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公爵貴族の圧

“豊穣の灯り”リーダー

アリーの視点です


「お久しぶりですわ。オルフェンス公爵様」


「ふん……堅苦しいのは好かん。口調を崩せ」


「……分かったわ。それじゃあ、私のことも冒険者のアリーとして扱ってちょうだい。手紙が来たとき、アリー宛なのに中身はアリスだったもの」


「……気に食わんな。冒険者をする程度なら身分など変えなくともよいだろう?私やワーデルス辺境伯はそうだ」


「長女の立場だと他の人が関わりにくいじゃない?依頼にも差し障るしね。なるべく貴族としての要素を排することで、周囲からも不必要に恐れられなくて済むわ」


「…恐ろしいと思うのは分からないからだ。分からないからこそ、貴族とは権力を振るうものとして、明確な上位者として恐れる。貴族の姿ではなく己の姿を見せればいいだけだろう。貴族、平民の役割はあれど我らは等しくオルシアの民だ」


「……お説教かしらね」


「そうだ。貴族の娘、女としての役割では金級冒険者の肩書きは不要…もしくは足枷になるやもしれん。だからといって中途半端に偽装するのは悪手だ。なぜ、このような行動に出た?」



 やっぱり、オルフェンス公ほどの人だと騙せないわね。そこまで中途半端な偽装でもないんだけれど……徹底してないのはたしかね。さて、公爵様はどこまで掴んでいるのかしら?



「そうね。お父様が金級の冒険者だと知って、憧れて私も……って感じかしら」


「違うな。それならば、噂を流してまで次女である必要はない。そもそも、奴も私と同じ考えを持つ者だ。現役の金級でいられるのも、時折市井の者とパーティーを組んで依頼をこなしているにすぎん。実際、一昨年は奴も狩猟祭に飛び込んできた」

 

「えっ……ここにお父様が?……王都に行くって言ってたのは嘘だったのね……あぁ、お父様が時々お仕事を抜け出す理由がようやく分かったわ」


「それはなによりだ。で、私の質問への答えはどうだ?貴族であることの壁は障害になりえないと判ったはずだ」


「と、言われてもね……偽装を施したのも、パーティーの人員を用意したのも…専属侍女のエマを抜けば全てお父さんの仕業なの。私にも理由はわからないわ」


「ふむ……上手く逸らしたな。私は偽装した理由について尋ねてはいない。冒険者を志した積極意思の在り処を聞いている」



 あら、上手に躱せたと思ったのだけれど……私の倍以上生きてきたこの人に、どこまで隠し通せるかしら。



「いや、率直に聞こう。あのレオンとかいう男は何者だ?少なくとも、奴が次女を造り上げ婚姻関係を許可する程とは思えんが」


「ふふ、そこまでバレてるのね……領主館の二階の角部屋なら、よそ者が来やすい正門まで視界が通ってるのよね?噂のギフトで視ればいいじゃない」


「鑑定のギフトと鷹の目(イーグルアイ)のスキルの組み合わせか……それならば、貴女達がこの街に踏み入れた時点で使用している」


「そうなのね。じゃあ、それで視たものが全てよ」


「ふん……見れたのはレオンという名前と年齢だけだ。魔大陸の民と張れる保有魔力の私が、ここまでしか覗けなかった。だから、何者かと尋ねている」


「…そんなの私にだって分からないわよ。ギフトを授かっていない銅級の冒険者ってことだけ……これくらいは既に調べてあるのでしょう?」


「……天稟のスキルは持っているのか?」


「今のところ使っている様子やそういった噂話は聞いてないわね。持ってないんじゃないかしら?」


「ふむ、そうか……つまりは、保有魔力で判断したわけか?……ギフトがまだないともなると、潜在的な才能はかなり高いといえる。また、魔力量の高さは親から子に高確率で継承されるという研究結果も存在する」


「そうね、お父様はそのように判断したと思うわ。

 きっと、彼も自分が持つ魔力の多さに気づいてあえてギフトを貰わないようにしてるのよ。目立ちたくないって常日頃から言っているもの」


「…没個性で安寧を得るか……愛国心が薄いのは難点だが、根なし草であるならば賢い生き方ではある。信頼できる後ろ盾の無い間の自己防衛法としても優秀だな。頭は悪くなさそうだ」


「まぁ、そうね……地頭は悪くはないと思うわ…突拍子の無い行動とかはするけど…」


「ふむ……貴女のパーティーに新しく加わった、リオとかいう少女についても気になっている。彼女もレオンには劣るが私より保有魔力が遥かに多い」


「あぁ、()もあまり詳しいことはわからないわ。魔法を使えるからどこかの家の傍系かもしれないわね」


「……()?」


「ん?リオは男の子よ?」


「……そうか。まぁ、いい。聞きたいことは概ね聞けた」


「…これだけの用件で私を呼び出したのかしら?」


「そうだ……すまなかった。詫びとして、これまでの狩猟祭の記録を閲覧する権利をやる。仲間に共有してもらって構わない」


「狩猟祭初参加の私たちにとって、その情報はありがたいわね。まるで、始めから用意してたみたいだわ。

 でも私たち、たった十分ちょっとの対談のために往復でひと月半程の時間を掛けるのかしら?」


「……こちらへの滞在期間中の宿代は私が受け持とう」


「オルフェンス公爵様の心遣い、感謝いたしますわ……レイラ、レオンとリオに合流してきなさい。エマ、宿を変えるわよ。せっかくだから、良いところにしましょ」


「りょうかいーっ!」

「かしこまりました」


「……資料室は地下だ。扉前で待機しているそこの男が案内してくれる」


「そう。それじゃ、ここを出るときにまた挨拶をしにくるわ」



 アリスとして軽く膝を曲げて一礼し、オルフェンス公の前から去る。公爵様が指した執事に私とルーナを資料室まで案内してもらい、二人だけになったところでようやく一息をついた。


 ふぅ……なんとかスキルだけは隠せたわね。レオンと私だけの秘密の約束だもの。何があっても、私から話すことはしないわ……それに、知ったところで人間にはどうにもならない類いの能力だもの。利用しようだなんて考えるだけ無駄だわ。



「さ、ちょっと休憩したら記録を漁ってくわよ。ルーナも手伝ってちょうだいね」


「もちろんよ~。いったい、どんな魔物たちがやって来てたのかしらね~?」


オルフェンス公「……結局、誤魔化されたか……色恋に夢中になった愚かな娘でもなし……アリスがかの男を見初めた理由はなんだ?あの様子からして聞いても無駄か。

これは自分の眼で判断するしかない……彼女らの滞在期間で何か判れば良いが……黒髪黒目、国家有数の高魔力保持者――特徴がまるで幼き頃に聞かされた魔大陸の英雄のようだ…。

それに、リオという少年も気になる。まずは、調べやすい彼の魔法と家の関係から始めるか」

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