第7話 あたらしいからだ
お母さんの首から血が流れて床にたれていく。
お腹からも真っ赤なえきたいがあふれて白い服を汚していく。せっかくの新しい服。服が家にとどいたとき、浮気相手に電話してよろこんでいたのに。
お父さんが帰ってくるまではいつもと変わらない日曜日だったはずなのに、明日になれば学校に行っていつもどおりすごせるはずだったのに家のじょうきょうは数十分くらいの短い時間で変わってしまった。
もう、もどれない。ボクはそう思いながらオリを両手でにぎっていた気がする。
ピクピクと動いていたお母さんの足先の動きが止まった。
お父さんはお母さんのお腹の中からゆっくりと顔を上げて、ボクの方へ振り返った。
口の周りはケチャップをつけたみたいにお母さんの血で真っ赤になっていて、血が流れてるんじゃないかと思うくらい目は充血していた。
いつもクリーニングに出している白いワイシャツやネクタイは、もう赤い絵の具にひたしたみたいに血に染まってぐちゃぐちゃになっていた。
お父さんが口を大きく開ける。次はボクを食べようと血の色の歯と歯の間からヨダレがたれた。動物みたいな、完全にゾンビのうなり声が部屋の中にひびいた。
──そこから先はよくおぼえていない。でも、ボクはお父さんがおそってきた瞬間にオリから抜け出してぎゃくにお父さんをオリに閉じこめた。そして、次に起き上がったお母さんも同じようにオリに閉じこめてカギをかけてぜったいに中からは出られないようにした。
あのとき。お母さんが新聞の号外を持ってきたとき、お母さんが遠くへ逃げようとキャリーバッグににもつをつめこんでいたとき、ボクがテレビで動画を見ていたとき、みんなですぐに逃げようとなれば、2人はまだ人間のままだったかもしれない。
でも、もうしょうがない。
それに、2人がゾンビになってくれたことでボクたちは久しぶりに朝ご飯も昼ご飯も夜ご飯もいっしょに食べることができている。
「でも」
ボクはイスからジャンプすると、カッターで顔をめちゃくちゃにさしたお父さんを見た。
やっぱり、動いていない。
どうしよう。
「……新しい体を探しにいくしかないかな」
ちょうどカッターもこわれちゃったし、お皿もなくなったし、もえるゴミのふくろもいっぱいだ。