第25話
――白日の下に真偽を照らせ。
女神アルカナの祝印が淡く脈打ち、部屋に清らかな光が満ちる。
これは愛と真実の女神が与えた、強制告白の魔法だ。
問いかけられた者は絶対に嘘をつけず、沈黙することもできない。
「どうか、正直に答えてください……クララ元王女を愛しているの? そんな女性がいるのに、私に甘い言葉を囁き続けていたんですか?」
一生でたった3回しか使えない魔法だと、教皇猊下は仰っていた。「内なる女神の導きに従い、あなたが使うべきと信じたときにのみ使用しなさい」と。
その1回目を私は今、生まれて初めて使ってしまった。
「……――」
光に射抜かれた陛下が、息を呑んでいる。紫の瞳が大きく揺れて、唇が開いた。
「違う。――クララを愛したことはない。婚約はしていたがそれだけだ」
自分の口から滑り出す言葉に、陛下自身がひどく驚いているようだった。
言葉の制御が利いていない。勝手に唇から溢れる言葉は、手で口を押さえようとしても止まらない。
「彼女の国に婿入りすることになっていたが、父の崩御で白紙になった。クララに会うのは7年ぶりだ。縁を繋ぎ直したいと思ったことは一度もない。……彼女のことは、軽蔑している」
毒交じりの告白が止まらず、陛下の美貌に困惑が浮かぶ。
第一印象から最悪だったこと。婚約中の不貞騒動。今回の表敬訪問で再会したときの悪印象まで。……意外と陛下は毒舌だった。
「クララを愛するなど、あり得ない。私が愛しいと思えるのは、ただ一人――」
その瞬間、陛下は自分の口を押さえて床に膝を落とした。魔法に逆らうように喉を震わせ、苦しげに喘いでいる。
「も、もう、十分です……! 止まってください!」
叫んだ瞬間、祝印の光が消え去った。陛下の口もぴたりと止まる。
陛下はその場に両手を突いて、額に汗をにじませている。
「……陛下!」
とんでもないことをしてしまった――今さらながら事の重大さに気付き、私は青ざめて陛下の前に膝をついた。
「申し訳ありませんでした、陛下……」
「……エヴァ。今のは? 自白剤でも、盛っていたのか?」
「違います。女神アルカナの魔法で……」
3回きりの強制告白の魔法について説明すると、陛下は大きく顔をしかめた。
「……どうしたんだ。君らしくないぞ」
呼吸を整えながら、陛下は私を見つめていた。
「貴重な魔法を、こんなくだらない自白に使うなんて」
……本当に、その通りだ。
「すみません」
「聞いてくれれば、いくらでも答えた。そんなに私は信頼できないか?」
深くうなだれる私を見て、陛下は静かに息を吐いた。
「いま自白した通り、クララは完全に過去の人だ。……だが、補足する。今日、『国王を辞めて、愛人として来てほしい』と誘われた」
「……っ!?」
「当然、断った。だがクララ一人の希望ではなく、背後にベル=ツェルネ外務局の陰が見える。裏で調査を進めているよ。エヴァが案じる必要はない」
陛下はいろいろ考えていらしたのだ。なのに、私ったら……。
「……ごめんなさい」
魔法に頼ってしまったのは、私の弱さだ。聞けば済むことだったのに。
「強制告白の魔法は、君の切り札なんだろう? 今後は絶対に無駄遣いせず、君自身が幸せになる為だけに使うこと」
陛下は真剣な顔をして、私に小指を差し出した。
「約束してくれ」
おずおずと差し出した小指に、陛下の小指が絡み合う。情けなくなって俯いていると、陛下の柔らかい声が降ってきた。
「だが、信じられない気持ちも分かる。君は加護の乙女という宿命を背負って、自分の素性を偽りながら生きてきた。人を信じるのに、勇気がいるのは当然だ」
この人は、こんなに理解しようとしてくれている。なのに私は――。
「……私を、処罰してください。国王陛下を疑って魔法をかけるなんて、許されることではありません」
「いや。そんなものは――」
言いかけて、陛下はしばし思案していた。
「――確かに、罰は必要だな」
紫の瞳を細め、少し唇を吊り上げる。
「だから今夜は、君にお仕置きをしよう」
……え?
気付けば腰を掬われて、陛下に横抱きにされていた。





