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第19話

そしてお茶会当日――。


お茶会の席は、離宮の中庭に設けられていた。

王城の敷地はひとつながりだけれど、マグダレーナ様がお住いの離宮の空気は他とはまるで別物だ。政務宮や奥の宮などと比べて、装飾過多な感じがする。


「いらっしゃい、エヴァンジュリンさん」


王太后マグダレーナ様は、真夏のひまわりのように鮮やかな黄色いドレスをお召しだった。胸元を彩る煌びやかな宝石は、さながら夏の直射日光。

取り巻きの淑女たちは4人――全員華やかではあるけれど、主役(マグダレーナさま)を引き立てる配色なのが見て取れる。


「マグダレーナ様。このたびはお招きいただきありがとうございます」

淑女の微笑を浮かべて、深々と礼をする。私が纏っているのは、控えめな藤色のドレス。決して目立つことのないよう、さりとて軽んじられることのないよう品質には細心の注意を払った。陛下から贈られた紫水晶のネックレスも、首元を静かに彩ってくれている。


「来てくださって嬉しいわ。ゆっくりしていらしてね」


――そして、お茶会が始まった。

季節の話をしたり、流行のメイクやドレスの情報を交換したり。ありふれた話題に花を咲かせて、淀みない談笑が続いている。私もその輪に加わりながら、今日のお茶会に呼ばれた意図を探っていた。


(今のところは、普通のお茶会ね。始まってすぐにでも嫌がらせしてくるかと思ったけど……)


わざわざ私を呼びつけた目的は何だろう。

私への牽制ではないとすると、やっぱり陛下を貶めるようなことを言うつもりなのかしら。


考えを巡らせていると、マグダレーナ様が声をかけてきた。

「ねぇ、エヴァンジュリンさん?」

猫撫で声……。

敵意はないのよ? と表明するようなその声音に、むしろ背筋がぞわりとする。警戒心は胸に秘め、私は微笑を彼女に向けた。

「はい、王太后様」


「これまでは忙しくて、なかなかご一緒できなかったわね。でも、これからは仲よくしましょうね? 義理とはいえ、あなたとは母娘(おやこ)になるんですもの」


マグダレーナ様がそう言うと、他の4人も満面の笑みで私を見つめた。砂糖水に漬込まれるような、ねっとりとした息苦しさを感じる。


「本題に入りましょう、エヴァンジュリンさん。単刀直入に言うわね。あなた、()()()()()()なさい?」

(えっ?)

耳に入ってきた言葉の意味が、理解できなかった。

ランス殿下と結婚……って?


「王太后様のおっしゃる通りですわ、エヴァンジュリン様」

「ええ。ランス殿下とよりを戻すべきです!」

「とてもすてきな殿方ですもの!」

「あんな素敵な方と結婚できるなんて、羨ましいですわ」


正気なの、この人たち?

私が殿下を捨てた訳じゃない。ランス殿下のほうから、私を捨てたのだ。だからグラディウス陛下が、新たな結婚相手として名乗りを上げてくださったのに。

……なのに今さら、何を言っているの!?


理解不能で混乱しかけ、私は静かに口をつぐんだ。

――けれど、ふと理解が追いつく。

(……ああ。そういうことなのね)


マグダレーナ様の言いたいことが、分かってしまった。

つまりは――「ランス殿下の失言をなかったことにして、婚約破棄の撤回を希望しなさい」と。「加護の乙女である私がランス殿下を望み、次の王として推しなさい」と、強要しているわけだ。


急速に思考が冷えた。

熱のない目で、マグダレーナ様を見つめ返す。

彼女は相変わらず、粘着質な笑みを顔面に貼りつけていた。


「あなたが議会で一言、『ランスを選ぶ』と言ってくれればいいの。そうすれば全部丸く収まるでしょう?」


――へぇ。

いっそ呆れるくらい、浅ましい人ね。


心の奥に、火が灯った。

こんな女に絶対に負けない。


1/29は12時・20時の2話投稿です。

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