過激派と穏健派
結局、王都に少し滞在しての観光計画はなくなり、馬の休憩以外ではノンストップでワーデルスへ向かった。途中、パラパラと小さな雪が数時間降ることもあったが、道に積もるほどではなかった。
とはいえ、もう雪が降るような季節になっちまったのかと思うと感慨深いよな。去年の俺ならそんなことは気にせずに採集と換金に勤しんでたんだろうが…。
それくらい、この一年は濃い日々で溢れていたってことだわな。きっかけは、間違いなくアリーと遭遇したことからで……後悔はしてないが、新しい環境に慣れるのは意外と体力気力を使うんでね。来年はもう少し、落ち着いた日々を過ごせるといいなぁ……なんて思うわけよ。
物思いに耽る間にも馬車は一定のペースで道を進み。遂にはワーデルスの門が視認できるようになった。
帰路の後半に差し掛かった時にはもう、あのレイラですらおしゃべりに興じずに、沈黙がパーティーを包んでいた。別に気まずさが漂ってるとかじゃないぞ?あれだ、中学の遠足帰りのバスの中みたいな感じだ。
「――無事、帰ってくることができたわね」
「いやぁー、良かったよ!雪が積もる前でさっ」
「だな……ほれ、リオ。起きろー」
「……ふぁぃ?……あっ…ワーデルス?」
「おう。着いたからな……お前さんらはどこで降りるつもりなんだ?」
「そうね……荷物の整理もしたいし、まずはクランハウスかしらね。ギルドへの帰還の挨拶は明日にでもするわ」
「ボクもそうしよっかなー……土産物の準備とかしたいしさ」
「僕は……そうですね。僕もアリーさんたちと同じく、一旦はクランハウス…で降りようかな」
「そうかそうか……んじゃ、俺はギルドで降りるとしますかね」
「…そう。わかったわ。それじゃあ、冒険者ギルド前で停まるように言ってくるわ」
本格的に雪が降る日が近いのか、駆け込み入場する馬車や商隊が多く、そこそこの待ち時間を食らったが……ま、何事もなく夕暮れ前にはワーデルスへ入ることができた。雪が降り積もるフラグ?……そんなものは知らんね。
最初に決めた通り、ギルド前で俺一人が降りたところで馬車は去っていった。
なんか、久しぶりの独りだな。こっちの方が気楽で肩の荷が下りた気がするぜ……ほんと、集団行動向いてないのな、俺…。
「さて、と……とりあえず、帰ってきたぞっていう挨拶だけは当日に済ませておきたいんだよな。長旅だった時は特によ」
手土産とかはないが、そういうのはまとめてアリーがやってくれるだろうし……本当に挨拶だけのつもりだ。
ザワザワしてる空気が扉前でも伝わってくるぜ……仕事終わりの奴等が多いのかもな。入りづらいが、致し方なし。
「邪魔するぞー。お、ソフィア嬢もいるのか!レオンが帰ってきたぜーっ!」
「事前に申告された期間よりも十日ほど遅れていますが……長旅、お疲れ様でした。豊穣の灯りの方々はどうされたので?」
「今日は荷物の整理で忙しいみたいでな。また後日顔出しに来るってよ」
「なるほど……わかりました。いち早くの帰還の報告、ありがとうございます」
「おうよ。んじゃ用件は済んだんで、帰るわ――あ、活動の再開は明日……いや、やっぱ明後日からにするつもりだぜ」
「お疲れ様でした…それでは、帰り道に気を付けてくださいね」
俺はそこまでドジじゃないっつーの……それにしても、このかん騒いでた冒険者達が口をつぐんで俺のことを凝視してるのよ。軽くホラーだわ!帰り道より、こいつらに気を付けなきゃいけないんよ。
背中にひしひしと感じる視線を無視しつつギルドの扉に手をかけたとき、一斉に椅子の足が床を引き摺る音がした。
「いけぇっ!あいつから事の真偽を問い質せぇっ!」
『うぉぉぉっ!』
「よくも、お、俺達のアリーちゃん御一行に手を出しやがったなぁっ!こ、今回ばかりは怖がってられるかぁっ」
「そうだ!そうだ!」
よくわからん言葉と共に、多勢に無勢であっという間に羽交い締めにされたわけだが……誰だよ、お前らは―――おい、そこで爆笑しながら飲んでるクリムゾンの古参共っ!どういうことか分かってて愉悦してんなぁっ!
「はぁ……まず、お前らはなんなんだよ。ギルド内での暴力は禁止だぞ?最悪降格処分が下されることだってあるんだぜ?」
「こ、これはっ!暴力ではなく、拘束しているだけだっ!」
「そうだぜぇ!お前には聞かなきゃいけないことがあるからなぁ」
「よくも、俺達の天使を穢しやがってこの野郎っ!」
「ここがギルドかつ、私たちが紳士的で良かったですねぇ……可能なことなら、ワーデルスの冒険者が総出で貴方をボッコボコにしてましたよぉ……」
「あぁ?……マジで状況が掴めねぇんだけど……俺、なんかしたか?」
「そうやってシラを切ったってムダだぜっ!ここにいない奴等も全員知ってんだ!お前がぁ、豊穣の灯りのクランハウスにお泊まりしたってことをなぁっ?!」
「……はい?…それがどうしたってんだよ」
「どうしたもこうしたもあるかぁっ!豊穣の灯りはなぁ!俺たち冒険者の野郎共にとって崖の上に咲いた一輪の純白な花なんだよっ!」
「どんな奴にでも優しく微笑む姿。どこにいても変わらない優雅で気品のある立ち振舞い……」
そりゃまぁ、アリーなんかはもろに貴族令嬢だからな。腹芸とか動きとかは幼い頃から教育された賜物だろうよ。ってか、豊穣の灯りのメンバーは複数いるぞ?それを一輪の花って……。
「俺たちには決して手の届かないところで輝く、穢れのない神の御使いなんだ……それを、お前はぁぁ」
「アレックスさんのように歴戦の銀級の冒険者ならまだ理解できましたが……よりにもよって、貴方のような万年銅級の存在があのお方たちと同じ屋根の下にいるのは許せませんっ!」
「女性を守るのが俺たち男の使命だっ!たとえ、浸蝕する闇の申し子相手でも、俺達は怯まないっ!」
「とはいえ、何か法を犯した行為の決定的証拠まではまだ確認できてねぇからなぁ……さぁ、吐いて貰うぜ?」
うっわぁ………気持ち悪っ。煮詰まった過激ファンみたいな思考をしてやがる、こいつら。しかも、リアルで顎先をナイフペンペンする奴がいるなんて……分かりやすい悪役ムーブだぞ、それ。
ってか、これを爆笑してみてられるクリムゾンのやつらも大概だからな?……あぁ、こりゃ悪ノリで参加してるやつらもいるな。数人が過激な人達で、残りはサクラかガヤってことかい。
そりゃそうだわ。こんな問題行為、普通はギルドが真っ先に止めるもんな。ってことは、炙り出しと現行犯逮捕が狙いっすかね。
たぶん、日頃の素行や態度が悪い冒険者だったんだろうなぁ……羽交い締めと、恐喝でもうアウトだよな?あー、ってかこのナイフ取り出してやってる行為の時点で即レッドカードものっすわ。
「おい、クリムゾンのおっさんら……もう、こいつら絞めていいんじゃねぇか?んで、さっさと俺を助けろっての」
「ちぇっ、気づかれたんなら仕方ねぇか……おーい!もう劇はおしまいだー!」
『おう!』
「はっ?お前ら、急に、何をっ!」
「同士じゃなかったのかよっ!」
・
・
・
「―――んじゃ、こいつらを衛兵のとこへ突き出してくるからよ……お前ら、頼んだぞ?」
『おう!』
「……はぁ、まだ何かあんのかよ……」
「まぁまぁ……私たちはあの人達ほど過激じゃあないけど、一晩泊まり込むだなんてどういうことか気になって気になって……闇魔法を真剣に羨ましく思えるくらいには、ね?」
「おうともさ!妬みやら怒りやらで思わず血涙が流れちまったぜ!」
「いや、それはそれで怖ーよ……平然としていても内容がだいぶドロドロしてるんだわ」
「ヒヒヒ……で、どういうことかな?」
「どうもこうもねぇよ……あー、カスクスピーナ取ったついでにレイラとリオから酒飲まないか誘われてな。ほら、あいつらが最近飲み屋を回ってるのは知ってんだろ?」
「……まあねぇ……レイラさんとなら飲みの席で一緒になることもあるし…」
「同じく」
「レイラさんって、面白い人だよなっ!」
「わかるーっ」
「んで、深夜まで飲んじまったんで……そのまま流れでリオと寝た…ってだけのことだ」
『えっ……寝た………』
「あ?俺とリオは身内も同然の関係なんだから、特におかしいところはないだろうが……ってか、少なくとも古参連中は俺とリオの関係を知ってるだろうが」
「……ん?あ、あぁ。そ、そういうこと……」
「言い回しがなぁ…」
「逆に俺達以外のここに残ってる連中は知らんと思うが……若い奴らも多いからな」
「ヒヒヒ、面白いことになりそうだ」
「?……はぁ、遠征帰りの直後に変な揉め事に巻き込むのはやめてくれよな。疲れてんだわ、こちとら。
――んじゃ、話すこと話したんで、俺は帰る。詳細が聞きたけりゃレイラにでも訊ねとけ。一緒に飲むこともあるんだろ?そんときに酒代を奢れば気前よく答えてくれるだろうよ………あー、そうだ。俺にも今回の迷惑料として、今度なんか奢れよな?」
「そうだね……アレックスさんにもそう伝えておくよ」
いや、これ考えたのアレックスなんかーいっ!通りでクリムゾンのサブリーダー的な存在が出張ってきてたわけだ。何奢ってもらおうかね……まっ、今はそんなことよりも、さっさと帰って風呂に入りてぇ……ここ最近のQOLが高かったせいで、いきなりあの宿で生活するのはちょっとな…。
あっちの家に着く頃には夜も更けてるだろうなぁ……しゃーない、走るか。
ワーデルス冒険者歴3年未満&今までレオンを恐れて近づかなかった冒険者達...
『リオさんは……レオンさんと身内も同然な関係で………一緒に寝る仲―――はっ!?』
クリムゾンの古参と事情通な冒険者たち...
「やっぱりそうなりますよねー……」
「だよなぁ……どうする?」
「ヒヒヒ、放置しても面白そう…愉快、愉快」
「まぁ、彼が蒔いた種なので……私たちが変に関わるのはやめておきましょうか」
「……静観、だな。問題があるなら当人がどうにかするだろ」




