香りのプレゼント
「は、ははっ………作りすぎちまった…」
花がいっぱいにつめられたガラス瓶が5個、机に置かれている。また、それの倍の数程、いい香りのするお守りのような小さな布巾着が転がっていた。
「中途半端に余った植物で、香り袋も作ってみたはいいものの……こんな数は要らなかったよな…絶対」
とりあえず……レイラに選んでもらうとするか。そろそろ帰ってくるだろうしな。
『――たっだいま~っ!おっさん、居るーっ?』
「ああ!外には出てねぇよっ。ただ、荷物片付けたらちょっと部屋まで来てもらえるかっ?贈り物の選定をお願いしたくってな!」
『分かったーっ―――ってことで、お邪魔するねー」
「うぉぅっ!……早いな…」
「荷物はここの世話役の人たちに預ければいいからさっ。それよりも……なにこれ?……いい香りなのに、ごちゃごちゃしててちょっと……」
「あー、それはすまんな。お前さんが出掛けてる間ずっとこういうの作ってたんでね……いま窓開けるわ」
「ありがとーっ―――乾燥してる花なのに綺麗だな~。香りもそうだけど観賞用の家具としてもいいしさっ……おっさんってほんとに器用だよね。これ、貴族街の店で売られててもおかしくないよ?」
「それは最高の誉め言葉だな。でもまぁ、香り系統の物は室内で売れるようにしっかりした店舗が必要になるんでね。売り出す気はないな」
「そっかー……こういうの見たことないし、香水とはまた違うしで、売り出したら流行ること間違いなしっ!…なんだけどなー?」
「だとしたら、なおさら売る気はないな。良かったじゃねぇか。そんな特別な品がアリーとお前さんへの贈り物になるんだぜ?」
「んー……それもそっか!って、えっ?ボクも貰っていいの?これ…?」
ポプリをじっと見つめて目を真ん丸にし驚いているレイラ。
まぁ、あんときは酒とか飯って言いはしたが……世話になった人へのプレゼントはこれでも真面目に考えるタイプなんでね。
アレックスは、数年前からそういう堅苦しいのはもういいんだわ、という本人の希望により酒と飯を奢るようになったけどよ。
結果的にこっちの方が俺も楽になったんで、感謝してる。たぶん、俺のことを気遣って言った言葉でもあるんだよな、あれは。
「そりゃもちろんだ。気に入ったやつを持ってってくれて構わん」
「やったーっ!…んふふ……ということはー……全部、貰っちゃっても…?」
「はぁ、アリーの分を残すなら構わんが……そんなに貰ってもしゃあないだろ。そもそも置場所はどうすんだ?」
「あ、あははー……考えてなかったよ……あっ、でもでも!一つくらいは実家に送るのもありかなって…ねっ?」
「あー……んじゃ、アリーとお前さんで4つ分持っていっていいぞ。ちょいと早いが、明けましておめでとうってな」
「うんうんっ、ありがとね!来年もよろしくっ!それじゃあ……アリーはこの魔喰草と白い花のやつでー……黄色い花との組み合わせもいいな~……あっ、このちっちゃい布袋も香りするんだねっ!」
「持続期間はガラス瓶の物よりも短いがな。どうせなら、香り袋の方は人数分もらってくれていいぞ。ガラス瓶の方に使った花の余りとかだしな」
「えっ?いいのっ?!うーん……どれにしようか悩んじゃうなー…」
「ちなみに、ガラス瓶の塩が入ってない方は同じ香油を付け足せば香りが復活する仕様だぜ。まぁ、塩の方も一年くらいは香りが続くんじゃないか?」
「なるほどー……これ、塩だったんだ……花の層と白い砂の層が交互に重なってて、見た目は一番きれいだな~って思ってたんだよねっ!うんっ、ガラス瓶の方はこれ!ボクの実家に送るのと合わせてこの二つにするよっ」
実家に送るねぇ……運び方によるが、塩と花の層が混じっても知らんぞ?一応、梱包は丁寧にやっておくけども…。
「後は……ルーナとアリーは甘い香りが好きだから……うん、この香り袋かなっ?エマは柔らかい感じの匂いが好きだし、これで………ボクはこのスースーした香り袋でお願いっ!」
「りょーかい。それじゃ、梱包が終わり次第渡すわ。あ、香り袋の方はもう持っていっていいぞ」
「ほんとっ?それなら、さっそくボクの盾に付けてくるよっ!この匂いをかいでると、集中力が上がる気がするんだよねー」
……サリメル草の効能に集中力の向上なんてあったか?香りが気付けに用いられるとは聞いたことあるが……プラシーボ的なやーつじゃないか?それ。
「まっ、本人が気に入ってるならいいか。
――さて……明日は久しぶりにギルドに顔出すとしますかね。レイラも居てギリギリが前日だろ?なら、早いとこ解放してあげた方がいいに決まってるしな」
明日は依頼を見つつ……リオへの贈り物を考えないとだ。余ったポプリとかをあげてもいいんだが……もともとアリーたちへのプレゼントだったんでね。余り物をついでのように渡すのはさすがに気が引けるってもんよ。
たしか、去年はショートボウとその整備道具を贈ったんだっけか。短剣は……もう昇格祝いでプレゼントしたしなぁ……実用的なものってなると、何が残ってるんだ?防具関係とかか?
「……うーん………そろそろ品切れな感じがするんだよなぁ……いっそのこと実用的じゃなくてもいいのかねぇ…」
夏だったかに見たあいつの部屋はいろんな服で散乱してたしな……ああいう感じの衣装に合うアクセサリーでも良さそうだ。
実用的じゃなくていいなら、クッションにぬいぐるみってのもありだな。最近のリオは可愛い物好きなイメージが強くてね……ああいうのをオトメンって呼ぶのだろうか……その辺はあまり詳しくないんだよなぁ。まっ、人の好みとかは犯罪領域に踏み込まなければ別になんでもいいんだがよ。
「そういやリオと一緒に寝たとき、しょっちゅう俺にしがみついてきたよな……となると、抱き枕とかの類いも有り、か…」




