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高尚?な趣味


 インターネットの世界で生きてきた俺からすると、この世界は娯楽が少なすぎる。現代社会でもアウトドアな人にとっては、そうでもないかもしれんが。


 退屈は人を殺す。誰が最初に言ったのかは知らないけど、まさしくその通りだとこの世界に来て実感したぜ……したくなかったがな。

 転移したての頃はそりゃあ生きることに必死で、退屈なんて感じる暇もなかったなぁ。生活が安定するほどに暇を持て余すなんて我ながら贅沢な生き物だよ、ほんとに。



「はぁ……しばらく節約しないとなぁ……」


「なんだあ?珍しくギルド酒場で飲んでるじゃねえか」


「アレックスか……飲んでねえよ。こりゃ只の水だ」


「おいおい……また無駄遣いしたのかよ?」


「あ?無駄とはなんだ無駄とは。全く、失礼な!本ってのは知識の泉なんだぞ」


「いや、そうかもしれんが。何も大金はたいて購入する必要はないだろ……この街は貸し出し所があるんだしよ」


「わかってない。わかってないなぁ、アレックスぅ!本ってのは愛でるモンでもあるんだよ。時代を遡るごとに紙の質や素材まで異なる。使われていた文字や言葉回しに歴史がある。電子書籍とかオンデマンド印刷のようなオープンで大量の複製品じゃないんだぜ?つまり、人との出会いと同じように本との出会いも一期一会なんだよ。その関係を買うことで一生物にできるんだ。そりゃもう、大金はたくに決まってんだろぉ!」


「あー、はいはい。もはや、何言ってるのかわかんねぇよ……毎度の事ながら本への愛情がすごいことだけは伝わってくるが。お前さんのそれは、もう趣味をこえて執着だな」



 執着の何が悪いってんだい。誰にも迷惑をかけない趣味ならいいじゃねえか。飯は不味いわ、人は避けてくわでろくな娯楽が無いんだよ。テレビやラジオもありゃしねえ。


 自炊経験はあるし、レシピも覚えているものはある。だが、この世界に塩と砂糖以外の調味料がない。というより、平民の間にスパイスがあまり広く認知されていない。調理法ですら焼くか煮るかの二択だ。


 金で女を抱くのも抵抗あるし、魔物討伐だヒャッハーって楽しめるほど戦闘狂でもない。煙草のようなものはあまり好きじゃないし、酒も得意じゃあない。


 残った庶民にも手の届く娯楽が、おしゃれと読書。服には興味がないんで、俺の趣味がこうなるのも必然ってことだ。



「よ!依頼とってきたぜリーダー」


「お、あんがとさん。ってなわけで、俺は一稼ぎしてくるわ。まぁ、あれだ。変な壺とかよくわからん遺物とか、騙されないようにな?そういうので借金まみれになるやつもいるからな」


「わかってらぁ。さすがに自分の手が届く範囲は理解してるっての。それに興味があるのは本だけだ。掘り出し物の古書以外にはさすがに騙されないぜ!」


「はぁ……ま、何事もほどほどにな。んじゃ、また」



 パーティーメンバーとギルドを出るアレックスに手を軽く振る。

 


 今回買った本……露店で今までに見たことがない文字で書かれた魔導書って謡われてたので思わず購入したが……ただの子供の落書きだったんだよなぁ……はぁ。何で中身を見ずに買ってしまったのだろうか……俺のばか。


 そろそろ俺も採集に出掛けようかね……食費浮かすのと小銭稼ぎを兼ねてボアも狩ろっかな。宿屋の飯より新鮮な肉の方が圧倒的に美味しいんでね。解体は面倒だが。


 あーあー、どこかにドカンと稼げる依頼とかないもんかね……あ、貴族関連は除外でお願いします。

 

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