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第22話《side:グラディウス》

ベル=ツェルネ王国は、海を隔てた南方大陸の小国だ。

魔導具の動力源となる魔晶石の世界有数の産地であり、かの国の魔晶石は唯一無二の品質を誇る。

遠方ゆえに疎遠な関係に留まっていたが、今回、先方から表敬訪問の申し出があった。


魔晶石を巡る海路の再開は、この国にとっても利が大きい。

我が国は高度な魔導具技術を有するが、採掘される魔晶石は良質とは言えない。だからこそ、ベル=ツェルネ産の魔晶石は喉から手が出るほど欲しい。

向こう十年の発展を支える資源として、入手できるならどんな努力も惜しまないつもりでいる。


――しかし。

ベル=ツェルネ王国から来る使者の名を知ったとき、私は胸のざわめきを覚えた。



   *


ここは、謁見の間につながる『控えの間』。

間もなく始まる謁見に、扉の向こうから張り詰めた空気が伝わってくる。


私は正装のマントの襟を整え、外交情報の最終確認をしていた。使者は外務局のターナー公爵と、その妻クララ。

――『クララ・ターナー公爵夫人:ベル=ツェルネ王国・元第二王女』。

その一文に、私は小さく息を吐いた。


(……クララか)

二度と会いたくない相手だった。

だが、使者を私情で拒絶するなどあり得ない。それに、たとえ()()クララでも公的な場では弁えるだろう。

婚約者だった7年前までとは、流石に違うはずだ。


――そしてふと、エヴァのことが脳裏をよぎった。

(今頃は、王太后の茶会に向かっている頃だ)

エヴァを案じる気持ちに、心がさざ波立った。しかし今は、政務に集中しなければ。


「陛下。ベル=ツェルネ王国のターナー公爵夫妻が謁見の間に到着いたしました」

「分かった」

文官の報告を受け、玉座に向かう。


「――(おもて)を上げよ」


表敬訪問は、滞りなく進行していった。

ターナー公爵は三十代半ばの恰幅の良い紳士で、柔和ながらも立ち居振る舞いに隙がない。隣のクララ夫人は豊かな金髪を豪奢に巻いて、胸元の大きく開いたドレスを纏っている――場違いな装いは相変わらずだ。


ターナー公爵からの親書を受け取り、私は晩餐への招待を告げた。

夫妻の滞在期間は2週間。その間、魔晶石の交易を含めた諸案件の調整を行うことになっている。日程を確認し合い、この場はこれで終わるはずだった。

「それでは、晩餐の席で――」


しかし。

「お待ちくださいませ、グラディウス様……!」

唐突に、クララが声を上げたのだ。

想定外の振る舞いに、場の空気が張り詰める。


「……どうなさった、公爵夫人」

「昔のように、クララとお呼びくださいませ。婚約者として、愛し合った仲ではありませんか」


――無礼にもほどがある。


「あなたとの婚約は7年前に解消された。この場に相応しい話題ではない」

「まあ。相変わらずつれないお方!」

ぷぅ。と頬を膨らませている姿には、知性の欠片もない。私が拒絶を示そうとすると、ターナー公爵が口を挟んだ。


「かつてのご縁を温め直すのも、両国の親交に資することかと存じます。募る話もございましょう、せっかくですからお二人で過ごされては……?」


(――何か考えがあるらしいな)

クララを使者として同伴させたのも、あえて二人きりにさせようというのも政治的な意図に違いない。感情を先走らせるより、冷静に夫妻の真意を探るべきだと考えた。


「良いだろう。南の庭園で少し話そう」


   *


「本当に懐かしいですわ。この庭園もグラディウス様も、あの頃のままですわね」

庭園の花々に囲まれ、クララは唇を綻ばせている。私を見つめる視線は一見しとやかに見えるが、その仕草は雌の匂いがきつくて不快だ。昔からそうだった。


「……もう、愛を囁いてはくださらないの?」

「認識の相違があるようだ。私とあなたの婚約は、両国の国益を鑑みての物だった。それ以上でもそれ以下でもない」

私が即座に否定すると、クララは目を潤ませた。


「いじわるな人……! あなたは昔からそう。いつも『国のため』、『民のため』……だからわたくしは寂しくて、気を引こうと必死だったの」


……よく言う。王女の身分でありながら、彼女の男癖の悪さは有名だった。


「用件がないなら、失礼する」

「待って!」

立ち去ろうとする私の胸に、クララは強引に飛び込んできた。自らの胸を押し付けるようにして、涙ぐんだ目で私を見つめる。

――本当に、不快な女だ。


払いのけるのは簡単だが、国と国との関係に関わる。冷静に、刺すべきところに釘を刺さねば。


「実は、お願いがあるんですの」

私を見上げ、クララは囁いた。

「来年のご退位後、国王の地位を捨ててわたくしの『愛人』になってください」


――……。

一瞬、理解が遅れた。


「一国の王に愛人の打診だと? 国交を破綻させかねない暴言だ」

「ただの愛人ではありませんわ。爵位も地位も、相応の物を用意します。きっと父上も喜びますわ」


私は、この女の言葉の節々から情報を探ろうとしていた。

なぜこの女は、私が退位すると決めつけて語る? 父上――ベル=ツェルネの王が『喜ぶ』とは何だ?


「あなたがベル=ツェルネに来てくださったら、対価として魔晶石の関税を撤廃してさしあげます。ログルネーテ王国にとって、これほど良いお話はないと思いますわ!」

「……」


私は思考を巡らせ続けた。

――だから、気づかなかった。


庭園の外に、エヴァの姿があったことに。


くっ、何だ、この女……と思いながら書いた今回のエピソードでした。

泥沼化せずにスカッと前に進むので、安心して読み進めていただければと思います……!

明日からも引き続き2話投稿です。

(原稿ストック増えてきました(๑•̀ㅂ•́)و✧)

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