勘違いが生んだ粋な計らい
「よっ、ほっ……そぉいっ!
――んー……まぁ、とりあえず転けたり滑ったりはしなくなったか」
「はぁ…はぁ……んっ、そう…ですね……ふぅ、砂浜で動くのってかなり体力使いますね。明日は筋肉痛になってそうです…」
「リオは細かく動いてくスタイルだもんなぁ……そりゃ、流動していく地面とは相性は悪いわな」
「先輩は余裕があるみたいですけど……コツがあるんですか?」
「んー?俺はただ、走ったり踏み込んだりとかの動きはしてないだけよ。リオのように飛んだり跳ねたりすれば数分でヒイコラ言ってると思うぜ」
砂場は地面の流動性が高く変形しやすい。だからこそ、足が接地したとき反発が吸収されて動きにくく感じる。リオや俺みたいな軽装ならまだいいが……重装備や鉄板を仕込んだ靴を履いてたりする奴は沈むからな。余計に身動きが取れないだろうよ。
なもんで、いかに接地時間を短くして変形する前に反発を得るよう動けるかってのが大事になってくるんだが……それを実行しようものなら、いつもより足を素早くかつ小刻みに動かさなきゃいけないわけでして。
そんなん、すぐにバテるわっ。逆に、それで夕陽が拝めるまで動き続けたリオの体力はどうなってるんだよ。休憩なしで二~三時間は砂場トレーニングしてたってことだからな?
「そんなっ、僕は無駄が多いだけで……先輩みたいに必要最低限の動きで戦えるようになりたいですっ」
「だーめ。おっさんは体力をケチって楽してるだけなのよ。動けるうちに動いておかないと筋肉とかはすぐに衰えるからなぁ……当分、リオは今のままでいいぜ」
「そんなものなのでしょうか…」
「それじゃあ、ボクにそのやり方を指南してほしいなっ!」
「んおっ、レイラか……なんかあったのか?」
「ひとまず、領主との対談が終わったからねー。お姉ちゃんやアリーはそのまま資料室で調べものをしに残ってるけど、ボクはそういうの得意じゃないからさ……楽しそうなこっちに来ちゃったっ」
「でも、僕たちも砂の感覚に慣らしてるだけで……汚れちゃいますし、疲れると思うんですけど…」
「いいよいいよー、体動かす方がボクは好きだしさっ。というか、ここまで来る時に感じたんだけど……大盾持ちながら砂浜歩くのってけっこうキツイんだねー。これはボクも慣らさなきゃと思ったよ!」
「それで、俺が立ち回りの指南ってことか?」
「そうそう!さすがにこれ使いながらリオみたいに動き回れないしさー」
「……そもそも、お前さんは大盾でどんな風に戦うんだ?」
「んーとねぇ……面で叩きつけたり、振り回して角っこで殴打したり………後は攻撃から身を守ったりするのに使ってるかな?」
「一番普通な使い方がついでのように出てきたな……」
「あ、あはは……でも、レイラの盾術がほとんど攻撃技なのは本当ですよ?」
「これで殴りかかれば、たいていの相手は怯むか武器が勝手に弾かれるかするからねっ!まさに攻防が一体となった万能武器だよっ」
「対人はそうかもしれんが……魔物相手だとそうもいかないだろ?」
「ん?魔物でも頭を叩けば基本的に倒れるよ?」
はっ?どんだけ力が強いんだ…こいつ……ってか脳筋キャラだったのかよ……それなら、大盾以外にもなんかあったろ…。
「……大剣とか鉄槌とかでいいじゃねぇか」
「あ、やっぱり先輩もそう思いますよねっ!僕もそのように思って、訊ねたことがあったんですけど……刃筋を立てたり、有効に当てる才能が壊滅的だったそうで…」
「てへぺろっ!ボクってば、盾の扱いだけで食べてるんだよねー……あ、あと魔法もっ」
「――とりあえず、そろそろ日が暮れるし宿に戻るか」
「そうですね!砂とか汗も流したいですし……大浴場付きでしたよね?」
「たしかな……ほれ、レイラも着いてこい」
「えぇーっ!昼過ぎからあちこち駆け回って、ようやく見つけたと思ったのに……すぐ帰るだなんて…ひどいよっ!」
「もう少し早くに見つかってれば、こうはなってなかったかもな」
「大きな街ですもんね、オルフェンス港は……ほら!まだ明日もありますし、ね?」
「ぶー………そういえば泊まる宿が変わったから、ボクが案内するよ……部屋からの景観が良くって、ご飯も美味しいなんて評判みたいだね……」
「おーっ、飯がうまいのはいいな……風呂はあるのか?」
「…宿を変更した理由って何かあるんでしょうか?」
「んー、たしか一部屋ごとに魔道具を配備した簡易浴槽付きで、それとは別に大浴場もあるんだったかな……宿が変わったのは、アリーの交渉と領主様の計らいだよっ」
おうふ。つまるところ、豊穣の灯りの接待ってことだよな……いや、金級パーティーなら他にも来てるはずなんで、これはアリーをおもてなしするためのものかね…。
ご同伴に預かるのがちと怖くなってきたぜ。俺だけ宿を別にするってのは……それはそれで変か。しゃあねぇ!リオもいるし、なんとかなる――はずだ…よな?
とにかく、この街に住むお貴族様に目をつけられなければそれでいいんだ……不自然に目立つことを避けていかねば…!
「よし!それじゃあ、ボクに着いてきてっ!」
「はいっ」
「うっす…」




