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秘伝のお団子でASMR?


 頭が痛くならないようチマチマと飲みつつ話に花を咲かせていると、あっという間に一時間近く経っていたようで。レイラが茹で上がったカスクスピーナを調理しにキッチンへと戻った。



「ただいま帰りましたー!」



 ちょうどそのタイミングでリオが帰ってきた。俺は今、レイラの部屋にお邪魔して飲んでるわけなんで、このまま息を潜めればバレなさそうではある。まぁ、迎えに行くんだけどな。


 階段を下りて一階のホールまで。酔ってはないが、体に酒を入れた状態でこれはちと怖いな。



「おー、いたいた。おかえり、リオ」


「えっ、先輩?」


「うーっす、ちょっと邪魔してるぜ~」


「あ、はい!全然、大歓迎ですっ!どうぞ、ゆっくりしてください!」


「おう、サンキューな……レイラと飲んでるんだが、リオもどうだ?」



 そういや、俺らはリオが飲み会に付き合うという謎の前提のもとでいたが……リオが断る可能性だってあるんだよな。



「行きますっ!あっ、その前に軽く体の汚れだけ落としてきますね―――~♪今日のおつまみはなんだろな~♪」



 ……即答だったわ。

 レイラもリオもどっか行ってるし、俺は部屋で大人しく待ってますかね。





「今日もお疲れ様ーっ!かんぱーいっ!」

「あいよ」

「はいっ、お疲れ様です!」


「――ぷはぁっ……く~っ!やっぱり、エールは雑に飲んでいいから良き!喉にクるこの感じがたまんないやっ」


「それには同意するけどよ……お前らのクランハウスはどんだけ酒類をため込んでるんだ?エールだけで四杯目だぞ、レイラ」


「あ、あはは……レイラはかなり飲みますからね…」


「んー、たくさん?ボクの稼ぎの半分以上がお酒に消えてるからさ。そんじょそこらの、飲み屋に負けない自信はあるよっ!」


「どこと勝負してんだか……ん、茹でたのは甘いんだな。しょっぱいものが欲しくなる……素揚げのやつと交互に食べるのヤバいな」


「あはっ!ほんとだ!手が止まんないやっ」


「お前さんは最初から止まってなかったろ。ほら、リオも食え」


「んっ!おいひいれすっ!――先輩の味がしますっ」



 いや、怖ーよ。なんだ、先輩の味って……いやまぁ、俺が作ったものではあるけどな?どこで判別してんだ。そんなに俺の作る料理って特徴あるのか……お母さんの味的なやつか?



「うんうんっ!ほんとに美味しいんだよねっ!あー、口が二つ欲しくなるよ~。お喋りもしたいし食べるのもやめたくないっ!」


「化け物の誕生だな……なんか、魔物にそういうヤツいなかったか?」


「たしか、魔大陸の方にいたような気がします……うわぁ、想像しただけでも人の顔に口が二つついてるのはちょっと……」


「えーっ、ひどーい!ボクの可愛いお顔で引くなんて……しくしく」


「いや、誰だって口二つあるのは気持ち悪いだろ。妖怪かなにかか?」


「ようかいが何かは知らないけどさ、ボクはお口が二つあるよー?上の口とー……下のお口ってね!」


「えっ……と…あ、あははー」

「くっそド下ネタじゃねぇか!」


「あっ、でもまだ咥えたことはないから口って言っていいのかなぁ……」


「いや、悩むところそこじゃねぇっ!ってか、お前さんの処女事情なんざ聞きたくなかったわ!」


「おーっ!そんなに早口でよく噛まずに処女事情って突っ込めたねっ!すごいっ!あ、ボクにツッコム……」


「お前は脳内まっピンクなのかっ?!ええい、下の方向に話を繋げてくんじゃあないっ!リオがパカパカ酒開けて現実逃避してっから!アホみたいな飲み方してっから!」


「あー……お酒がおいしいです……」


「あ、ほんとだっ……パカパカ…はっ!」


「すとぉぉっぷ!俺が悪かった!俺の言い回しが良くなかったなっ?」


「ま、お酒の席だから大丈夫っ!リオだってむっつりだから、聞いてないようでしっかり耳をたててるしさっ!」


「えっ、あ、いや…そ、そんなことはないですからねっ先輩っ!」



 ……そうだったのか、リオよ……まぁ、年頃だもんな。逆にそういうのに興味が全くないほうが不健全か。



「リオよ……今まで気付かなくて、すまんかったな」


「っ!うぅぅ……レイラのばかぁぁ!」


「アハハっ!いいじゃん、いいじゃん!性を悪いことのように思ってるのは、生命の在り方的にもよろしくないからさっ!」


「まぁ、それはその通りだな。というか、よくリオがむっつりだって分かったな。長年一緒に暮らしてきた俺は気付かなかったぞ?」


「そりゃあっ、一番バレたくない相手だもん。こーいうのは第三者が分かったりするんだよねー……さっきボクは口が二つあるなんて言ったけど、リオも上の口と――へぶっ!」


「ばかぁっ!レイラのばかばかばかあぁぁっ!……くすんっ」


「あいたたた……ごめんねー、ちょっと調子にのっちった…ほら、おっさん手作りのカスクスピーナだよー」


「……はぐっ………おいひぃ……」


「ごめんね?もう、隠し事をバラすような事はしないからさ?…許してほしいなーって」


「……許します………この前、勇気が欲しいって言ったのは僕ですし……」


「うん、それでも踏み込みすぎちゃった!許してくれてありがとねっ?さー!嫌なことは飲んで忘れちゃおーっ」


「はいっ!」



 ……ここは修羅場なのか?俺はいったい何を見せられているんだ……俺も酒飲んで忘れよ…。



「あ、そうだ!昨日、ボクの故郷からお団子の材料届いてて幾つか作ったんだけど、食べるー?収穫祭のときにたしか欲しいっておっさん言ってたよねっ?」


「おぉっ!欲しいっ!食べる!」


「ほーいっ、じゃあ持ってくるねー」



 まさか、本当に団子が存在してるだなんてな……もち米、ひいてはお米がこの世界にある可能性も出てきたわけだ。無ければ無いでよかったんだが、あるとなれば死ぬまでに一度は口にしたいところだぜ…。



「はい、持ってきたよー。リオの分もどーぞっ」


「わっ、ありがとうございます」


「かかってる蜜はボクの家伝のやつだから、このお団子が食べられるのはここだけだよっ!」



 ふむ、みたらし団子みたいな感じか……串から外して食べるとしますかね―――うめぇなぁ……醤油タレではなかったけど、食感も味もちゃんと団子だわ。タレは蜂蜜ベースか?意外と合うもんだな。



「食べ方はねー……って、おっさんは随分と上品に食べるんだね…」


「ん?あぁ…串を持って横から噛んで外してくのもいいんだが、タレ付いてるのは口回りがベタベタになるだろ?前もって外すのはこういう団子だけだ」


「あ、うん……じゃあさっ、リオにはボクが教えてあげるっ!」


「はい、よろしくお願いしますっ」


「にしし……まずはー、串を持って一つ団子を口に入れるでしょ?」


「ん!」


「んで、咀嚼音を出しつつ……鼻から抜けるような感じで声を漏らすっ!」


「クチッ、クチッ……んっ…」


「そうするとねっ、まるで男のブツを口淫してるかのような音――ひでぶッ!」


「なぁに変なこと教えてくれとんじゃぁ、このアホウっ!こっちまで久々の団子を吹き出しかけただろうがっ!」


「い、いったぁ……な、なにも頭をはたかなくたっていいじゃんかぁ……」


「…クチッ……んっ、せんぱい…おいひい…れすっ…」


「リオも悪のりするんじゃなぁぁいっ!」



 あの頃の純情なリオはどこへ行ってしまったんだ。いやまぁ、顔真っ赤にして恥ずかしがってるのは変わらないけどよ……それが余計に悪いことさせてるように思えてくるんだわ……おのれぇレイラめ…。




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