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日本植民地化計画の末路  作者: 遠山枯野
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ペリー提督からの依頼

 私がアメリカ合衆国のスパイとして日本に潜伏する前に、海軍提督マシュー・ペリーから依頼された内容はこうだ。


「オランダ人に成りすまして、日本に潜入せよ。情報の少ない日本という国の現状を知ること、その上でその国を植民地化するための方策を練ること。私は数年のうちに海軍を率いてその地を訪れるであろう。その時に私の力になってくれ。」


 彼が黒船を率いて、日本に現れる10年ほど前、西暦1844年のことである。

 私の父はオランダから合衆国に移住した世代であり、私にもオランダ人の血が流れている。人種のるつぼと呼ばれる合衆国では、珍しくない。父が仲間と話すオランダ語を幼いころから聞いてきた私は、その言語を流暢に話せる。オランダ人のふりをすることは難しくなかった。

 一方で、西洋列強によるアジア諸国の植民地化が進む中、出遅れた新生国家であるアメリカ合衆国はこの極東の国、日本に目をつけた。日本がいまだ独立を貫いていたこともあるが、これには地理的な要因も絡んでいた。北アメリカ大陸からアジアに至る大西洋側の海域においては列強の支配が及んでおり、通過困難であった。そのため太平洋を横断し到達できる、この日本に拠点を作り、他国に植民地化されたアジア地域に睨みをつける戦略は魅力的であった。

 その日本はというと、キリスト教廃絶のための鎖国政策により、300年近く外国との交易を絶っており、オランダのみがその例外として認められていた。そんな事情も相まって、私が秘密裏に役目を任ぜられた次第である。

 私は、アジア諸国を就航するオランダ商船が清国の港に停留した際に、理由をつけて便乗させてもらった。長崎の出島にあるオランダ商館に到着すると、日本に滞在したい旨を話して、仕事を得るところまで、難なく事が運んだ。

 半年間、私はオランダ商館で働きながらも、この国の文化、歴史、政治体制を知ること、言語を習得することにプライベートな時間を費やした。その翌年に、幕府の重役に近づき、オランダ商館との窓口、兼通訳として採用された。

 日本という国やそこに生きる人々を知るにつれて私は内心驚かされた。長年、国を閉ざしてきた島国であることから侮っていたのだが、この国は決して未開社会でなかった。もちろん、彼らが泰平の世を生きる間、百年戦争や産業革命を経験してきた西洋列強に軍事力において及ぶはずもない。その代わり、他のアジア諸国でも目にしたことのないような独自の文化を育て、多くの民が読み書き能力を有している。軍事面では、欧州の最新鋭の兵器には及ばないものの、剣術による戦闘力が高く、戦となれば結束力が強い。義理人情を重んじ、粘り強く鍛錬を積むことができる。私は日本に高いポテンシャルを感じた。

 この国を武力での支配しようとしても、国民の反発を食らい、お互いに多くの血を流すことになるだろう。まずは交易で有利なポジションを取り、徐々に手堅く支配していくのが良い。私の当面の方針としては、この国の味方をするふりをして、隙を見ては、我々に有利な方向へ推し進める策がないものかと考えることであった。

 結果的に、私はある重要人物を死に追いやった。当時はこれが分水嶺になると信じていた。確かにこの国に内部分裂を招き、混乱に陥れるためにある一定の効果はあった。しかし、この国の人々の気質と志の高さに加え、地理的条件、列強諸国の勢力関係、などの複数の幸運もこの国に味方して、結局は、私の目的は成就しなかった。今となっては、彼らは不平等な通商条約をも解消し、我々と肩を並べる強国へと変革を遂げた。

 私は自分の行いを後悔している。もともとこの国を植民地化するなど無理な話だったのだ。そして、私が死に追いやった人物がもう少し長く生きていたのなら、この国に多くの血が流れることもなかったのだから。

祖国からも知らぬ間に見捨てられていた私は、罪滅ぼしも兼ねて、この国に骨を埋める覚悟をした。そして、この地を踏んでから40年が経過した今でも外国語教師として滞在している。

 私は、不本意にも、この国の行く末を見届けて、後世に伝えるという使命を授かってしまった。もはや見るべきものは見たと思っている。ゆえに今、私は己の行いを暴露するとともに、この国の幕末と呼ばれる時期から明治維新に至るまでの動乱期において、目の当たりにしたものの一部を記そうと思う。

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