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18.悪女はしぶといのをお忘れなく

 リナちゃんが乗った馬車が城の裏口から出てくるのを見て、ふっと息を吐く。


「……本当に君は面白い子だね」


 通販という事業を展開する際の資金の動きだったり、彼女が城に足を運んでいるのを何回か目撃したから、誰かしらと接点があるだろうとは思っていた。


 特定はできていなかったから尾行していたら、彼女が皇家の紋章を取り出したのにはさすがに驚いた。


(点と点がつながったな。さて、どうしようか……)


 アダムの姉妹からエリザベート様についての情報を聞き出してたら、最近ある人物とエリザベート様が頻繁に会ってることがわかった。それを聞いて、悪影響を及ぼす小説を書かせたリナちゃんを悪としたり、小説は燃やすべきだと過激な考えが急に広まったのも合点がいった。


(要は金と権力なんだよねー)


 夫を亡くしてからエリザベート様は変わったけど、さすがにここまでのことを1人でやってのけるほど冷酷になったとは思えなかった。だから誰かの差し金なんじゃないかとは思っていた。だけどそれがここまでの大物だったとは。


(あの人の目的は、小説とリナちゃんの排除なんだろうなー)


 本人は矢面に立たず、エリザベート様を隠れ蓑にしてことをなそうとしてる。


(ずるくて賢い。そうして自分は身綺麗なまま欲しいものを手に入れるわけだ)


 俺も似たようなものだから、やり口が手に取るようにわかってしまう。


(もし今回のことが失敗しても、あの人が諦めるとは思えない。欲しいものを手に入れるためなら手段は選ばなそうだし……)


 俺は基本、面白いことが好きだ。でもあの人の思惑通りになったら、俺が気に入ってるものまで壊されてしまう。


(それは嫌だなー。全然面白くない)


 命がけで何かをしてみたいだとか、情熱なんてものは持ち合わせていないけど。


(横取りされるのは死ぬほど嫌だ)


 だから俺は、この情報をリナちゃんに伝えることにした。彼女がこの情報をどう活かすのか、見てみたかった。



          ◇ ◇ ◇



 城から屋敷に戻ってから少しして、ノエルが訪ねてきた。


「2人きりで話したいことがあるんだよね」


 いつもと変わらないノリだったけど、少しだけピリつくものを感じて、セラスには席を外してもらった。


「実はかなり重要な情報を手に入れちゃってさ」

「……また見返りが欲しいってこと? 言っておくけど、前みたいなのは……」


 不意打ちをされないよう、頬を両手でガードして牽制する。


「嫌だな、もうあんなことはしないよ」


 ノエルは私を安心させるように笑った。


「いや、もうその笑顔には騙されない……」


 と言いかけた私をノエルが抱きしめる。


「どう? アダムが書いてる恋愛小説みたいにドキドキする?」

「なっ」


 またからかったのか、と思うも。


「俺は……何も感じない」


 淡々とした声に言葉を失う。


 ノエルは女性に対して優しく、欲しい言葉をくれる。だからみんなノエルに夢中になって、彼のために自分の持っているものを差し出す。


 ゲームでは依存した人が命を差し出したり、ノエルを奪い合って殺し殺される展開なんてものもあった。だけど彼はそんなことがあってもいつも通り、まるで自分とは関係ないかのように振る舞う。


「本当の俺は空っぽなんだ。だから誰も俺を満たせない。でも君なら……俺を満たしてくれるんじゃないかと思って」


 胸を締め付けられるかのような告白。


 シチュエーションも相まって、絵になるワンシーンだ。普通の女性ならノエルを抱きしめ返すところだろう。でも――


「その根拠は何?」


 ノエルを引きはがし、私は冷静に返す。


「根拠?」

「そう。ちょいちょいちょっかい出してくるけど、こっちの反応や周りの反応を楽しんでるようにしか見えないし……根拠に乏しいのよね。今も私がどんな反応をするか見たいだけでしょ?」


 乙女ゲーの選択肢は、攻略キャラの意見に合わせたりヨイショすると好感度が上がりやすい。でも『愛憎不落』はそうした一見真っ当な選択肢を選ぶと失敗することが多かった。それが最も顕著なのがノエルで、彼の手練手管に落ちるとバッドエンドなのである。


「残念ね。そういうことなら他をあたってちょうだい」

「ふ……ふふ、ハハハッ」


 引導を渡したのに、ノエルはお腹を抱えて笑い出す。


「あー、やっぱり君は面白い。ちょっとは流されてくれるかと思ったけど、容赦なかったね」

「一体何なの。こんなふざけたことをしてる時間ないんだけど」

「そんなに怒らないでよ。エリザベート様の裏にいる人物の情報、知りたくない?」

「!」

「……さすがに目の色が変わったね」


 遊んでいるようで主導権はノエルにあるのだと歯噛みする。


「何が望みなの?」

「……強いて言えば、君が面白いままでいてくれることかな。その方が俺も退屈しないで済みそうだし」

「面白くしてる自覚はないんだけど……」


 こっちは生きるのに必死なだけだ。不服を漏らすと、ノエルは笑みを深めた。


「いやいや、隣国の王女に敵視されてるなんて面白すぎでしょ」

「え……」


 重要なことなのに、なんでそんなさらっと言ってしまうのか。


「今、王女って言った?」

「言ったね」

「エリザベート様の裏にいるのが王女ってこと?」

「そう。心当たり、ない?」

「ないわよ!」


 隣国の王女なんてゲームにも登場していない。なのに出張ってくるだけじゃなく、なぜ敵視されなくてはいけないのか。


「エンタメ世界に広め隊には、他の隊員が知らない人がいるよね?」

「っ!」


 息をのんだ私を見て、ノエルは窓の外へと目を向ける。


「まだ極秘の話だけど、ベイル様と王女の婚姻話が持ちあがってるらしくてさ。なんでも以前開かれた舞踏会で王女が一目惚れしちゃったとかで」


(一目惚れ? ゲームのベイルルートで一目惚れするのはリナだったはずだけど……)


 そこである仮説が生まれた。


(本来の流れだと舞踏会に参加したことでリナが婚約者になって、アリシアとベイルを取り合う。だけど私が行かなかったから、私の役どころが王女になったってこと?)


 フラグをへし折っても悪女になってしまったように、どこかでつじつまを合わせようとする力が働くということだろうか。


「王女はベイル様の女性関係を調べたんだろうね。そしたらある女に多額の援助をしてる。そりゃその女の商売ごとつぶして破滅させたくなっても不思議じゃない」

「ご、誤解よ。ベイル様は小説が好きで援助してくれて……。それに好きな相手は私じゃないわ」

「あれ、そうなの? だとしても王女はリナちゃんのことが好きだから援助してるって結論付けちゃったんだろうね。だから小説ともどもリナちゃんを葬り去りたいんだよ」

「それで……エリザベート様と結託したってこと?」

「表立って王女が動くわけにはいかないからね。アダムが小説家のルチダだってことは隠してたのに、どこから情報が漏れたか怪しいと思わなかった?」

「まさか……」

「そう。アダムは自分の意思で小説を書き始めて、エリザベート様は知りつつ静観していた。だけど今回、リナちゃんに強要されてアダムは書かされたってことになってるよね? エリザベート様からしたら、小説が悪いものだとされてしまった今、噂を否定することはできない。真実を話せば、攻撃の矛先がアダムに向いてしまうから」

「エリザベート様は……アダムを守ろうとしてるのね」

「そのためにリナちゃんに犠牲になってもらうしかなかった……ってところかな」


 本当のことを言ってくれたらという思いもあるけど、母親として言えなかった気持ちもわかる。


(だからってこのまま悪女になるつもりはないわ!)

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