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陽気な青年


 さっそく、アレックス達に同行して東門へと向かう。どうやら、救援を依頼しにきた先方の護衛の一人がそこで待っているらしい。馬車までの案内役でもあるわけだ。



「そういや、救援の要請が届いてからどんくらい経ってるんだ?」


「あー、レオンが来る少し前くらいじゃないか?待たせるわけにもいかねぇし、すぐに出発したくても人数がなぁ…って悩んでた頃合いにお前さんがやってきたからな」


「なるほどなぁ……ってあれ?現場で守ってる護衛って二人、になるのか?貴族にしちゃあかなり少ないが……大丈夫なのか」


「ん?あ、そうか!途中で話を切ったんで伝えてなかったな」


「私たちは依頼人の主が貴族のご子息様だと知ってるけど、本来はお忍びでこっちに来てるそうでね」


「あぁ……お忍びね……だから護衛が少ないのか」


「それもそうだが、公的に来てるんだったらまず冒険者に依頼しないだろうなぁ。真っ先にワーデルスお抱えの騎士団が出動してただろうよ」


「そも、公的なら護衛も多いし、自分達で何とかなってたっしょ!」



 なるほどねぇ。東門側からお忍びで、かぁ……思ったより厄介事か?まぁ、お忍びなら相手も積極的に俺たちへ関わろうとはしてこないだろ。


 

「ところで、髪とかは隠さなくていいのか?貴族相手に変な注目はされたくないんだろ?」


「あー、逆に隠してる方が不審がられるみたいでな。それに、高位の貴族ほど黒髪と闇の関連性が無いと理解してるそうだ」


「へぇ、そうだったんだな……たしかに、教会と貴族が癒着してるなんてのはあまり聞かないな。もしかして、仲が悪いのか?」



 んなもん聞かれたって、知らんがな。さっきのは全部、オルフェンス港に行く前に教えてもらったアリーからの受け売りなんだわ。どのみち黒いのが珍しいことは変わらないそうだが……それなら頭が蒸れなくて済む方を選ぶね。



「あ、ほら。門が見えてきたぞ。んで、護衛の人ってのはどこにいるんだ?」


「服装は私たち冒険者のようなものだとは聞いてるけど……雪かきの作業で門近くにいる冒険者が多くて分からないね」


「まっ、門前の衛兵に訊ねればいいだろ。最悪、大声で―――」



「――御依頼を受けてくださりありがとうございます。クリムゾンのお噂はかねてより伺っております」


「んぉっ!おぉ?……あー、ありがとな。お前さんが依頼人、か?」


「はい。救援依頼を申請した者です。お忍びということもあり、名前は明かせませんが……護衛その一やお前さんでも、皆様の好きなように呼んでいただければと」


「おう!わかったぜ。俺がクリムゾンのリーダー、アレックスだ」

「私はその補佐的な立場を務めさせていただいている、ジェイメスです」

「俺はアンドルだ!よろしくなっ」

「ランスだぜっ。よろしくぅっ!」


「う、うっす……レオンっす…」



 うっわー……この護衛さん、冒険者っぽい服着てても立ち振舞いとかがめっちゃ優雅だぁ……高位貴族に仕えてるタイプの人だよ、これぇ……クリムゾンのやつら、これでよく緊張しないでいられるよな。



「おや?そちらの方はクリムゾンでは……」


「……ガハハッ!よく分かったなぁっ。レオンは俺の弟子みたいなもんでな?ギルドでたむろしてたんで俺が誘ったのよ!ほれ、こいつも金縁ついてっから、そっちの条件は満たしてるだろ?」


「そうですね。人数が多いのは助かります……それでは、案内しますね」


「おう、頼んだぜ!雪もまだ止まないみたいだしなぁ……ちゃちゃっと向かおうや!」



 そうですね。とアレックスの意見に同意すると、懐から懐中時計のようなものを取り出した。蓋を開くと短い光の線が現れたが……魔道具か?



「この魔道具を使って案内します。あらかじめ指定した魔力に反応して、方向を指し示す物となっています――では、着いてきてください」


「へぇ……便利な魔法もあったもんだな」

「懐中時計としての機能も?」


「そうですね、ございますよ。現場にいらっしゃる護衛仲間も持っているので、私たちの標準装備にはなりますね」



 マジもんでGPS機能付きの時計じゃねぇか!それが標準装備って……しかも、魔法的には光魔法の"導き(ガイド)"だよな…。

 王都方面からお忍びでやってくる、光魔法の魔道具を複数所持した貴族のご子息……一体どんな奴なんだ―――




「―――いやぁ、助かったよ!最初は馬だけつれて、歩きで向かおうとしたんだけど、そこの護衛さん達に止められちゃってさぁ」


「当たり前です。第一、今の貴方様は変装をしていない状態です。だからこそ、クリムゾンの方々の前にも出ないようにと、私は言いましたよね?何故、頃合いを計ってまで出てきたんですか?」


「えー?だって、自己紹介は必要でしょ?名前は言えないにしても、ずっと馬車の中で黙ーって居るのはクリムゾンにとっても気まずいだろうしさ。それに、街に入ったら自分の足で歩くつもりではいたからね!」


「ならば、なぜ、変装道具を含めた荷物を全て先に送ったのですか?お忍びということをお忘れで?」


「あっ……そ、それはー……あははー……」


「そもそも、先の宿場町で変装してから出ていれば貴方様の仰る、自力で向かう手段もとれましたが?」


「ご、ごめんごめんっ。今はそのくらいで勘弁してよ!ほ、ほらっ、この方たちも待たせてるからさ。時間は有限だからね。

 あっ、自分のことは好きに呼んでくれていいよ。てめぇとか、この野郎とかでも全然大丈夫だからね。敬語とかもいらないからさ」


「お、おう!道のりからして、今日の夕暮れにはワーデルスに持ってけそうだからよ!その間、よろしくなっ」

「よろしくお願いします―――レオンとランスは歩きやすいように雪をどかして!私とリーダー、アンドルは客車の持ち運びをします!」


『おうっ!』


「護衛の方々も、よろしければ持ち上げ作業と雪かきの方に一人ずつ加わっていただけると助かります」

 


 アレックス並みに大きな体格をした、金髪碧眼の青年……青年、であってるか?名前と年を知りたくても、貴族相手に鑑定とかは使いたくないんだよなぁ。魔道具が怖ーのよ。

 冒険者には理解があるらしく、俺たちを前にしてもあっけらかんとした態度をとってる様だが……まぁ、うん。俺の想い描いた人物像とはかなりかけ離れてはいたな。


 とはいえ、貴族なんてのは二面性ありまくりの存在だと思ってるんで、これが本性だとしてもあまり近づきたくはない。

 つーわけで、ジェイメスの指示を聞くやいなや馬車から離れるように雪かきを始めた。



 金髪野郎は最初の方こそ客車担当に声をかけていたらしいが、仕事の邪魔になると思ったのか途中でぱったりと静かになったようで…。

 たぶん、他の冒険者の姿が見え始めたことも関係するんだろうな。ようやく、遠目にも門が見えてきたし……このまま静かに、何事もなく終わってくれよー?



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