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冬の湖でワカサギ?釣り


 凍った湖面に積もる雪を軽く均し、持ってきたスツールをそこに置いた。手の届く範囲にはバケツと釣り道具がある。持ってきた釣竿は割り箸のような木の枝に糸と針を付けたものだ。

 おもむろに取り出した鉈を氷面に深く突き刺し、円を描くように動かす。綺麗な丸が完成した後に鉈を引き抜き、踵で中心をコツンと叩いた。

 すると、氷がストンと沈み、隠れていた水面の極一部が顔を表した。そこに手を突っ込んで簡単に穴に残った氷の欠片を除去した後、釣糸を垂らす。


 そう、俺が今やっていること……それは………ワカサギの穴釣りだ!


 なんて意気込んでみたはいいが、凍結した湖面の穴釣りでワカサギみたいな小魚は釣れた試しがないんだよなぁ。

 もしかすると、こっちの世界にワカサギは居ないのかもしれん……と思い始めたが、単に俺の誘いが下手な可能性もある。

 そこでっ!本日は助っ人を呼んできたんだわ。前回、なかなか良い結果を残した二人とそれに着いてきたアリーとエマ……後、誰が呼んだか知らんお隣さんのギル。どうやら、リオ以外は面識があるようで…。



「うわぁ~!本当に湖が凍ってるんだねぇ……すごいすごいっ!跳んでも足下が崩れないや!」


「おい、ばかっ。やめろ、ギル!目には見えなくとも、氷の内側にヒビが入ってるかもしんねぇだろうが!」


「先輩の言う通りです!知らないうちにヒビが大きくなって、いきなり湖の中に落ちたら危ないんですからねっ。湖水はかなり冷たいんですよ!」


「ばーかばーか。やーい、世間知らず~」


「ぐぬぬ……道中騒いでたくせに…」


「はぁ……言い過ぎよ、レイラ。でも、はしゃぎすぎるのはよくないわね。冬だからといっても、ここはウィルテューム山の中よ。油断は禁物だわ」


「まぁ~?ボクは銀級だからねー。騒いでても、気は抜いてないんだよね~。あはっ!鉄級じゃ普段はここまで来ないから、それも仕方ないかっ」


「なんだって……?君は自分のしょ―――」


「はーい、ストップ。喧嘩なら余所でやってくれ……ったく。誰だよ、こいつを連れてきた奴は…」



 ……首を横に振るってことは、アリーじゃないのね。エマは…違うな。リオは……なんか俺の後ろで隠れてるし。おいおい……まさか、こいつら…。



「ごめんねー?……飲み屋でばったり会ったときに、ついつい自慢しちゃってさ……」

「うん、まぁ……勝手について来てごめんなさい…かな」


「はぁ……だから、私は嫌だったのよ。レイラとギルが合わさると言い争いしかしないもの…」



 たしかに、門前で待ち合わせしたとき、ギルの姿が見えた途端にアリーは踵を返してたもんな……引き留めてすまんかった。

 言い訳になるが、こいつらがこんなにも仲悪いとは思わなかったんよ。道中は特に問題も起きなかった分、余計にな。



「……よし!口喧嘩して雰囲気を乱すんなら、今ここで解散だ。俺は楽しく釣りをしたいんでね」


「自分は投げられた言葉に返答してただけだからね。あっちが突っかかってこなければ、問題なんて起きないはずなんだけどさ?」


「……あ、あははー。こ、ここは、ボクが大人になってあげるよ―――じゃあっ、さっそく釣りを始めよっ!」


「はぁ……本当に、貴方達はどうして……ごめんなさいね、レオン」


「アリーが謝ることじゃないだろうよ……んじゃまっ、やり方を教えるんで、話聞けよー?」


「はいっ!」

「分かったわ」

「釣りなんて初めてだよ……何が釣れるのかな?」




「ん……今回使う釣竿はこれだ。順番にエマが配ってくれるから手に取ってくれ」


「あれ、先輩?釣竿……にしてはとても小さいような気がしますが……」


「まぁな。凍った湖面に穴を開ける都合上、そんなに大きな竿はいらないんだわ。従って、今回狙う魚も言ってしまえば小物になるな」


「あ、そうなんだね……」

「ボク、言ってたんだけどなー?初心者が楽しむには向いてない、ってね!」

「……君だってほとんど初心者だって聞いてるけどね」

「いいも~ん!ボクはもともと今回の釣りには参加する予定じゃなかったしー?」


「レイラ……その辺にしとけ。後、ギル。レイラの言ってることはどれも正しいんだわ。こいつは今日、エマと一緒に荷物持ち兼料理担当で来てるのよ。最初は釣りに参加しないかと誘ったんだがな……」


「こんな時期に釣り?って疑問に思ったからさー。聞いてみると、指くらいの小物だって言うんだもん。

 しかも、掛かるまでかなり時間が掛かるらしいし……おっさんに至っては、まだ一回も釣れたことが無いんだって!」


「僕は掛かるまでののんびりとした時間も好きなので……」


「私も暇だったからせっかくだし経験しておこうかしら……なんて理由ね。寒いのが難点だけれど……エマが天幕を持ってきてくれてるから、多少は快適な筈よ」


「んで、エマが来るなら料理道具とかも持てるだろうし、凝った調理ができるかもなって溢したら……」


「おっさんの料理は美味しいからさ!周囲の警戒と要具の準備は任せてよっ。指示してくれたら、料理だって手伝うからねっ?」


「ってな訳だ……期待を裏切ったなら、謝るぜ?」


「……うーん。これは、完全にお邪魔ものになっちゃったかぁ……ううん!レオンさんが謝る必要なんてないよっ。自分が勝手について来て、勝手に気落ちしちゃってただけだしね……せっかくだし、自分も釣りの方に参加してもいいかな?」


「おう、いいぜー」



 一応、竿は人数分と予備を二本持ってきてるからな。

 それに、レイラとこいつが離れれば物理的に口喧嘩も出来ないだろうし……釣りの方に参加してくれたのはありがたい。

 まぁ……実際のところ、そうなるように考えて彼はこっちに参加したんだとは思うがな。



「じゃ、説明に戻るぞー。一人一つ、そこに置いておいた腰かけと桶を持って、自分の釣りたい場所。ここだ!って思うところを決めてくれ。その後に俺を呼んでくれれば、さっきみたいに釣糸を垂らす穴を開けるからよ」


「分かったわ……場所はどこでもいいのかしら?例えば、誰かの隣とか。待ち時間を雑談しながら過ごすのも良さそうじゃない?」


「あー……まぁ、穴が隣接するのはマズいかもしれんが、普段の声量で充分届く範囲とかなら良いんじゃないか?」


「そう……なら、諸々を教えてもらうためにも貴方の近くにしようかしらね…」


「説明はこれで以上……あー、いや。釣餌についてなんだが、魔大陸で狩ったアースワームの肉を細長く加工したもの…になる。虫とかじゃねぇから、その辺は安心してくれ。

 釣餌は桶の方に入れてあるんでね。無くなったら、エマのところで補充してもらえるぞ」


「うんうんっ!虫じゃないのはいいね!……ボクはもうどっちでもよくなっちゃったけど…。


―――それじゃあ、ボクはエマと一緒に調理場用の天幕を張りに行くよ。これも人数分あるからさ、寒いって人は場所が決まったらボクにも声かけてねっ……この辺りは視界が開けてるから、たぶん大丈夫だよね?」


「天幕まで張ってあれば、容易にどこにいるかは分かるだろ。それに、こんだけ寒いと声もよく聞こえるしな……あっ、そうだ。もしなんか釣れたら、面倒かもしれんが俺を呼んでくれ。目的のものかどうかを見たいんでね。声さえ出してくれれば、俺からそっちに向かうからよ」


「はい!それじゃあ、さっそく場所決めしていこっかなぁ……うん、今回は楽しむことを優先だね。レオンさんをアッと驚かせるような成果、出せたらいいんだけどな~」



 初心者が、いきなりガチな雰囲気になって釣り始めたら、それはそれでアッと驚くけどな……初めては、普段じゃ絶対に味わえない経験に一喜一憂するくらいが丁度いいのよ。目的の優先順位とか関係なしに、とにかく楽しんでくれや。



「せんぱーいっ!僕はここにしようと思いますっ!さっそく、僕のあ…っ!……んんっ、氷を切り取るのをお願いしても、いいですかーっ?」


「おうっ、今そっちに行くからな!ちょいと待っててくれっ!」



 うむ……釣糸を垂らしたのは失敗だったな。穴開けをする関係上、最初の方は忙しくなるもんで竿の様子を見る余裕が全く無さそうだわ…。


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