アンディさんとミーニャがやってきた
こんなにモテたことはなかったのです。猫のミーニャは日に何度
も会いにやってきました。水を飲むのが目的かもしれないけど、僕
が見当たらない時には帰っていくから、まんざら水だけが目当てで
はない気がしました。
ミーニャとの出会いは、ある晴れた日に物干し場でシーツを干し
ていた時に塀を見慣れない猫がスタスタとこっちにやって来ました。
よく見かけるハチワレでもミケでもなく、全身が灰色の猫がミー
ニャでした。
猫は逃げるものだと思っていたから、ミーニャが寄ってきて僕の
目の前でじーっと見て、びっくりしました。その瞳はブルーと
グリーンが混ざったような深い海の色をしていました。僕のことを
大きな猫とでも思ったのかな。ミーニャは、シーツがはためく隙間
をスタスタと行ってしまいました。あとから、隣のアンディさんの
猫だと知ったのです。
最近 引っ越してきた夫婦の奥さんがアンディさんで、引っ越し
蕎麦ではなく、花柄の銀紙チョコを持ち挨拶にやってきました。
旦那さんは日本人でパーカーを着た学生風の男性でした。
アンディさんは背が高く、金髪ショート、ブルーの瞳を持つヨー
ロッパ系のようで片言の日本語を話しました。
日本の下町の古民家風は、外人さんに人気があるとは言え背が高
いアンディさんには狭苦しいのではないかと思いました。
きっとお国のお宅は広くセントバーナードみたいな大きな犬が庭
を駆け回り、食卓にはミルクが入った大きなピッチャーを想像する
のは テレビの影響なのかもしれません。
しかしアンディさんの日常は派手でした。旦那さんと大喧嘩をし
ては表の窓ガラスが割れ、ぽっかりとあいた窓はピンクのミッキー
マウスのバスタオルで覆われていました。とても斬新で面白い工夫
です。それ以来、近所の子供達にミッキーの家と呼ばれるようにな
りました。
アンディさんのお宅には、アフリカ系の方やバングラデッシュや
インドの方が来ていました。
ある時には、嗅いだことのないお香が焚かれていました。
土に漢方薬とカレーと人の汗が混ざったような不思議な香りでし
した。またある時には、太鼓を叩いて踊っているようでした。
夜に2メートル近いでしょうと思われるアフリカ系の男性が、うち
に間違えてやってきました。マチガウマシタ、ゴメンナサイ……
と言って そそくさと隣のアンディさん宅に行きましたが、僕は腰
を抜かしそうなほど驚きました。
もっと驚いたのは、その後 アンディさんのお宅の土間で焼き肉
パーティが開催されたからです。七輪を置いて囲むように3人座って
玄関の戸を開けて肉を焼いていました。雪が舞う中、コートを着込ん
で狭い土間で肉を食べ、時折雪の降る外に出て民族的な歌と踊り~
『どこでも楽しめるんだぜ?』 と聞えたような気がしました。
(土間でも、やろうと思えば焼き肉がデキるのか……)。
僕の頭の中の硬い何かをブチ破ってきました。