漁師と魔族の活躍
狩猟祭が始まってから、もうまもなくでブラッドムーンが俺達の真上に来そうな頃。俺は皆のもとから少しだけ離れ、漁師さんたちの活躍を遠目で眺めていた。
「おー、でっかい魚…?だなぁ……背鰭とかもはや凶器じゃねぇか。おっ、あっちは……なんだ、あれ。クラゲっぽいが……無生物系の魔物か。海にもいるんだなぁ」
大きく鋭い背鰭を使って、防衛線に高速で突撃をかまし、岩を切り裂いていく魔物。半透明な黄色の頭に青色っぽく透き通った触手を数えきれないほど生やした魔物。海底の砂を弾丸のように噴射してくるヤドカリのような何か。どうやら、背負ってる貝が本体かつ魔物らしいぜ……ヤドカリのように見える部分はただの足だそうで。
普段見ない魔物が次々と現れては、設置した岩によって上陸が妨げられ、その間に漁師たちの手によって倒されていく。浜についたときから、今のところずっとこの流れが続いている。
鳥や虫系統の空飛ぶ魔物はちょくちょく来てるようだが、俺達のいるところから遠く離れた浜辺で他の冒険者が倒していた。陸棲の魔物はおろか、上陸を果たした魔物は未だにいない。
つまり、何が言いたいのかというと…だ。
「暇……だなぁ………」
「敵さん……こないっすねー…」
ため息感覚で洩らした独り言にまさか返答があるとは思わず、ビックリして心臓がキュゥッとなったぜ……なんだ、レイラかよ。驚かせやがって。
「なんでお前さんもここにいるんだよ……パーティーメンバーはどうした。アリー達のとこから離れていいのか?」
「えー?それは、おっさんも人のこと言えないと思うけどなー。助っ人制度とはいえ、一時的にはおっさんも豊穣の灯りの一員でしょ?」
「……まぁ、それはそうだが……」
「でも、おっさんの気持ちはわかるよっ!後方にいたんじゃ、防衛線の様子なんか全然見えないから楽しくないし……ボクたちは近接武器しかないからねっ。もし、浜まで魔物が上がってきたら真っ先に叩きたいじゃん!」
「それはそうなんよ……もっと、緊迫した雰囲気かと思ってたが、意外にも祭りの体裁は保ってるんだな。和気藹々、意気揚々って感じだ」
「……まー、漁師たちは獲物が取り放題の特別な日って感覚らしいし……冒険者は珍しい魔大陸産の素材をとれる機会、お金をたくさん稼げる機会だからねっ!」
「……魔物は人にとって死をもたらす脅威的存在なんだけどな…」
「あははっ、そんなの普段から危険な海に出ている人達や金級まで上がってきた冒険者からしたら関係ないんじゃないかな?あの人たちにはきっと、死の危険を差し置いてでも惹かれる何かがあるんだろうねー」
そんなものなのかね……まぁ、そうか。金に困って始めたとしても、金級まで上がる必要はないもんな。漁師だって、狩猟祭へは自由参加らしいし……死の恐怖に嗜好や興味が勝る、ねぇ。
「それに、狩猟祭は何百年と前からある行事だからさ。よく参加する人達は、やってくる魔物の特徴とかをほとんど記憶してるんだろうね。ほら、討伐すること自体はどこか単調的な作業になってるでしょ?」
「……たしかにな。ルーチンが無意識下に組まれてるってことか。暗黙の了解のように役割分担があるのも、その一端なのかね」
「たぶんねー……役割といえば、エマはすることないからって、アリー直々に後方の奥様部隊へ倒された魔物を運搬する作業に任命されたしさっ。さっき、ちらっと奥様たちの様子を覗いてきたけど……いやぁ、解体の手際が凄かったよ!ずっと見てられそうだもん!」
解体作業をずっと見てられるって……ちょっと共感はできんぞ。あれだ、レイラは砥石で刃物を研いでる様子とかもずっと見てられるタイプだな…知らんけど。
そういや、倒された魚類系統の魔物の中に鱗が砥石がわりになる奴もいたな……背鰭突進してきた魚の魔物と共生関係にあるらしいぜ。
他にも、すごい勢いで岩に突き刺さり抜けなくなったダツっぽい魚系統の魔物もいる。鋭利な背鰭の魔物とダツもどきは、特殊な加工を施せば姿形はそのままに武器として使えるようになるらしく……魔大陸の魔物ってスゴいよな。
「でも、個体によって切れ味とか貫通力は違うっぽいんよなぁ……厳選とかする奴もいたりして―――ってか、ほんとに魚類系の魔物しか来ないな」
「だねー……ピーク時にはいろんな魔物がわんさかやってくるそうだけど……これも魔大陸の住民が頑張ってる成果だと思うと、もっと来てほしいなんて言えないよねー…」
「ん?魔大陸の住民がなんかしてんのか?」
「あれ?皆に言ってなかったっけ?
この現象は魔大陸でも起きてるみたいでさ。海の魔物が襲ってくることはないんだけど、それ以外の魔物が海に出ようと港町を襲うんだって。んで、町を守るために魔大陸の住民が防衛戦してるって感じ」
「なるほどな……だから、今のところ魚系統の魔物がほとんどな訳だ」
「そ!ただ、魔物も学習するみたいでさー。防衛していくうちに、魔物が町を迂回する形で海に出て行くんだってさ。さすがにこういうのは止められないから、夕方頃に陸棲の魔物がやってくるってわけ!」
「……それじゃあ、ここと反対側に位置する国の街も大変だな……」
「んー?反対側ってアーパル王国のこと?……そっちの国で狩猟祭みたいな状況にあるなんて話、ボク聞いたことないけどなー……」
「ありゃ、そうなのか?反対側の国がアーパルなのは初知りだが……海に面してるならこっちみたいに魔物が襲ってきてるもんだと…」
「んー……あ、そうか!こういうのって、世界中を旅してないと分かんないよねー。実は、アーパルって海に面して無いんだよっ。海に面してる国は魔大陸と、オルシア王国だけなのさっ!」
「んっ?……はぁっ?!え、じゃあ、何に面してるんだっ?」
「えっとねー、天辺が分からないくらい高い岩壁とか、底が見えない谷とか……かなっ」
「へ、へぇー―――あっ、アリー達が呼んでるみたいだぜー。あっちに行こうぜー」
「あっ、ほんとだ!さっき奥様部隊が解体ついでに料理始めてたし、お昼ご飯ができたのかもっ!」
……おいおいおい、嘘だろ?一体全体、この世界の地形はどうなってるんだ…?
あぁ、異世界……思ったより異世界してたわ。




