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酒のつまみVer.カスクスピーナ


「おーっ!この辺まで来るとさすがにたくさん落っこちてるねー」


「…だいぶ奥まで来たから、そりゃあな。こんだけカスクスピーナが生えてるんなら、他の魔物の心配はそこまでしなくても良さそうか」


「だねだねっ!じゃあ、さっそく採っていこー!目標はこの籠いっぱいっ」



 背負い籠いっぱいねぇ……依頼の指定数は俺のも含めて30個あればいいんだがな。お前さん、つまみでどれだけ食べるつもりなんだよ。

 しかも、カスクスピーナの実は棘さえ飛ばしてしまえば嵩張らない。こぶし大のサイズ感ではあるが、それでも背負い籠埋めるなら納品数の倍は余裕だぞ。



「まぁ、いっか……んで、レイラはどうやって採るつもりで?」


「ふふーん……ボクの得意な大楯を使うのさっ。みててね!――付与(エンチャント)"氷魔法"……これで、えいやぁー!」



 どや顔をしたレイラはおもむろに魔法を大楯に付与し、カスクスピーナの実が集まっているポイント目掛けて投げ飛ばした。

 すると、盾に付いた魔力に反応したのか、着弾地点はもとよりそこへ至る間のカスクスピーナの実までもが棘を発射した。



「うおっ、あっぶね!こっちに棘が数本飛んできたじゃねぇか」


「あはっ、数本くらいならおっさんは大丈夫でしょ!それよりほらっ、今ので十個近くは採れたんじゃないかなー!」


「いや、目に入ったら危険だろうが……まぁ、このペースならすぐかもな」


「でしょでしょー!いやぁ、我ながら天才だねっ。この方法なら、一つずつちまちま対応しなくて済むしさ。大楯も魔鉱素材だから傷つかないしっ」


「すごいすごい。天才だなー。んじゃ、その調子で頑張ってくれや」



 これ、俺がいっしょに行く意味なかっただろ。何にもすることないぞ……まぁ、一つも採らないで終わるってのも癪だし。なにより、寄生行為は好きじゃないんでね。俺は俺なりのやり方で採らせてもらいますか。


 いつもの背負い袋から取り出したるは、ボアの毛皮を三重にかさねて作ったラグマット。

 これを広げて、こうじゃっ!



「んで、後は近づくだけ…と――おー、刺さってる刺さってる……三重なら貫通しないんだよな。ボアの毛皮って意外と硬いんだぜ?」


「えっ……そんな方法があったんだ……」


「ん?あぁ、この方法は狩猟ギルドの連中にとっては馴染みのあるやり方だぞ。まぁ、冒険者だけやってるとボアとかはそんなに狩らないだろうし、知らなくても無理ないがな」


「なるほどねー……たしかにボアの討伐依頼ってめったに貼られないもんね。常設でしか買取りやってないしさー」


「まっ、動物の駆除や狩猟は冒険者畑じゃないってことだわ。役割分担ってやつだな」


「だねー……よーしっ、おっさんに負けないよう頑張るぞーっ!」



 おいおい……べつに勝負してるわけじゃないんだから、そんなに張り切らなくたっていいだろ。俺はこいつの棘も取っておきたいんだよ……もうちょっと、ゆっくりでいいんじゃないっすかねぇ。

 この棘、なかなか有用なんだわ……ポケダンの木の枝なみに攻撃力あるからな?植物なんで液体の浸透率も良いしよ。

 とはいえ、常に携帯してたら枯れてボロボロになるんで、今のところインベントリの肥やしになってしまっているが……日の目を浴びたのは片手で数えられる程度なのが事実だ。

 


「でも、ま……集められるもんは集めておきたいよな……って、もう半分くらい埋まってるじゃねぇか!こりゃ、移動にかけた時間の方が長くなりそうだな」


 

 結局、俺の予想が当たることになり……このあと体感10分と掛からないうちに、籠が異世界の栗で満タンになるのであった。





「たっだいまぁーっ!って言っても今日は誰もいないんだけどねっ!あ、リオは途中で帰ってくるかも?」


「こんな広い空間で一人酒をやろうとしてたのか、お前さんは……」


「まあねー、最近は日暮れには帰ってくるリオが付き合ってくれるけどさ。それまでは一人で飲んでるかな」


「仕事しろ、仕事」


「してるもーん!おつまみ探しのついでだけど、ちゃんと依頼は受けてるからね?ボクは仕事が早い人なのさっ」


「そうかい……んじゃ、リオが帰ってくる前につまみだけでも作っとくか」


「えー?ボクたちだけでも先に始めちゃおうよー。これだけ採ってきたんだから、早々になくならないと思うしね」


「……まぁ、仕事終わりに飲むって話だったしな。とりあえず、調理場に行こうぜ」


「おー!……あ、ボクが案内するから、着いてきてー!」



 来る度に思うが、ほんと……ひっろいクランハウスだよなぁ、ここは。もとは宿かなんかだとは聞いてるが……それにしては、調理場がだいぶ本格的なんだわ。魔道具が付いたキッチンなんて貴族街の家でしか見たことねぇぞ。今いる場所が平民区なのを疑いたくなる…。



「じゃ、ボクはこのカスクスピーナを茹でてくるよ!おっさんは残りの半分でなんか作るんだっけ?」


「まぁな。せっかくこれだけ調味料が揃ってるんだ……自由に使っていいと言われたからには、多少は凝りたいのよ」


「いいっすねー!たしか、おっさんの作るご飯は美味いんだよねっ?期待しちゃっても?」


「ご飯ってよりかは、酒に合うおつまみだけどな。甘さは控えめになるんで、好みが分かれるとは思うが」


「おー!ボクはそういう大人な味のやつも好きだから、全然いいよーっ。むしろ、ワインとかに合いそうで良き!」


「んじゃ、期待しててくれ」


「もっちろん!それじゃ、ボクはあっちで調理してるねーっ」


 調味料どころか油まで自由に使えるんだぜ?この世界に来てから初めて揚げ物を食べられるともなれば、そりゃテンションもばち上がりよ……久しく食べてないことと、年齢的な問題で胃が些か不安だが……まぁ、そんときはレイラと後から来るであろうリオに分ければいいしな。とりあえず、作るか。


 

 油の入ったボトル瓶を開けてみたんだが、すっげぇいい香りがするんだよな……もしかしなくても植物油。しかもオリーブみたいな何らかの果実を使ったやつだな、これ。数本同じ瓶があるから、使ってもいいんだろうが……かなりお高い代物なんだろうなぁ……まっ、遠慮なくだばだばっと鍋に入れるんだがな。


 後は油が熱する間にこいつらの皮むき作業を終わらせますかね。

 ところで、魔力で火を起こすコンロみたいな機能の魔道具を使ってるんだが……ちゃんと180度以上とかいくのかね、これ。適宜、油の様子を見るしかないか。



 ひとまず、艶々した殻のような皮を剥き終えたタイミング。油もいい感じに熱され、先程の懸念が消えたところで、剥いたばかりのカスクスピーナの実たちをトプンッと投入。


 味が渋い皮はつけたまんまだが……これが美味いんだわ。素揚げすることで渋皮がパリパリ食感になるし、中の白いところが渋皮によって油の吸収をガードされるんでちゃんとホクホクしている。渋みも抑えられて、中身の甘さのアクセントになるほどだ。


 先ほど採ってきた棘がスッと通ったのを確認して、油から引き上げる……出番があって良かったな、棘よ…。



「あとは塩……これは、胡椒か?――っぽいな。よし、どっちもを適当に振って…と」



 ほい、出来上がり。カスクスピーナの素揚げの完成だ。調理時間は驚きの十五分程度だぜ……ん!結構うまいな。思ったよりも、栗っぽい甘さも残っているしよ。この、ほのかな甘みがちょうど良い感じだ。

 それに、カスクスピーナは渋皮が少し厚めなのか、パリパリ食感がしっかりする。こりゃもはや衣レベルだな……うむ、我ながら上出来だ。


 あっちの様子は――まぁ、さすがに終わってるわけがないわな。栗は茹でると時間がどうしてもなぁ……たぶん、レイラはその時間を気にして、日暮れ前には戻ってこれるようにしていたんだと思うが……やっぱ酒のつまみは手軽かつ素早く作れたほうがいいだろ?俺はそうお父さんから教わったぜ。


 てなわけで、茹で終わるまでちょっと一杯やりましょうや。超スローペースなら量は飲めるからな、俺。連続して飲むとすぐ頭が痛くなるだけでよ……。


レオン「おーい、もうこっちは出来たぞ」

レイラ「うっそ!はやっ……」

レオン「ほれ、一つ食ってみ?」

レイラ「――うんっまあぁぁいっ!す、すっごいよっ、これぇ!たぶんオリーミラの油を使ったんだろうけど……こんな味になるだなんてっ…」

レオン「んじゃ茹で上がるまで、コレをつまみに軽く飲もうぜー」

レイラ「賛成っ!


―――あー、このパリパリ感がたまんないっすねぇ……お酒よりもこっちの手が止まんないや……」

レオン「………(リオの分、残ってるといいなぁ……)」

レイラ「うまっ……ワインもおいしっ………うんまっ―――」

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