どかした雪の使いみち
「あ"あ"ぁ"ぁ"………さすがに疲れたよ…」
「おう、お疲れさん」
いやぁ、宿回りの雪をどかすだけで二日もかかっちまった。時間換算で言えば一日とちょっとではあるけどよ。
でも、数の力ってのは偉大だな。俺一人だったら倍は間違いなく掛かってただろうし。
数の力と言えば、街の通りとかはもう歩けるくらいにはなってんのか?冒険者たちが昨日今日と頑張ってくれてるはずだが……問題ないようならギルドに顔出しがてら、酒場でなんか奢ってやるか。
「うごごごご……足腰が、ガクガクする……雪かきってこんなにも大変なんだ…」
「お?雪かきは初めてだったのか?…珍しいな」
「は、ははっ……腕もパンパンだよ…」
「まぁ、初にしては上出来だったと思うぞ……雪かきに上手い下手があるのかは知らんが…」
「…レオンさん、慰めは下手……だよねー…」
やかましいわっ!下手だろうと、こういうのは気持ちさえ伝わりゃいいだろうがっ……いや、ダメなんだろうな。
「ふぅ……なんで、レオンさんはそんなに元気なの?自分はもう汗を流して眠りたいや…」
「ん?……まぁ、慣れてるからな。お前さんは、その引き締まった筋肉を総動員してっからそんなにも疲れるのよ。力抜いて、要所要所で力めばまぁ……筋肉痛の恐れはないわな。脱力よ脱力」
「なるほど……そんなコツがあるんだね…」
「まっ、力任せにやる方が雪どかすのは早いけどな。コツというより、楽する裏技って感じだぜ。
それよりも、このあと一杯いくか?ギルド酒場でいいなら奢るぞ?」
「えっ、いいのかいっ?!あいたたたっ」
こりゃ、思ったより無理してるな……あんまし動かさない方が良さそうかね。
初めて雪かきをしたって奴ほど、気づかないうちに腰とか足の筋とかが逝ってたりするんだわ。
「あー……やっぱ無しで。筋とか変なところ痛めてる可能性があるから。今日はとりあえず安静にしといた方がいいぞ」
「そんなぁっ……せっかくのお誘いがぁ……」
「おいおい、たかだか一回の誘いくらい断ったってどうってこともないだろ。隣同士なんだから、一緒に飲みに行く機会なんてすぐにある」
「……初めて人から何か誘われたのに……悔しいな」
はぁ?俺が初めてこいつを誘った、なら分かるが……人から誘われることが初めてって、こいつは今までどんな人生を歩んできたんだ?
俺の想像だと、過酷な道を進んできた不憫な子になってしまうんだが…。
「でも、レオンさんの見立ては間違ってなさそうだよ。いてて……暫くはゆっくり休まないとだね、これは」
「……そうだなぁ…うし!そんじゃあ、宿のなかで休んでろ。日が暮れる前にはちょいと面白いモンが出来てっからよ!」
「えーっと…はい…?」
さぁて、タイムリミットはなんとなく四時間程度ってところか……ギルドへの顔出しはまぁ、明日でもいっか。特にこれといった用事はなかったよな?あー……一応、酒と串焼きはいくつか買っていくか。
後は、宿の裏手の雪も軽くすかして……よし、造るか―――
「――ほいっ、てなわけで完成っ!どうよ、ギル?かまくら……もとい、雪で造った家だぜ!」
「………えぇっ?」
「んじゃ、さっそく入るぞー。中で串焼きやら何やらを温め直してるんだわ。早くとらないと焦げちまうからな?」
「あっ、はい―――うわ、すごい……雪なのに暖かいんだ…」
「風は通さねぇし、火も使ってるからな」
「……それなのに、溶けないんだね?」
「んー、まったく溶けないわけじゃないんだが……雪の断熱性って意外と凄くてな。それに、外気温が低いならすぐに冷えて固まるんでね」
「へぇ……雪ってただの氷じゃないんだ。どおりで魔法だと………あっ、串焼きだけじゃなくて鍋もあるんだねぇ…」
「適当にポンポンと具材入れただけの粗末なモノだがな。旨いかは知らん……まぁ、不味くはないだろ」
「普通に美味しそうだよ?香りも良いしさ……ありがとう」
「……せっかくこんだけ雪が積もってんだからよ。有効に活用しないと勿体ないだろ?ほれ、俺は飲まないが、熱燗の用意もしてあるぞ」
「あつかん……とは?」
「あー……やっぱ、普通の酒にしとくか!これはちと馴染みがないよな。
――おっとと、串焼きが焦げるところだった。まっ、喋るのもいいが、食べながらにしようぜ。美味しいものは美味しいうちに食いたいだろ?」
「そうだね。では、レオンさんのご厚意に甘えて!」
おー、やっぱ初手は串焼きかぁ……もうちょっと買ってくれば良かったか?ギルがどれくらい食べるのかを知らないもんで、中途半端な量になっちまったわ。
って、ぼんやり見てる場合じゃないっ。俺も串焼きは頂くぜっ!
しっかし、なんだかんだで今年もかまくら造ったなぁ。そこそこ大きめに造ったし暫くは保つといいんだが……去年ねだってきたリオは当然来るとして、清酒の件もあることだし、レイラも誘えたら尚良しといったところか。
団子があった時点で俺は怪しんでたんだわ。酒好きのあいつが、米から作れる酒を持っていないはずがないってね……案の定だったぜ。
まぁ、アルコール感が強くって俺はあんまり飲めなかったんだがな……ちょっと、度数の高い酒は苦手っすわ…。




