ミーニャの特技そして突然の
ミーニャには、特技がありました。蛇口の向きを両手で器用に変え
るという技でした。これはアンディさんが息子のケント君をお風呂に
入れた後に、ミーニャを洗っていたようでしたが、その時に覚えたの
だとピンときました。たまにミーニャの毛がふかふかで洗い立ての時
がありました。
僕は、ひょっとしたら賢いミーニャとコンタクトがとれるのでは、
と考えました。雨が降りそうなときに、空から雨が降ってきそうなの
で今日は散歩をせずに帰ったほうがいい、と空を指さしてパラパラと
雨が降るジェスチャーをしました。ミーニャはこちらをジッと見て、
空を見上げて、帰って行きました。
ミーニャは僕がいないと帰ることがありました、帰る時に気がつい
て声をかけると戻ってきて水を飲みました。
ミーニャ、鳴いてくれないとわからないよ?と声をかけると、次の
日から、来るとニャーと鳴いて知らせるようになりました。
僕の言うことを理解しているようでした。
ある時、ミーニャの前を一匹の蚊がふらふらと飛んでいました。
ミーニャは蚊に気づき、しばらくジーッと蚊を見ていました。首を
動かし目で追っていました。突然、両手で蚊をパーンと叩きました。
驚いたことにミーシャの手からポロリと蚊が落ちました。
僕の場合は、蚊を見ると両手でヒラヒラ何度か叩こうとしますが逃
がしてしまのが常でした。ミーニャはハンターそのものです。
水を提供するかわりに蚊を退治してもらう関係が成立しました。
ミーニャは、なぜかたまにスリムボディに見えたり、目の色が違っ
て見えたり、まるで分身の術を使っているかのようでした。
その疑問はある晴れた日に解明しました。うちの物干し場の屋根
に五匹の灰色の猫がゴロゴロひなたぼっこをしていました。お父さん
灰色猫、お母さん灰色猫、子供たち灰色猫です。うちに来ていたのは、
お母さん灰色猫でした。ミーニャはこちらに寄ってきて、いつもうち
の家族がお世話になっているわねぇ~と言わんばかりに僕の手に顔を
スリスリしてきました。
アイディさんは息子のケントくんをお風呂に入れた後に、この五匹
の灰色猫を洗っていたのです。
そんな肝っ玉のアンディさんにはお友達も多かったようです。ある時、
僕はその一団に遭遇しました。狭い路地に7人の背が高い赤や青や黄色
ピンクの国旗さながらの壁が歩いてきました。アイディさんのお友達ら
しく彼女たちは迫力がありました。僕は圧倒され、口をポカンと開けて、
フガフガと首を下げ会釈をしたら、ちょっと笑われたような気がしまし
た。
ミーニャは、相変わらず遊びに来てくれました。いつの間にか洗濯カ
ゴの中をベット代わりにして、ちょこんと入っていました。
僕はミーニャのために遊びグッズも買ってきましたが…………。
その日以来、姿を見せなくなりました。
隣の家に、空き家の張り紙がされているのを発見したのは、かなり経
ってのことでした。アンディさん一家は引っ越して行ったようです。
当然ミーニャも一緒に行ったのでしょう。
一度だけ、おじいさんらしき男性がケントくんをベビーカーに乗せて
歩いているのを見かけました。
挨拶をしたら、まぁ こんなことでね、と苦笑いをしました。
一抹の寂しさがないと言えば嘘になりますが、
ミーニャがどこかで元気にしてくれていたらそれでいい…………。
買ってきた羽付きねこじゃらしを洗濯カゴの中に入れました。
ポツンと雨が降ってきました。