似た者同士
「いやー……すまんね。冬前に来るとか言っておきながら、結局今日まで来れなかったわ。結果論だが、秋口来たときにもろもろ済ませておけば良かったな」
「いえいえ!来てくださるだけでも、嬉しいです。ふふっ、入ってきたときの子供達の喜びようといったら……レオン様もご覧になられたでしょう?それに、今年はもう来られないかと思っていましたので……」
「あー……まぁ、色々と遠出したり友達と飲んだりしてただけだ。来ようと思えばいつでも行けたはずではあるんよ」
「レオン様は教会の方でもなんでもない、本来はここと無関係の人なんです……ふふっ、頻繁に来られてしまうと、レオン様の善意に縋るだけになってしまいそうです。それでは、少し困ってしまいませんか?」
「………まあなぁ……たしかに、困っちまうかもなぁ…」
「でしょう?だからこそ、レオン様の好きなとき、行きたいと思われたときに来てもらうのが双方にとっても一番気が楽なんです。長く細くが上手な人付き合いのコツ、ですよ?」
「おおう、その言葉は身に沁みるねぇ……うっし!とりあえず、どうだ?雪どかしは壊れたりしてないか?」
「…まだ一本も壊れてないですね。レオン様お手製のモノはなにかと丈夫で長持ちしますから。きっと、愛がこもってるのでしょう」
「ははっ……愛、ねぇ……まっ、それでも一応は全部確認するんで……ちょいとばかし、物入れのとこには子供を入れないようにな。頼んだぜ」
「分かりました。いつも、ありがとうございます……それでは、お願いしますね」
「あいよ。任せな」
深くお辞儀をした後、物置小屋から離れていくフィオナ。彼女はいつも、俺になにかを頼むとき少しばかり苦い表情になる。まぁ……極僅かな違いなんで、俺の気のせいかもしれないが。
子供達が言うには、夜にこっそり泣いてることもあるんだそうな。自分の無力さが悔しいんだとよ。子供達の心の支えに成れてるだけで充分だと思うんだがなぁ……心ってのは目に見えないしな。分かりやすい成果じゃないからこそ、無力感に苛まれるんだろうよ。
でもよ、俺がやってることなんてただの偽善だぜ?知識を与える。道具を壊れにくくする。そんなことができるのは俺が居るここの孤児院だけだ。
しかも、フィオナのように年がら年中世話をしてるわけじゃない。ふらっと訪れては、気まぐれに施しを与えるだけの存在なんだわ。こんなの、募金してる人よりも質が悪いからな?
子供達に限らず、困ってる人を精神的に救えることができるのはフィオナしかいないんよ。誰かに寄り添えるってのは、それだけで立派で凄いことだと俺は思うね。
「――よし。あらかたエンチャントはかけ直したか……と言いつつも、これに効果時間とかはないんでね。ただただ俺がスッキリしたいだけの無駄な行為、なんだがよ…」
毎年、冬前には孤児院へ訪れて、スコップの補修やこっそりとエンチャントを付与している。子供の数が前年度よりも増えたときは、その分スコップを新たに作ったりな。
とはいえ、周りの冒険者や住民達から目の敵にされるのはまずいんで、木で出来たやつを渡している。ギルドから製法を聞き出して、標準よりもやや小さめに作った木製のスコップだ。
これらを持って、体のしっかりし始めた子供達が元気に周りの雪をどかしていくってわけだな。
それに、12歳以上の子らはフィオナを保護者として冒険者登録ができる。ちょっとしたおこづかい稼ぎ兼、ランク上げのいいスタートダッシュにもなるってことだ。
「俺と同じように、エンチャントすればこいつらも楽できるんじゃないかって……ほんとにただの、善の押し売りなんだよなぁ。それも唐突に思い立って行動した、自己満足の結果でしかないという」
自分のことながら嘲笑っちまうね。どこまでいっても、俺は俺の気持ちが最優先。自己中って奴なのさ。
フィオナはそんな俺でも、尊敬して接してくるんだぜ?見抜いているのか、そうでないのかは彼女しか分かり得ないことだが……時々、苦しくなるんだわ。そんな目で俺を見るなー……ってな。
俺が、年に数回しか足を運ばないのもそこに原因があったりするのよ。子供達の純粋無垢なキラキラとした眼差しにフィオナの優しさ。
擦れた大人にはちと刺さるものが多くってな。
「――ってあぁ?よく見たらこれ、スコップ面の付け根が歪んでんじゃねぇか。ったく、何が壊れてないだ……確かにまだ使えはするが、これ使う奴は人一倍作業が大変になるだろうが」
とはいえ、そんなことは彼女だって分かってるだろうしな……まさか、フィオナが自分で使うつもりだったのか?
はぁ……それで腰でも痛めたり、しばらく療養することになったらどうすんだよ。余計な心配を子供達に掛けさせることになるぞ?
「自己中な俺は自己犠牲が嫌いなんだよ……こんの、あほたれ。何本か予備を持ってきておいて正解だったな…」
この歪んだやつは俺が貰ってくぞ?こんなのは、あの古びた宿の備蓄用具にお似合いなんだわ。泊まりにくる、体の丈夫な冒険者にでも使わせればいいんだよ。
んで、すぐ壊れたら……そんときは薪にでもしてやりゃあいいだろ。
「このスコップもお疲れさんだ…【コマンド入力/cl】対象を自分の持つスコップに設定して……ん、これでエンチャント効果は消えたな」
フィオナ「―――これ、は……レオン様……ありがとう、ございます…っ………」




