表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/100

積み重なる罪悪感

アリー「レイラ。特に貴女は、この事をお父様に伝えることを禁じます」

レイラ「それはワーデルス辺境伯の娘として?……それなら悪いけど――」

アリー「いいえ?お母様の娘としてよ」

レイラ「……そっか。もー、仕方ないなぁ……今回だけだよ?」

アリー「?……何を言ってるのかしら。金輪際に決まってるじゃない」

レイラ「えっ?」

アリー「闇の魔法の"契約"を使うわ。エマ、最高等級の魔道具でお願い」

エマ「かしこまりました」

レイラ「えっ!ちょ、ちょっと待ってよ!今後、何も喋れなくなるのはマズいって!さすがに、ワーデルス伯も不自然に思うよっ?というか、レオンの能力については話した方が婚約に有利――って…うっわぁ、制限が厳しく設定できるやつじゃん、それ…」

アリー「当たり前よ。話したらそれ相応の罰を覚悟してもらうくらいじゃないと……でも、たしかに急に一切の情報を落とさなくなるのは不自然ね……じゃあ、こうしましょうか!―――」



 オルフェンス港からの帰路。休憩のために泊まった宿で、かなり濃かった日々を思い返す。主に狩猟祭でのことにはなるが。

 あんなに魔物に囲まれる状況をなんとか凌ぎつつ、最後には本当に竜種の姿まで拝めるなんてな……オルフェンス港に来るときは全く想像してなかったわ。


 それに、アリーだけじゃなく豊穣の灯りの面々にまで能力がバレちまった……いやまぁ、ギフトをもらってないのは本当なんで、

『強力な身体能力強化系の天稟のスキルがある』

くらいには抑えられたとは思うが…。

 咄嗟に、バレる範囲を限定できたのは我ながらファインプレイだぜ。


 それに、アリーから口止めの証文?みたいなのも貰ったしな。これを燃やしたり、破って散り散りにしない限りは"契約"の魔法の効果が継続されるんだと。

 こういうのは、誰にも盗れないよう金庫や公的な機関に預けるのが一般的らしいが……インベントリを持つ俺に直接アリーが一人で渡しに来たってことは、そういうことだろうな。


 今のところ、闇の魔法で契約したのはレイラだけだが、俺が望むのならその他のメンバー全員に"契約"を掛けるつもりなんだとよ。自分自身にも掛けるってんだから、さすがに遠慮したわ。これって、使いきりの魔道具でかなりお高いんだぜ?俺の勝手であっちに全部負担が行くのはちょっとな……やるにしても、俺が全員分の魔道具を買えるようになってからだ。

 それに、お偉いさんにバレたときはワーデルスから逃げればいいだけだしよ。

 


「前向きに考えれば、周りに豊穣の灯りのメンバーしかいないなら、ある程度は本気出してもよくなったわけだ。これは、かなり楽ができるぞ」



 あのときは魔力切れでダウン中だったリオも、意識までは失ってなかったそうで。


 テレポートで一足先に戻り、大浴場を独りしばらく楽しんでたところでリオがこっそりと入ってきてカミングアウトしたんだわ。見てました!ってな。

 んで、いきなり闇魔法を使い始めたもんだからな……魔道具を介さない闇魔法の"契約"って直接命に関わるペナルティを定められるっぽくて、マジで焦ったぜ。

 なんだよ、他者に話そうとしたら喉が破裂して死ぬって……怖いわ!


 魔力を練っているタイミングで、それを咎めるかのようにリオの後頭部へ何かが飛来してきたんだよな。お陰で、リオの暴走が止まってくれて良かったぜ……気絶したリオの介抱でまた焦りはしたけどよ…。

 飛んできた何かは、ひとまずインベントリにしまってある。鑑定してみたが、これも表には出せない代物だったんでな。まぁ、簡潔に言うなら……ブラッドムーンの正体が古龍かもしれないってこと、だな…。



「さすがに、永く生きた竜種のブレスは効いたのかね……リオが入ってこなければ、間違いなく俺の顔面に直撃してたしな…」



 とはいえ、不意打ちの後頭部だったから気絶しただけで、威力はそんなに高くなかった。たぶん、正面から食らっても大丈夫だったと思うぞ?実際、リオの頭にたんこぶは出来てなかったしな。

 ほんとに、こんにゃろ!みたいな感じのちょっかいだったんだろうよ……古龍って案外オチャメな奴らが多いのか?



「おっさーんっ!入っていいーっ?」


「だーめっ」


「ええ……じゃあ、せめてこの大盾だけでも貰ってよーっ!……罪悪感がすごいんだってばぁ…」


「はぁ……部屋に入るなってのは冗談にしろ、大盾はいらん!せめてで、本命を出してくるなよ……ここ最近、ずっとそればっか言ってるだろ?お前さんは。いいかげん諦めろ」


「えっ!部屋に入っていいのっ?おっじゃまっしまーす!」


「スルーかい……ってほらぁ!やっぱ大盾背負ってるじゃねぇか!一人部屋にお前さんとそれが入るのは、存在感がありまくりで落ち着かねぇんだわ」


「でもさー……」

 


 でももだってもねぇよ!だいたい、何度もいらねぇって断ってるんだから、そのまま素直に受けとればいいんすわ……今、レイラの心情が色々とぐちゃぐちゃになってるのは何となく想像はつくがな……それとこれとは、また別なんだわ。



 事の発端は、今年の狩猟祭のMVPにレイラが選ばれたことにある。


 どうやら、狩猟祭の終わりに必ず出現するカイリュウの素材の分配は、昔から参加者達で話し合って決めるそうだが……いつまで経っても決まらない時があったようで。

 いつからか、討伐できなくともカイリュウの戦いで一番貢献した人に、貴重な部位や人気の高い素材を優先して渡すルールが出来ていたそうだ。

 この、一番貢献した人の決め方だが、遠目で見ていた奧さま部隊も含めての投票によって当選される。ちなみに自投票は不可だとよ。


 この投票結果で、今年はレイラが当選したわけなんだが……理由はもちろんブレスを防いだこと。

 レイラ当人は最初の方こそ必死に否定していたそうだが、アリーが謙虚な子なのよ~おほほー…と住民に言いふらしていたらしい。それに、このときには既に"契約"を終えていたそうだからな。直接的に否定して俺の名前を出すことはできなかったみたいだ。

 アリーよ……ナイスアシストだ。


 しかし、今年はカイリュウの討伐に失敗しているので、去年倒したカイリュウの素材が渡されることになった。

 ただ、竜種一体につき一つしかない宝珠や貴重な部位の多くは去年のMVPの人や参加者たちが貰っている。そのため、数多くの素材や価値のある物を渡せないことにオルフェンスの住民や漁師さん達が悔しがったらしく……それならば、普段の漁で獲れる珍しい魔大陸の魔物素材や残っているカイリュウの素材等を用いて最高傑作の大盾を造り、壊れた大盾の代わりとしてプレゼントすればいいじゃないか!――という運びになったそうだ。

 その結果、大盾ができるまで待つことになり……俺たちがオルフェンス港に滞在する期間が一週間以上延びた。


 そうそう、アリー曰く……帰路の途中で雪が降らないといいわね、とのことで。

 ワーデルスに着く頃には冬が始まっており、天気次第では雪が積もって立ち往生する可能性が出てきたようだ。



「でも、実際に息吹(ブレス)を何とかしたのっておっさんじゃん?……うぅ、善意が重たいよぉ…こんなのボクには背負えないよー……」


「…んなこと言われても知らんがな……まぁ、一つ言うことがあるとするならば……」


「むぅ……なにさー?」


「…いい隠れ蓑だったぜ!グッ」


「うがぁぁぁっ!ボクは都合のいい女じゃないんだからねっ?!しかも、なにそのグッは……グッじゃないよっ!もうっ!…ふんすっ―――はぁ…心が痛いや……」


「……なんか、すまん。そんなに、心労が溜まってるもんだとは思わんかった。あー……まっ、あれだ。お前さんからは、既に契約の証文貰ってるからな。こっちの方が俺にとっちゃ価値あるもんなのよ。だから、その盾は俺からの口止め料とでも思ってくれや…」


「それはそれで、大盾を製作してくれた人たちに悪い気がするけど……まぁ、うん。たしかに、その言葉を聞けたことですっきりしたところはあるかな。ありがとね。今度、おすすめのお酒を奢るよ!


――あっ、そうだ!今回のお礼とはまた別で、おっさんが困ったときは呼んでちょーだいっ!ルーナもそう言ってたからさ!んじゃ、ボクは新しい大盾の感覚になれてくるよっ!また後でっ」



 おー……久しぶりに、いつものレイラを見た気がするぜ。

 何はともあれ、後は無事にワーデルスに帰るだけ、だな!




[赫灼龍の紅煌殻]

世界の誕生から存在する古龍の重殻。表面から立ち上る紅色に燿く魔力は、自然を魅了し、いつまで経っても消えずに揺らぐ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ