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好きのベクトル

"ワーデルス家"長女

アリス(アリー)の視点です


 暖炉にくべた薪のパチパチという音に混じって、風が窓を叩く音が微かに聞こえてくる。

 今ごろ外は吹雪いてるのかしらね。



「うん!これで婚約についての意見は概ねまとまったかな?」


「ええ、そうね……でも、確認のためだけにまさかギルバート殿下が直々にこちらへいらっしゃるとは思わなかったわ」


「ふふんっ。ちょっと君を驚かしたくってさ……ははっ、さすがに冗談だよ~!」


「顔合わせとワーデルス領の視察もかねて、かしら?」


「そうだね。君と婚約したら王都から離れるのが難しくなりそうだしー……それに、自分の婚約者が生まれ育った場所なんだ。今のうちにしっかりと眼に焼き付けておきたかったんだよ…」



 へぇ?……ギルバート殿下は中々好い人そうね。まぁ、あのお父様が密かに婚約の打診を認めていたお相手ですもの……政略でもまともな人選はするはずだわ。



「だけど……自分でいうのもあれだけれど、アリスはよく婚約している事実をすんなりと受け止められたよね。こっちでは、レオンっていう冒険者が好きだって聞いてたよ?」


「私だって、さすがに公私は分けるわよ。それに、お父様が決めたことに否はないわ……ちなみに、それはどこから聞いたのかしら?」


「ん?ここの冒険者達からだよ。一応自分も金級なんだけど、変装するに当たって一から始めないといけなくってさ……色々と先輩冒険者に教わってるときに質問がてら、ね?」



 あぁ……アリーとアリスが同一人物だと知ってるものね。

 それなら、ここの冒険者からでも十分に情報は拾えるわ…。



「ギルバート殿下は、私がかの冒険者を好きだと知ってどうするつもりなのかしら?」


「んー……その話をする前に、まずはその呼び方をどうにかしてもらおっかなー。

 殿下なんか付けなくていいよ?自分は三番目だし、婚約発表と同時に王位からも降りるつもりだからさ。ここは、婚約者らしくギルって呼んでね!自分もアリスって呼ぶからさっ」


「……はぁ。わかったわ、ギル」


「うむ、それでよし!――じゃあ、彼についてどうするかなんだけど……自分の望みとアリスの望みの妥協案としては、まるごとウチの部下として抱え込むなんてどうかな?」


「……やっぱり、そうなるわよね…」


「まぁねー……あんな逸材を在野に放っておくのは勿体ないかなって。エマを始めとして、リオにレオン……アリスは才能を発掘する天才だね」


「そんなつもりはないのだけれどね……でも、彼は貴族関係からは全力で逃げるわよ?」


「そこなんだよねぇ……アリスも数年は捕まえられなかったんでしょ?考えてるものとしては、冒険者から面白い噂を聞いたことだし……外堀を埋めつつリオから説得して、一緒になったところを二人まとめて……って感じなんだけど、どう?」


「……好きにやればいいんじゃないかしら?」


「うーん……まぁ、まずは仲良くなるところから…だね。ははっ、奇しくもアリスと似たような作戦になりそうだよ。

――それじゃあ、早速行動開始っ!あっ、冒険者としての偽名もギルだから、よろしくね~っ」



 殿下は軽く挨拶を終えると、もろもろの装備を身に付けて一人、ワーデルス宅を後にした。

 外はまだ吹雪いているというのに、殿下はいったい何をなさるつもりなのかしらね?



「ねぇ……本当にあんなこと言って良かったの?」


「えぇ。レオンは本当に嫌ならオルシア王国を捨ててでも逃げる選択肢を取れる人よ?どんな状況であってもね……権力をむやみに使わない限りは、殿下の好きなように動けばいいと思うわ」


「あー、いやぁ……そうじゃなくってさー?」


「……レイラの言いたいことは分かるわ。だけれどね。私はアリスである前に、ワーデルス家長女なの。私はこの事を誇りに思ってこれまで生きてきたわ」



 確かに私はレオンのことが好きだし、恋をしている。だけれど、私たちが結ばれるにはレオンが貴族になるか、私が貴族を降りるかの二択。妥協案はそれこそ、さっきの殿下の案が一番ね。

 とはいえ、レオンは貴族にはなりたくないし、私もワーデルス家長女としての立場は捨てられないわ。これまでの人生で培った、ワーデルス家としての誇りがあるもの。

 どちらも、ここが譲れない一線。だから、こと婚約に至るのなら、どちらかが折れるしかないのよね。




「私はレオンのことが好きよ。好きだからこそ、彼には幸せな生活を送ってほしいの。出来ることなら、私の手でそうしてあげたいけれど……できないのなら、誰かが代わりに……私よりも彼を幸せに出来るというのなら―――レオンの隣に立つのは私じゃなくても構わないわ。

 私は貴族。アリス・ワーデルスよ」


「はぁ……ほんと、芯の強さはアリーのお母様似だよね…」


「ふふっ、そうかしら?

 とはいっても、まだ二年近くも猶予はあるし、期限まで諦めるつもりはないわよ?今のはただの考えの一つ。私の魅力に気づいてレオンが折れてくれるまで、私は頑張るのをやめないわ」


「あ、あははー……そういうところも似てるんじゃないかなー……」


「あら、そんな他人事みたいに言ってくれちゃって。レイラも第三者じゃないでしょう?貴女も少なからずは彼に惚れてたりするんじゃないかしら?」


「ええっ?!いや、そんなわけないよっ!だいたい、どれだけ生きてきたと思ってるのさー!今さらボクがただの人の、しかもあんなおっさんのレオンに惚れるわけないじゃんっ!」



 そう?……残念だわ。貴女が婚約してくれれば、先程の殿下の妥協案ももっと具体的かつ現実的なものになるのだけれどね。

 せっかくリオと仲良しなんだから、一緒に混ざればいいのに……私はライバルが増えること自体は歓迎しているわ。火炎魔法のように、恋は激しく燃え上がっててこそ…よね!


レイラ(まったくもうっ!アリーってば、勘弁してよねー……もう、人を好きになるのは懲りてるんだって――恋愛模様は外野がいっちばん!楽しいんだからっ)

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