ラブかライクか、それともDearか
「ねえねえ、レオン?……レイラさんに看病されてたって、本当かい?」
「あ?なんだよジェイメス。酒場で軽食奢ってまで聞きたかったことって、それかよ…」
ピーク過ぎを狙ってギルドに訪れると、珍しくクリムゾンの副リーダー的存在のジェイメスが、併設された酒場にて独り飲んでいた。
何かあったのかと思って声かけてみたら、どうも俺のことをずっと張ってたそうで………早朝に家を出たこともあり、朝飯食ってなかったんでお言葉に甘えて冒頭に至るってわけだ。
「私にとっては重要なことなんだ……!それで、どうなんだい?」
「まぁ……本当ではあるな。ってか、俺が臥せってたなんてどっから聞いてきたんだよ。アレックスにも言ってねぇぞ、俺」
「ぐわあぁぁ……本当なんだね………羨ましい………あぁ、リオ君がね。先輩大丈夫かな、って呟いてたのをちょっと尋ねたんだよ。あの子が他にも話してなければ、知ってるのは私くらいだし、そこは安心していいと思うよ」
「いやまぁ……べつにバレてんなら、それはそれでどうでもいいんだがな……なんだよ羨ましいって――まさかお前…!」
「………この歳にもなって独り身なのが、最近はやたらと不安に思えてきてね。周りのほとんどが身を固めている現状になおさら……それに、40歳もそろそろ見えてきたから……この際、片想いでも頑張ってみようかな…なんて思っているんだよ」
「えぇ……それで、あいつを狙うのか?……うーん、まぁ……頑張れ」
「……っ…へぇ、意外だよ。レオンは応援してくれるんだ……てっきり…」
「ははっ、ないない。あいつとは友達であったとしても、好きとかの恋愛感情は互いに一切ないんだわ」
俺に恋患いするやつなんて相当な物好きだぜ?……俺は人の気持ちに特別鈍感な訳でもないからな。さすがに一年近くも付き合いがあれば分かるのよ。
まっ、絶対にないが、もしレイラが俺のことを好きだと仮定しても……それでも俺はお断りしたいな…。だってあいつ、俺が食欲落ちながらも粥食ってる隣でガツガツ普通の飯食いながら酒とか飲み始めるんだぞ?
たしかに、世話焼きというか、甲斐甲斐しくはあるとは思うが……そこに自分の好きなことを排してまではしないタイプなんだろうな。最終的な優先順位の一番は自分だってことよ。
友達としては付き合いやすいが恋人、結婚相手にはしたくない…ってのが俺の所感だ。互いに自分が一番ってなると、普段の生活ですれ違い……というか、次第に無関心になっていきそうだしな。
「ま、豊穣の灯りのメンバーを狙うんなら、こないだの俺の騒動よりも倍……覚悟する必要はあると思うぜ?」
「……無茶してでも金級を目指す努力も視野にいれないと…かな―――」
「――あっ……先輩っ?!も、もう大丈夫なんですかっ?!」
「おー、リオか。なんか久しぶりに見た気がするわ……ん?なんか少しやつれたか?」
「い、いえ!僕は特になにも!それより、先輩はこんなとこまで出歩いても良くなったんですか?急に倒れたりとか……」
「大丈夫だ。こんだけ安静にしてればさすがにな……俺様完全復活っ、ってわけよ」
「……よ、よかったぁ……僕、先輩が心配で心配で………あのときはもう……し、死んじゃうのかと…思って……ひぐっ……怖かった、です……」
そういや、レイラの話を聞く限りだとリオの目の前で意識を失ったんだっけか……そりゃ、軽くトラウマになるわな。
俺だって小学校の頃、夏休みのラジオ体操で隣のやつが急にパタンっと倒れたときは暫く怖かったしな。また、誰かが倒れるんじゃないかってね。
ちなみに、子供が朝からラジオ体操なんかの運動するときは朝飯をしっかり食ってからだそうだ。じゃないと、簡単にパタッといくらしいぞ?
「あー、悪かったな。ほれ、俺はこの通りピンピンしてっから……そうだ!どうせだし、このあと暇なら俺と一緒に森に入ろうぜー?個人的にちょっと狩りたい獲物がいてな」
「は、はい!行きましょうっ!」
……ほんとにリオは単純というか……喜怒哀楽が分かりやすいし、このままでいいんだけどよ。
あーあー、目をこするんじゃねぇっての……ほれ、こういうときのためのハンカチなんだわ。返さなくていいからな?
うし、んじゃあ準備もできてることだし……行きますか―――
「―――うぉぉ、寒ぃ……今日って思ったより風が吹いてるんだな……こりゃ、狙うのちと厳しいか?」
「せ、せんぱいっ?大丈夫ですか?寒いなら僕の外套を使ってくださいっ!」
「…街中に比べれば寒く感じるってだけだから大丈夫だ。それに、お前さんの外套じゃ小さいだろ?……ちょっと過敏に反応しすぎだ。俺はそんなに弱くはねぇよ」
「うぅ…でも……はい………ところで、今日は何を狙うつもりなんですか?」
「ん?あぁ、雪鳥だ。あの、ふわふわとした羽毛が欲しくってな」
「雪鳥ですか……ふわふわな羽毛、いいですよねっ!もこもこしてて可愛いですし!」
「その可愛い鳥たちを今から狩るんだけどな」
「あっ………先輩のためなら頑張りますっ…!当てられる自信はそんなにないですけど……」
おいおい……端からみて分かるくらいに落ち込んでるじゃねぇか。いや、可愛いってのには充分共感できるんだがな?
俺が本日ターゲットにしている獲物は、俗に雪鳥と言われている動物だ。魔物ではないんで、ボアと同じカテゴリーだな。
全長は五十センチ程の白と灰色をした真ん丸な鳥で、よく雪の積もった地面をトテトテ歩いたり、木の枝にポツンと留まったりしている。
ただ、警戒心が異常に強く、少しでも気配を悟られるとすぐに空へと飛び立ってしまうのよ。その察知距離はなんと、こっちが視認できるかどうかの位置なんだわ。
つまり、かなり離れたとこから豆ほどの対象を射抜かないとならない…ってわけだな。
また、その身体の殆どが羽毛による膨張なもんでダメージが有効になる範囲が狭く、その難易度の高さから狩猟人のギルドの奴らもあまり狙わない。
狙う人が少ないとはいえ、羽毛は貴族向けのベッドやクッション用として高値で買い取りがなされてるんだけどな?
……安定してこいつを獲る技術があるやつは、それだけで食っていけるだろうよ。冬に蓄えた金だけで次の冬まで過ごせるんだからな。
「まぁ、今回ばかりは俺も弓を持ってきてるんでね。リオに任せてばかりとはいかんわな」
「先輩も弓を持ってきたんですかっ?……先輩が射る姿なんて久しぶりに見ます……」
「実際かなり久々ではあるからなぁ……勘が鈍ってないといいが……あー、急に誘ったし、リオの持ってきた矢って先端丸めたやつじゃないよな?」
「……んっ!…そうですね……ごめんなさい。先輩の矢を数本、借りてもいいですか?」
「おう。悪いな……俺も伝えるのすっかり忘れてたわ」
目的は羽なんでね。血で汚したり矢で引き裂くとかはしたくない。なもんで、矢の先端を金づちみたいに丸めて鳥を昏倒できるようにしておく必要があるのよ。
「さて……雪鳥は射るのもそうだが、探すのもかなり大変なんだよなぁ。最低でも三体は獲りたいところだが……」
「大丈夫です先輩っ。僕が全力で見つけ出しますので、一緒に頑張りましょっ?」
「…ははっ、そうだな。頑張らないとだな!」
マップの光点じゃ上下が分からんのよなぁ……それにそもそもが小さいんでね。俗称から判る通り雪の色と同化してるのもあって、場所がわかってもな感はある。視認するのがほんとに大変なのよ…。
でもまっ、リオのプレゼントのためだしな。いっちょ、気合い入れて行くとしますかねっ。




