」

「……っ。あ、あなた、なかなか良い性格してますね!」

「知らなかった? じゃなきゃ王なんて務まらないよ。――さて、最後の命令は何にしようか」


彼はしばらく考える素振りをしていた。ふと思いついたように頷くと、ずしりと体重を私に乗せてきた。

「ひゃ……!」

首の後ろに腕を回され、そっと抱き寄せられてしまう。


「三つ目の命令を決めた。――今夜の君は抱き枕だ。夜明けまで、こうしていよう」

「破廉恥ですよ!?」

「そうだね」


ふわりと微笑していたかと思えば、不意にいじわるっぽく目を細めて続けた。

「でも、なぜだか体が重いんだ。朝まで動けそうもない……きっと、さっきの魔法で消耗したんだと思う」

「……ぅ」

痛いところを突いてくる。

反論できずに困っていると、彼はもう一度「かわいいよ」と噛みしめるように呟いた。


「今夜は安眠できそうだ」

「と、ところで、晩餐会は良いんですか!?」

「あんなものは欠席だ。宰相たちがどうとでもやってくれる」

(宰相の皆さん、不憫すぎる……)


「晩餐会も表敬訪問も全部うっとうしい。できることなら全部すっぽかして、一日のんびりしていたかった。今日だけじゃない。自分の責務を放棄してどこかに飛んで行ってしまいと思ったことは何度もあるよ。本当は王子だったころから何度も」

――と言った後で、彼は少しハッとしてから苦笑した。


「……失礼。つい口が滑ってしまった。なぜか気が緩んでしまって」


本当に強制告白の魔法の影響なのかもしれない。彼は少し眠そうで、表情から力が抜けていた。

「少し、意外です。……グラディウス様は、どんなときでもご立派ですから」

「そんなことはない。私はね、昔は鳥のように自由になりたかった。今でも、自分が王に向いているとは思ってないよ」


意外な言葉に息を呑んだ。この人以上に王にふさわしい人なんて、いないのに。


驚きの目で見つめていると、彼は少しとろりとした目で見つめてきた。

「興味がありそうだね。聞きたい?」

私はこくりと頷いた。

「いいよ。それじゃあ、昔話を聞かせよう。王ではなかった『僕』の話を――」


私を抱き寄せたまま、彼はまどろみに似た声で語り始めた。


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