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異界ログイン  作者: 穹麿


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第十一話「異世界の指導者」

 ・




 広間を包んでいた重苦しい沈黙は、総理のスキルという視覚的な現実によって、わずかに希望へと傾き始めていた。もはやオカルトではない。この世界には、異世界の力が流れ込んでいるのだ。


「皆様」


 モニターの中の秋月総理は、重々しい表情のまま、声を張り上げた。


「そして、ここからが本題です」


 総理は、カメラマンに指示を出し、カメラの向きを切り替えさせた。映像は、総理が演説しているデスクの横、部屋の一角を映し出す。


 そこには、総理と並んで国を動かす立場にある者たちとは、あまりにもかけ離れた、十二人の異質な存在が静かに立っていた。彼らは、総理の傍で、その時を待っていたのだ。




 まず目を引いたのは、三人の「人外」だ。


 一人は、金色の髪が頭上高くまとめられ、細身ながらも、全身を古風な皮鎧で固めた女性がいた。彼女の耳は長く鋭く尖り、神秘的な雰囲気を纏っている。その姿は、まるで神話やファンタジー映画から抜け出してきた、エルフ族のようだった。彼女の視線は鋭く、モニターのこちら側、すなわち全国の避難民を品定めしているかのようだ。


 そのエルフの隣には、身長が二メートル程の、全身が引き締まった筋肉に覆われた屈強な男が控えている。男の髪は赤褐色で、その顔の輪郭は狼のように鋭く、琥珀色の瞳は獲物を定める狩人の輝きを放っていた。彼の耳の上部には、獣の特徴を示す毛の房があり、まごうことなき獣人族の戦士であることを示していた。


 そして、もう一人、深くフードを被った男が、常に周囲の空間を警戒するように立っている。フードの下から覗く皮膚は、鱗のように青く輝き、それが人類とは異なる種族、おそらくは水の民であった。


 他にも、ローブを纏い、まるで星空を閉じ込めたような深い青の瞳を持つ男、東洋風の豪華な装束を身につけた体躯は小柄だが威圧的な女性など、多様な種族と人種が混在していた。彼らは皆、戦闘に特化した装備を身につけており、その存在感だけで、映像越しにも圧倒的な威圧感を放っていた。





 総理は、映像の中の異世界人の集団に軽く目配せした。


「皆様。彼らこそが、先に申し上げた『大融界(マージア)』により、我々の世界に辿り着いた、異世界の者たちです」


 総理の指示を受け、その集団の中央にいた、特に威厳のある体躯の男が一歩前に出た。彼は、全身を重厚な銀色のプレートアーマーで包んでいた。


「皆さん、初めまして」


 彼の声は、鍛え抜かれた腹筋から発せられたかのような、深く、響き渡る声だった。


「私は、エルトリア王国の王宮に仕える騎士団長、ガリウス・ヴォルフと申します」


 フェリオンは、その重々しい騎士の姿と名前に、ただ強い警戒心を抱いたままモニターを見つめた。


 ガリウスは、避難民の驚愕の視線も気にせず、力強く話を続ける。


「我々、異世界から来た者たちは、この世界に突然現れました。あらゆる世界の者達と移動系魔法を試しましたが、残念ながら、私達が自らの意思で世界を自由に行き来できる訳ではないようです。恐らくは外にいる存在も同じでしょう」



「私達はこの現象に巻き込まれた存在です。ですが、私達のような存在が皆様の味方であることを宣言します。外の事はお任せ下さい。皆様が遭遇したような魔物、それらを討伐するには、私達のようなスキルや戦闘経験がある者が必須だからです」


 そこで一度ガリウスは言葉を区切り、眉間に皺を寄せる。


「しかし、今現在、外の魔物は次々と現れ、手に負えない状況です。増援を頼みたいところですが、連絡手段もありません。いつ現れるか分からない存在を頼る訳にはいかないのです」



「そこで、私達と同じように、過去異世界へ行き、幸運にもこちらに帰還されたリターナーの皆さま。私から、要請します。あなた達は、他の世界に深く干渉し、私達と同じように戦闘能力(スキル)を獲得したものがいるでしょう。どうか、その力を使っていただきたい」


「現在、戦闘経験を持つ異世界の者は、日本国内に五十七名を確認しています。そのうち、私達十二名が、皆さまに対し、魔物の特性、異世界の魔法に対する耐性、そして、ご自身が持つスキルの適切な運用法を、きちんとした訓練として指導させていただきます」


 騎士団長ガリウスが、真剣な表情で締めくくった。


「ですが、これはお遊びではありません。これは、命をかけた戦いです。それをしっかり自覚している方のみ、このお手伝いをお願いしたい。覚悟なき者は、私達の戦場に必要ありません」





 その話の後、広場の隅で、避難民のリターナーの中から、一人の若い男が、興奮と戸惑いが入り混じった様子で立ち上がった。彼は、ガリウスの「リターナーはスキルを獲得している」という言葉に刺激されたのだろう。


「お、おい!本当にスキルなんて使えるのかよ!?だったら、俺だって!」


 彼は、周囲の視線も気にせず、まるで試すように両手を前に突き出した。


「フレア・アーム!」


 彼が聞き慣れない言葉を叫んだ、次の瞬間、男の腕から、激しい炎の塊が、轟音と共に噴き出す。


「うわああ!一体なんだ!」

「火事だ!」

「本物だ!」


 シェルター内に、パニックの悲鳴が響き渡った。天井が低く、物資が積まれたこの避難所で、炎など出されたら大惨事になる。避難民は、恐怖で我先にと逃げようと、再び混乱の渦に飲み込まれた。


 炎は男の腕から数十センチのところで球状に凝固し、周囲の空気を歪ませるほどの熱を放っているにも関わらず、幸いにしてそれ以上の延焼を起こすことはなかった。


「静粛に!落ち着きなさい!その炎をすぐにしまうのです!」


 壇上の初老の男が、顔色を変えて怒鳴った。彼は軍人たちに指示を出し、騒ぎを起こした男に駆け寄らせる。


 しかし、炎が熱を発していることは明白で、避難民の恐怖は収まらない。


 その時、広場の別の隅で、一人の少女が目を輝かせた。彼女もまた、炎を目の当たりにし、自分の能力を試さずにはいられなくなったリターナーだ。


「えっ、本当に使えるんだ……!なら、私も!」


 少女は両手を前に突き出し、炎を出す男に向かって、無意識に、しかし必死に叫んだ。


「水、水、水になって!」


 少女の目の前の空間に、突如として透明な水の塊が出現した。それは、炎を出す男が作ったフレア・アームの炎めがけて一直線に飛び、炎を、一瞬で包み込む。


 シュウウウ……


 音と共に、炎は消え去り、水はわずかな水蒸気になって消散した。炎を出した男も、水を出した少女も、そして周囲の避難民も、皆が驚愕に目を見開いた。


「え、ほんとに……使える……?」


 少女は震える声で呟いた。彼らリターナーの力は、まごうことなき魔法だったのだ。


 静まり返った広間の中央で、初老の男は、指示を出した。炎を出した男は、軍人に拘束されながらも、自分の力を試せたことに興奮しているようだった。


「道を開けろ!あの扉の奥が、中央訓練施設へと続く道だ!」


「いいか。これは、遊びではない。冷やかしはなしだ。覚悟があるもののみ、その扉をくぐれ!」


 スーツ姿の男は、さらに重要なことを付け加えた。


「奥で異世界からの指導者たちが待機している。だがその前に、スキルに関する最終検査を行う。スキルを持っていない、あるいは覚悟がないものがいた場合は、直ちにこのシェルターへ戻ってもらう!」


 




 俺は隣のフェリオンを見た。


「フェリオン、お前は行くんだろ?」


 フェリオンは、奥の扉を見つめ、静かに頷いた。


「ああ、行くよ。あの騎士団長とこの国のトップが連携しているのなら、帰る方法に関する情報が、向こうの方が得られやすい」

「そっか。じゃあ、頑張ってね」


 俺は、自分の竹刀袋を抱き直した。


 その言葉を聞いたフェリオンは、驚いた表情で、目を丸くして俺を見つめた。


「は?何言っているんだ、真。君も行くだろう?」


 俺は当然だという顔で首を振る。


「いや、俺?行かないよ。だって、俺、異世界に行ったことないし」


 その言葉は、フェリオンの勇者としての冷静さを、完全に打ち破った。彼は、まるで地球の重力が逆転したかのように、言葉を失って俺を凝視した。


「な、何を言っているんだ……?」


 フェリオンは、思わず一歩後ずさった。彼の顔には、この世の全てを疑うような表情が浮かんでいる。


「じゃあ、なんでスライムを倒せたんだ!?」

「え、核を壊したら倒せるんでしょ?竹刀で殴って壊したよ」


 俺は当然の行為を述べただけだ。しかし、その言葉はフェリオンにとって、致命的な矛盾を孕んでいた。


 フェリオンは、周囲の喧騒も忘れ、俺の顔に顔を近づけた。


「あれは、僕の世界にいるスライムだ。あの時、君に言っては無かったが、あれは魔力の塊だから、普通の物理攻撃は効かない」

「でも、効いたよ。核を狙えば一撃だった。君も言ったじゃん」


 フェリオンは、信じられないというように、自分の頭を抱えそうになった。


「ああ、魔力を持った人間の物理攻撃は効くんだ!」


 フェリオンは、俺の顔を真っ直ぐに見つめた。彼の碧眼は、真実を問い詰める剣のように鋭い。


「まさかとは思っていたが、君は、自分が魔力を持っていることを、自覚していないのか?君の、その竹刀が、魔力の器として機能していたことに!」


 俺は首を傾げた。


「魔力?何それ。俺が持っているのは、竹刀と剣道の段位だけだけど」

「……もういい。真、僕の目を見て、逸らさないで」


 肩を掴んだフェリオンが静かにそう言うと、彼の碧眼の瞳孔の中で、まるで機械が起動したかのように奇妙な金色の文字列と古代文字が高速で回転し始めた。


鑑定眼(アプレイザル・アイ)

「な、なにされてるの、俺……」


 俺は突然のことに戸惑い、フェリオンの手を振り払おうとした。彼の瞳の奥で、無数のデータが流れているのを感じ、本能的な嫌悪感を覚えたのだ。しかし、フェリオンの握力は強く、肩が動かせない。フェリオンの視線は、俺の全身を、細胞の一つ一つまで、有無を言わさず読み取っているようだった。


 数十秒間、フェリオンの瞳は激しく輝き、回転し続けた。その間、フェリオンの額には、大粒の汗が滲み出ている。


「大丈夫か?フェリオン?おい、フェリオン!」


 やがて、その光の回転がゆっくりと収まり、フェリオンはまぶたを閉じた。彼は深く息を吐き、俺の肩を掴んでいた手を緩めた。


「やっぱり、これは疲れるな。プライバシーに関わるから、本当に緊急時でないと使わないんだけど……」


 フェリオンは、額の汗を袖で拭いながら、俺に改めて向き直った。彼の表情は確信に満ちていた。


「真、君はスキル持ちだ」


 二人の間に、重い沈黙が降りた。



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