エピローグ 空より、雨へ
春が来たね。
あなたが空を見上げるたび、私はそこにいるよ。
もう、声は届かない。
もう、手は握れない。
でも、あなたの中に私はいる。
あなたが泣く夜も、あなたが笑う朝も、私は、あなたのそばにいる。
雨。
あなたに名前を贈った日を、私は忘れない。
あなたが初めて「空」と呼んでくれた日、私は、母になった気がした。でも、私は母になりきれなかった。
強くあろうとするほど、弱さを隠してしまった。
あなたに頼りたかった。でも、頼ることが怖かった。
あなたに甘えたかった。でも、甘えることが許されない気がした。
だから、私は一人で背負った。
あなたを守るために、あなたを遠ざけた。でも、あなたは離れて暮らすことを選んだ。
それは、私を拒絶したんじゃなくて、私に頼られたかったからだと、今ならわかる。
あなたは、もう子どもじゃなかった。
私の痛みを、一緒に背負える年齢になっていた。
私が気づけなかっただけ。
ごめんね。
ありがとう。
あなたが私に怒ってくれて、うれしかった。
あなたが私を好きでいてくれて、救われた。
あなたが私を赦してくれて、誇らしかった。
雨。
あなたは、私の空だった。
私が生きる理由だった。
私が愛したすべてだった。
だから、私は安心して、あなたに託せた。
あなたが生きてくれるなら、あなたが誰かの“空”になるなら、それが、私の願いだった。
もう、あなたは一人じゃない。
私の愛を胸に、あなたは生きていける。
空のいない空の下で、あなたが歩いていく姿を、私は、いつも空のように見守っている。
今日も、あなたの上に、空は広がっている。
そして今――
あなたは、誰かの手を握っていた。
少しだけ不器用に、でも確かに。
あなたの目は、まっすぐ前を向いていた。
その背中に、私の名前が宿っていた。
そして、ふっと――あなたが振り返った。
風が吹いて、光が揺れて、その瞬間、あなたの目が私を探していた。
迷いもなく、ためらいもなく、あなたの目は、まっすぐ空を見ていた。
私がいた場所を、私がいた高さを、あなたは、ちゃんと見つけてくれた。
あの日、私があなたを見つけたように。
今度は――――――あなたが私を見つけてくれた。
私は、笑った。
あなたが生きていることが、何よりうれしかったから。
これで空と雨の物語はおしまいです。誰か1人でも読んでくれていたらうれしいです。
お付き合いいただきありがとうございました。
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