雪の宿 鍋パーティー編
「どっひゃあ~っ!雪のお家だなんて、おっさんも中々夢想家だねー。ボク、街中で見るのは初めてだよ……」
「ですよねっ!狩りで待つために、既に積もってる雪を掘って洞にすることはありますけど……街中に雪のお家を作っちゃうのが、先輩なんですっ」
「なんだよ、二人して変人扱いしやがって……かまくらとか雪だるまは子供の頃の憧れだろうが……」
「雪だるま……あっ、これですか。わぁ…可愛いですね!んふふ~、よしよし」
「…憧れかなぁ……でも、どっちにしろおっさんはもうおっさんじゃんっ」
うるさいやいっ!心はいつまでも少年なんだわ……ってか、今回造ったのは必要に駆られてだからな?自主性をもって積極的にってわけじゃ……宅飲みすれば良かったじゃんとか思った奴。俺も作り終えたときに気づいたわ。なんで、こんなの造ったんだとね…。
まぁ、出来たもんは仕方ない。せいぜい、有効活用させていただきますよってことで、今日はレイラとリオを呼んできたわけだ。
豊穣の灯りも、この時期はさすがに冒険者活動が消極化するんでね。予定は空いていたぜ。とはいえ、俺が雪かきしてた頃は立ち往生した商人や貴族の遣い等の救援依頼に奔走してたらしいが…。
ちなみに、呼び出した方法としては直接クランハウスに赴くことでなんとかした。なんか以前の件があるからか、俺が豊穣の灯りのとこに行くだけじゃ揉め事に発展しなくなったんだよな。
いやまぁ、その方が楽だし、良いことではあるんだが……レイラとリオを連れて出てきたときに、近くの冒険者がニヨニヨした顔でこっち見てくんのはどうにかしてほしい。はっきり言って、ちょいキモい。
「ほれ……ペタペタ触るのは構わんが、このまま外にいても風邪引くだけだぞ?俺は先に入ってるからな」
「それじゃ、ボクもお邪魔しよっと!」
「えへへ………あ、僕も入りますっ!」
「――わぁ……やっぱり、去年よりも広いですよね…」
「雪が思ったよりもあったのはそうだが……ちと、張り切りすぎたわ」
「おーっ、美味しそうっ!ねぇねぇっ、もう食べていいの?これ!」
「ん?って勝手に蓋開けるなよ……はぁ。取り皿はそこにあっから、ちょっとずつな?」
「うぃーっす!……んへぇ、いい匂いだぁ…」
「あー!レイラだけずるいですっ。抜け駆けは良くないんですからねっ。僕も頂きます!」
んな、慌てなくたっていいんだけどな……前回の反省から、三人分っていうこともあって大鍋でかなり多めに作ってんだわ。早々に無くなることはないだろうよ。
これでもこいつらの食う量は知ってるし、足りなければ作り置きしてたの持ってくるとか言って、部屋でインベントリから新しいの取り出せば済む話だからな。リオにはなんとなく察されそうではあるが…。
「うんまぁい……やっぱり寒い冬は鍋だよねっ!ところで、このつゆはどうやって作ったの?味がしっかりと濃くて、ビックリしたんだけど!」
「ありゃ、そんなに濃かったか?」
「いえ!ちょうどいいと思います。ただ、他の店で食べる鍋のお汁は……これと比べちゃうと、ちょっと薄いですからね…」
「悪く言うつもりはないんだけど、塩と素材の味って感じだよねー。いやぁ、地元の鍋に勝るとも劣らないのがこんなところで味わえるだなんて……おっさんはほんと、最っ高だよ!」
「そう言ってもらえるのは何よりだな。ダシは色んな海鮮物で、って感じだ。せっかくオルフェンス港で様々な乾物を買ってきたんで、使わないと勿体ないだろ?」
「おー……海産物でダシかぁ……何気に料理が上手いのは点数高いよねっ」
「むぅ……僕だって、焼くくらいはできるんですからね?」
「焼くだけじゃあなぁ……せめて煮る、蒸すくらいは出来るようにならねぇとな」
「そうだ!今度、おっさんから料理を教えてもらえばいいじゃん!冒険者としてのあれこれも教わったんでしょ?料理の一つや二つくらい、今さらだって~!」
「むぅー……そういうレイラは料理できるんですかっ?」
「もっちろん!お酒に合うおつまみを探求していくうちに自作するようになっちゃったんだよねー。ボクながら、そこそこ料理上手だと思うよ?」
「うぅ……焼くなら出来るんです……先輩だって、塩ふって焼くだけが一番って言ってましたもん……」
まぁ、否定はしないぜ。実際、肉とかは塩ふって焼いたら、それだけでもう旨いからなぁ。
ただ、より手をかければ相応に美味しくなるのもまた事実でな……それなりの調味料等があれば、って前提は付くけどよ。
「ははっ、それだけでも生活には困らんだろうが……ほれ、この前食べたボアの肉だって鍋にしたら美味いんだぜ?」
「えっ……」
「えぇーっ!冬のボアって超おいしい時期のだよねっ?!しかも、見つけるのが難しいから中々食べられないって評判の!……いいなぁー。ボクも呼んでほしかったなぁ~?――チラッ」
「チラチラすんな。また機会があればそんときはお前さんも呼ぶから。今年はもう、狩猟人に近場のはだいたい獲られてるだろうし。来冬に、な?」
「約束だからねっ?絶対、呼んでよねっ?忘れたら二度とボクの地元の物をあげないんだからっ」
おぉっと……それはちょっと困るかもな。まぁ、食にうるさいレイラのことだ。呼ぶ前に俺のところに押し掛けて来るんじゃねぇか?約束は約束だし、一応俺も覚えておきはするけどよ…。
それにしても、レイラの地元ってどこなんだろうな?……味噌とかもあるんかね。海産物のダシもいいが、鍋なら味噌も旨いんだよなぁ。
とはいえ、さすがにレイラの地元を知らない俺が特産品を沢山知ってるのは気持ち悪いだろ?ここだっ!っていうタイミングで自然に聞ける流れじゃないと、俺から訊ねるのはちょっとな……無かった時が一番なにこいつ?になりそうだけどよ…。
清酒に関しても、あいつから自慢してきたから流れで原材料を訊ねて判明したわけだしな。
あっ、そうだ。熱燗の準備もしてあるんだった。
「約束はわかったから―――ほれ、お前さんがくれた清酒な。うまい飲み方見つけたからよ。お礼におすそ分けだ」
「…えっ、凄い!よく温めるなんて方法を見つけたねっ!ボクのとこの長老が大好きな飲み方なんだよー?あっ、もちろんボクも熱いのは好きだからねっ?」
「へ、へぇー………お湯はそこに用意してあるんで、好きな温度にしてくれや。湯の温度が足りないようならこっちでまた温め直せばいいしよ。
リオはどうする?冷たいままで飲むか?」
「お鍋がおいしい………はっ!あ、えっと…僕もレイラと同じので大丈夫ですっ!」
「おっ、そうか。んじゃ、レイラ?リオの分も頼むわ。俺は冷たいままでちびちび飲むからよ…」
「はーい!ふふんっ♪おっさんは色々と解ってるねぇ。故郷の友達と話してるみたいで気分上々だよーっ!」
「そうかい……楽しいなら何よりだ。ついでにそのテンションをリオにも分けてやってくれ。つまり、構い倒してやれ」
「よーっし、任せて!そういうのは得意だよっ!」
「えっ、わっ…あー!それ僕の取り皿のですって!勝手に盗らないでくださいっ!もうっ、そっちがその気なら僕だって…!」
おーおー、よくわからん争奪戦が始まってら。まっ、自己嫌悪かなんかは知らんが、反省は後にしろってことよ。せっかくの鍋パなんだから、もっと明るく楽しくいこうぜ。
……だけども、限度ってのはあるからな?……いくら広めに造ったとはいえ、ちっこくても二人も客がいるとさすがに大騒ぎはできないからな?あんまり暴れるんじゃないぞ?………忠告だけしとくか。
「おーい。鍋だけはかやすなよー?他は落としても掃除すればいいだけだが、この出し汁は後で使うんだからな?食後のお楽しみがなくなっても俺は知らんぞー?」
「えっ?!食後にもう一品あるのっ?分かったっ!」
「今ですっ!」
「あーっ!それは卑怯だよ!こんにゃろーっ」
「レイラだって最初に不意をうってきましたし、おあいこですっ」
………元気そうで何よりだ。
だが、お前さん達。取り皿の中身で争うのは構わんが、その間に俺は鍋本体の方から頂いてくぞ?いいのか?
――ん、レイラは気づいたっぽいな。さすが、食に目敏い奴だ。
「うむ、我ながら美味いな。葉物の芯がちょいと固いくらいか……これはまぁ、そのうち柔らかくなるだろ」




